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反逆の魔法詩  作者: 白月綱歩
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魔法戦

舞台設定は森。

アベルは鬱蒼とした深い森の木々の中を駆け抜ける。

辺りは人が手入れされた跡は無く、雑草が自由に生えていて木の根などでデコボコしていて非常に走りづらい。

でも止まる訳にもいかない、今足を止めたら敵の魔法がアベルの体を穿つだろう。

その証拠に先程通った道はとたんに近くの木々と共に爆ぜていき間一髪だったことがわかる。

相対する敵はラルク=エルメス。

数年前に寿命で死んだ有名で腕の立つ竜狩りである。

丸刈りの白髪に顔の大部分に一つの引っ掻き傷があり片眼を眼帯にしている老兵だ。

片眼が一見見えないように見えるがあの眼帯は失った視界を補う魔道具で死角に入り込んだと思って油断してはいけない。

それに魔獣の中でも頂点に立つ竜を狩れる以上生半可な実力ではないさっきの攻撃も当てれなかったよりは当てようとしなかったと考えるのが妥当だろう。

魔法を当てるには距離が離れすぎているしこちらが動き回っているから当たってないとはいえこの精度は凄まじいと言わざるおえない。

しかしこの攻撃は止む気配はなく、だとすれば狙いは何か。

狙いなら恐らく誘導、だがどこに?答えならすぐに出てくる。

走り続けた先に木々がなく少し開けた戦うのにうってつけな場所が視界の先に現れる。

誘っていたのだ、ここで決着をつけようと。

ならこちら側もそれに答えねばならない。

駆け出す足にもっと力を込め大きく飛ぶ空中で一回りするようにして、同時に懐から杖を取り出し、そこの隙を逃すまいと雷が放たれる。

空中に居る以上いくら魔法使いでも回避行動を取るのは容易ではない。

身体能力は通常の人と変わらずこういう時に役立つ箒に準ずる魔道具もない。

だがそこで諦めるにはあまりにも魔法使いにしては潔すぎる。

アベルは空中を蹴りもう一度飛ぶ。

肉体だけではあり得ないような空中移動、魔法無しではこんなことは出来はしない。

だがアベルは驚くことに杖から魔法を放っていないのだ。

まず難易度も高く必要性も少ないため魔法使いでは覚えない技能、仕組みは杖を通じてではなく体から魔力を出すことだ。

魔法使いは元より杖を抜きに魔法を繰り出すことは出来ない。

杖を使わずに魔力を出すと体に不可がかかり簡単に死んでしまうからだ。

だが杖を使わなくてもその魔力を巧みに操ることが出来るのなら自らを傷付けずに衝撃波を出すことが出来る。

それが空中を蹴り雷を避けた技の正体だ。

そしてわざわざ体を一回転させたのは魔法が放たれた位置を確認するため。

流石に魔法を撃ってから動かないような木偶の坊では無いだろうから少なからず動いて居るだろう。

そしてアベルは揺れる茂み、葉と服が擦れる音、不自然な影を絶対に見逃さない。

相手は狩人だ。

機を見て獲物を仕留めるなんて基本中の基本。竜なんて生き物と真っ正面から戦闘して勝てる魔法使いなんてまず居ない。

竜狩りだから魔法戦闘能力に秀でてるのは当たり前だがそのセオリーからは外れないだろう。

だからこそ時間が経てばアベルはだんだんと不利になっていく。

決めるとすれば速攻で決着をつける他ない。

例え相手がそれを予期して対策をしていようとも。

すぐさま雷の魔法がアベルに向けて様々な方向から飛来する。

前方真正面から三発、左右も同じく三発ずつ上下には円を描くように配置された雷が上に五つ下に7つ計二十。

最善策は魔力を出来るだけ消費せず被弾も抑えられる後ろ斜め上に飛ぶことだろう。

上の魔法はアベルがこのまま進めばぶつかるであろう位置に向かっているからだ。

