表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/70

プロローグ


 静かに繰り返す波の音。空を行くカモメの鳴き声。

 南国の日差しを受けて砂浜は黄金に輝き、心地よい潮風がヤシの木を揺らす。

 まさに天国のような、完璧な昼下がりだった。

 ……その岬で繰り広げられている、地獄の籠城戦がなければ。


「楽園って聞いてたのにぃ!」


 叫びながら、新人の兵士が槍を振り下ろす。

 ぬめぬめとした青肌の魔物が頭を叩かれ、城壁から落ちていった。


「これじゃ地獄じゃないかぁ!」

「へこたれるなよ、新人! 泣いても叫んでも誰も助けにゃこねえんだ!」


 生傷だらけの古強者が、片手で槍を大きく薙ぎ払う。

 そして、空いた片手のバケツで魔物から吹き出した体液を集めた。

 たまに来る商人たちが、これを魔法薬の材料として買いつけるのだ。

 旧大陸で魔物が狩り尽くされた今の時代では、こんな素材ですら貴重品である。


「だが……確かにちょいと多すぎるぜ、こいつは!」


 いくら魔物を城壁から追い落としてもキリがない。

 次から次へと、海から〈サハギン〉の軍勢が城壁を登ってくる。


「え、援軍は! 援軍はまだぁ!?」

「来るかよ、んなもん!」


 城の各所から聞こえてくる叫び声が、だんだん悲痛なものに変わっていく。

 じわじわと城壁が占拠され、兵士たちが追い詰められていく。

 そして、彼らは防御塔の中に追い詰められた。

 絶望的な状況だった。


「船だ!」


 誰かが叫ぶ。

 怪我をして後ろで震えていた新人が、立ち上がって海を見る。


 その船は見たこともない旗を掲げていた。

 斜めに描かれた松明から、炎が尾を引いているような紋章だ。

 どこの勢力も、あんな旗は使っていない。


「……冒険者、ギルド?」


 単眼鏡で船の所属を見た見張りの男が、文字を読んで首を傾げた。


「冒険者ギルドって、なんだ?」



- - -



「急ぐぞ!」


 俺は右腕を突き出し、神へ助力を頼んだ。

 紋章が輝き、大きな追い風が吹く。

 帆船が急加速し、勢いのまま浜へ乗り上げた。

 周囲をサハギンが取り囲んでくる。


「行け!」


 船に乗った”冒険者”のグループが次々と降りていった。

 彼らにしてみれば現金がそこらに転がっているようなものだ。

 冒険者ギルドには、魔物素材を高価で買い取るシステムがある。

 倒せば倒すだけ金が貰えるのだ。やる気が違う。


 それに、彼らはギルドで売っている対魔物用の装備を使っている。

 誰でも効率的に戦えるように俺が考えた装備だ。

 魔物相手なら、対人用の戦術を流用している兵士たちより強い。

 さくさくとサハギンが片付けられていく。


「俺たちも行くぞ、エクトラ!」

「行くのだーっ! わがはいについてこい、アンリ!」


 角と翼の生え、四肢が鱗に覆われた少女が船から飛び降りる。

 その鋭い爪がサハギンを捕らえ、一瞬で切り刻んだ。


「わーはっは!」


 彼女はぴょこんと無駄に跳ねながら、大きく笑った。

 まったく、相変わらず子供みたいなやつだ。

 こんなのでも”冒険者の神”だというのだから、なんとも……。


「わがはいがサイキョーなのだ! 魚臭い連中はさっさと海に帰るのだー!」

「言ってる場合か! 救援を急ぐぞ!」


 俺も船から飛び降りて、サハギンを片付けながら城へと向かう。

 この程度、物の数ではない。あっという間に兵士たちの元へとたどり着いた。


「着いたのだー! 下僕がたくさんいるのだー! うわははー!」


 サハギンの血に塗れた人外少女のエクトラが、牙をむき出しに笑った。

 新人らしき兵士が、彼女を見て腰を抜かした。


「下僕とか言ってるから信者が増えないんだろうが!」

「いいのだ! わがはいは神様だぞー!」


 これで本当に神なんだから性質が悪い。

 でも、いいヤツなのは確かだ。それは間違いない。


「……あっ! アンリ! なんかすごいくさい……なまぐさい……!」