対し下の魔法は地面に降り立つのを防ぐような軌道になっている。左右の魔法も同じように上へと誘導している。

上に行って回避した時になんらかの攻撃はしてくるだろうそれを防ぐ自信はある。

だが避けた先の魔法は攻撃ではなく時間稼ぎだ。

折角捉えたのにここで見失う訳にはいかない。

手に入れたチャンスを棒に振る訳にはいかない。

足に魔力を込める。

後ろへ退く為ではなく前へ敵との距離を詰める為に。

前に迫る雷槍を魔法を持って逸らす体の真横を掠めた雷槍に目もくれず足へと送る魔力を途切れさせずに一歩また一歩と踏み込んで行く。

踏み込む度に体が加速し敵を逃すまいと倒すビジョンを浮かべる。

もう一度、今度は直径が身の丈を越える雷槍がアベルを倒さんと迫る。

今更魔法のイメージ解いて杖に貯めた魔力を貯めなおす訳にはいかない。

だとすればこの攻撃を避ける以外に選択肢はない。

斜め前下に避けようと体勢を変えようとした瞬間、つい数メートル先にまで迫った雷槍が急に散らばり人の腕ほどのサイズの雷槍の弾幕が展開される。

今まで通りに空を蹴り移動するのでは避けきれない密度、魔法で捌くにはあまりにも数と威力が段違いすぎて現実的ではない。

このままでは数秒後には息をしていないだろう。

だがここで諦めるなら魔法使いとしての在り方が問われる。

そして彼もここで諦めて身を投げ出すような生半可な覚悟はしていない。

魔力で宙を蹴る技術の応用。

体が落ちずに宙に浮くギリギリで魔力を操作出来ればその体は跳ぶのではなく宙を歩くことができる。

魔力操作を極めた者だけができる絶技。

アベルは戦う事において攻撃魔法が特段に上手いわけではない。

魔法の一撃を極めるよりも相手の攻撃を避ける事に鍛錬を積んでいる。

魔法戦において一撃で決着がつくなど不可能に近い、多岐に渡る防御方法即死でなければ回復魔法による治癒で倒せない可能性もあり固有魔法以外で火力の差を付けるのは難しい。

そして死んでも蘇る事ができる固有魔法も存在はする。

要するに魔法使いを倒すのはそれほどに難しい。

アベルは素早い身のこなしで雷槍の弾幕を避けきる。

数百と迫る雷槍の全てを。

その上速度を下げずに敵との距離を詰める。

移動速度は魔力を感知されないように足で移動しているラルクより魔力を効率的に使い衝撃に押されるように移動しているアベルの方が早い。

段々と距離が近づき何となくで把握していた距離がしっかりと目視できるまでに近づく。

先程までラルクが放っていた遠距離から敵の行動を予測し撃つ避けられやすい魔法ではなく回避の難易度が何倍にも上がり魔法戦闘ではここからが激しさを増し本番だと言われる距離に入る。

流石に相手も逃げる気が失せたのかこちらに向き直し杖を構える。

いつにない緊張感がアベルを包む。

杖を握る右手に自然と力が入る。

合図は要らなかった。

アベルが吹き飛ばされたようにして一気に距離を詰めるさっきまでよりも一段と早く出力を上げている。

魔力により体に傷ができるギリギリのライン。

これまでこの出力で使っていなかったのは初見殺しをするためと単純に操作を誤り自滅するリスクが高まるからだ。

アベルは魔法戦闘において避けを極めるように練習を積んでいる。

どんな火力でも倒せるかわからない魔法使い相手において一撃を極めるよりも回避を極め、隙を図り相手を倒す方が合理的だと判断したからだ。

このレベルに技術を上げるまで人生の殆どは費やした。

ここまで使いこなせるのも数万人に一人の才能、ただの才能のある魔法使いでも先程の少し緩めた速度すらも出せない。

異常という言葉の枠に収まらないレベルでの完成度、如何に他の魔法を捨て人生の殆どを費やしたとはいえだ。

彼の他にもここまで巧みに空を駆けた魔法使いは1人だけ居るが逆に言えば今まで数万人に及ぶ魔法使いが居たというのに2人しか居ないというのは稀で彼が持つ才能の規模がわかる。

だが逆に言えばこの技術に人生のほとんどを費やしているため彼は軽い基礎の一般魔法ぐらいしか使えない。

つまり異常な火力の魔法ですら死にずらい魔法使いに対して普通程度の火力の魔法しか持ち合わせていないということだ。

だから手段としては1つ。不意を突くしかない。

馬鹿正直に真正面から戦っては絶対に勝てない。

アベルが持つ火力では順当に対処されて終わりだ。

この状況をひっくり返す手ならある。

あとは全力でぶつかるだけだ。

移動に使う魔力の出を全く抑えずにラルク目掛けて一直線に進む。

真っ直ぐに飛び出した事や一気に速度を上げた事も相まってラルクは対処に遅れる。

だが想定外の事が起きても敵を崩すまでには至らなかった。

表情をまるで崩さずこれまで通り雷槍を撃ってくる。

カスるだけで人を死に至らしめられるそれを避けない。

何の抵抗もせずに真っ直ぐぶつかっていく。

だがそれだけでは魔法の攻撃は止まない。

アベルを確実に仕留めるまでは。

魔法の放たれる数がどんどん上がる。

最初はひとつだったのが次第にアベルの人影を確認できないほどに。

だがそれに対して相手の微塵も速度が下がらない、そして真っ直ぐに距離が縮まる。

ついに目測で百メートルの距離は越えるた。

流石のラルクも目を疑い幻術の類かと周りを見渡す魔力の気配を探す。

だが、その隙が命取りだった。

アベルは目の前まで迫り、杖にはしっかりと魔力が込められている。

ここから巻き返す手はまず無い。

あれほどの数の魔法が直撃して無傷だったのはアベルの固有魔法によるものだ。

受けた傷を瞬時に治す彼だけの魔法。

それが強引にこの戦況を生み出していた。

もちろん凄まじく回復する分魔力は持っていかれる。

この分だとあと持って数分、だが掴んだ敵の右手と左手の杖だけは絶対に離さない。

彼から放たれる雷がラルクを穿った。


竜狩りは基本戦闘時に待つ。徹底的に敵の隙を伺い完全に倒せる確信を得たら行動に移すものだ。

そう教わる。そうでもしないと逃げながら戦わないと勝てないような敵、それが竜だ。

魔獣の中でも最高位、魔素に完全に適応した生き物だけが認定される竜という証。

そこから放たれる魔法は人の形を保っている魔法使いの非ではない。

濃い魔素に適応するために体を変化させ外敵を排除するために最適化された火力。

真正面から争えば国1つ滅ぼすことも可能であろう。

竜狩りはそれほどに危険なのだ。

カスるどころかその風圧だけで死にかねないほどに。

そんな龍に高々数人で挑む、その暴挙は体に剣を突き刺す行為よりも愚かで死ぬのが当たり前な世界。

そんな環境を紙一重で生き残っていかなければならないのが竜狩り。

そんな彼が最後に何もせずに終わるのか?

答えは否である。

敵が隙を見せないならば強引に作る。

そして勝機を掴む。

全く持って同じ意見だと、そして奥の手を持っているのはあべるだけではない。

アベルが魔法を放ちラルクが倒される、そのはずだった。

魔法が当たったと思った矢先しっかりと掴んでいたはずのラルクの腕の感触が消える。

力んだままだった指が空を切る。

背後の気配に気付いて振り向く間もなく一閃の雷槍が彼の背を穿つ。

固有魔法のお陰で死を免れ一刻も早くこの場から離れようと足に力を込める。

だが、黙って見逃すような相手ではない。

一歩踏み出した次の瞬間、足が膝下から消えた。

一瞬後に猛烈な痛みが走る、魔法によって焼かれたのだ。

思わず叫びたくもなるが痛みだけなら戦闘続行に問題は無い。

そして治癒が間に合わないほどの瞬間火力、そうそう連発はできないだろうがそれでも脅威だ。

足は少しずつ治っていっているが間に合わない。

体制を立て直す為に距離をはかるのは不可能だ。

ならば魔力が尽きる前に、ここで決着を付けるしかない。

数多もの猛攻を身一つで耐えきる。

幸い先程の魔法じゃなければ治癒は間に合う。

体に走る様々な痛み、感じすぎてもはや感覚が麻痺するような、杖を握る手の感触が、吸う息の風が、視界すらも邪魔するような痛み。

だが止まらない、いつかのあの日を思い出すように。

目指す場所を見据えるように。

叶える術を探すように。

ただ空を踏み杖を向ける。

勝敗は決した。


「───はぁ、はぁ…。」

学園が用意した寮の一室、木製の机と椅子、それに一人用のベットしか家具がない窓付きの部屋でアベルはベットに腰掛けていた。

おびただしい汗と激しい息切れ。

先程までただ目を閉じ座ってたとはもはや誰も想像はつかないだろう。

アベルは自分の体の感触を確かめるように指を開いたり閉じたり体を触ったりする。

脳に伝わるのは汗ばんでベトベトしている体の感触と汗臭い匂いだ。

イメージトレーニングを終えてすぐの感覚の差異はいつまで経っても慣れそうにない。

先程アベルが行っていたのはイメージトレーニング。

ただし現実と同じように六感が作用し少ししか違いが見分けられないほどの高精度だが。

人間にはない機能の一つだ。

結果で言えば彼は負けた。

敗因は経験と彼の詰めの甘さにより。

最後は定期的に魔法を撃たれ固有魔法を解除出来ないようにしながら逃げられジリ貧で負けてしまった。

この戦い方の弱いところを突かれ簡単に対策されたのだ。

次同じ局面になっても負けないように対策を施さねばならない。

はっきり言って前途多難だ、それでも前に進んで来たししっかりと実感出来るほどに上達してきた。

それにここは学び舎だ。

至らないところがあるなら直していけばいい。

外を見ると日は沈みかけていてそろそろ食堂で夜ご飯が販売される時刻だ。

今日は簡単な施設紹介をされそのまま自由行動となった。

明日からは本格的に授業も始まり疲れるだろうから今の内に英気を養っておけとの事だ。

少し汗を拭くと部屋の外からアベルを呼ぶ声が響く。

恐らくジルとレイラだろう。

その声に今行く、とだけ返事をしドアノブに手をかけた…


ちょっと時間空いたけど投稿しました。戦闘シーン書くの難しい…終わりが若干雑だが気にするな…これからはもっと上手くやります…。ここまで読んでくださりありがとうございます。良ければ感想お願いします。

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