 彼女は自分の腕を嗅いで顔をしかめている。威厳ゼロだ。


「はいはい、後で洗ってやるから」


 俺は一歩前に出た。

 堂々と背筋を張って挨拶する。


「俺はアンリ・ギルマス。〈冒険者ギルド〉のマスターだ。ここの城主に話がある」


 少しだけ場の緊張が和らいだ。

 わけのわからない神様よりも、人間のほうがはるかに話しやすいんだろう。


「私が城主だ。この城を代表して、まずは感謝を……」

「礼はいい。助けるのは当然だ。本題に入ろう」

「本当に、謝礼の一つも要らないのか? 大きい男だな、お前は」


 彼は感服した様子だ。


「そのかわり、話がある。この島に冒険者ギルドの支部を作らせてくれ」

「冒険者ギルドか。それはいったい何なんだ?」


 城主が尋ねる。


「聞いてないのか?」

「いや、何も」

「まあ……イメージの通りだ。冒険者を集め、腕に見合う仕事を任せ、報酬を出す。その稼ぎで冒険者ギルドを大きくして、街を発展させ、住民の安全を確保する」

「……正気か? ここいら一帯を収めてる領主が、そんなことを許すのか?」

「領主はとっくに死んでいる」

「え?」

「俺がこっちにたどり着いた時には、もう街が滅びかけていたんだ。魔物にやられてな。成り行きで、俺が内政を請け負っている」


 それを聞き、城の兵士たちが顔を見合わせた。

 頼りにしていた相手が滅びかけていたのだから、俺達が来ないかぎり、彼らは見捨てられたも同然の状態だったのだ。


「物資と戦力の融通を効かせるために、各地に冒険者ギルドの支部が必要なんだ。いかんせん、俺たちが抱えているのは”冒険者”だからな。俺の一存では動かせない」

「なるほど……」


 城主は深刻な顔で考え込んだあと、頷いた。


「ならば、我々の命は冒険者ギルドに預けるほかない。支部設立は許可する。城の戦闘要員を冒険者として使っても構わない。かわりに、水と食料だけは定期的に送ってほしいのだが……」

「水と食料は無条件で送る。無理に戦力を出してもらう必要もない。冒険者になりたい者がいれば、俺たちギルドはいつでも受け入れるが」


 おお、と歓声が上がった。


「感謝する、アンリ・ギルマス。……お前はまさに、ギルマスになるために生まれてきたような男だな」


 そのつまらないジョークを言われるのは、これで何回目だろうか。

 

「ところで、その少女は?」


 俺の顔が曇ったことに気がついたのか、城主は話題を逸らした。


「われは〈冒険神〉エクトラ、天頂より灯もて導く冒険者の守護神なり! おまえらが崇める神様の名前だぞ、よーく覚えておくのだ!」


 彼女の名前を知っている者は、ここにはいない。

 過去、冒険者という存在が消えると共に、一度は誰からも忘れられた神だからだ。


「……本当に、神の一柱なのか? なら、万神殿(パンテオン)の神殿巫女や騎士などの付き人たちが張り付いているはずだが……」


 神だからといって、好き勝手にこの世界を闊歩できるわけではない。

 問題を起こせば他の神が怒りに来るし、神に仕えている万神殿の力も強い。

 それに、魔物や人間に倒される可能性だって普通にある。


「まさか、万神殿と関係のない野良の神か?」

「違う」

「なら、付き人はどこにいる? 確か、神は必ず神殿巫女を伴う必要があるはずだが」

「俺が神殿巫女だ」

「女なのか?」

「男だ」

「……?」


 城主は困惑した。


「書類のミスだ。俺は騎士になるはずだったが、何故か書類上では巫女になっていた。気付いた時には儀式が終わっていて、取り返しのつかない状況だった」


 色々とあって冒険者の神の付き人に選ばれ、冒険者ギルドを作ることになったわけだ。

 結果的には、そのミスも悪くない結果を生んだわけだが……。


「そ、それは……大変そうだな」

「ああ。孤立したよ」


 確かに大変だった。


「少し、過去の話をしてもいいか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