プロローグ+第一章 入学
まるで目を閉じた時のようにそこには何もない。
ただただ暗くて何もない空間が広がっている。
本当は何かしらの建造物があるのかも知れないが彼の視覚は一寸いや、零距離から先さえ見えない。
それほど迄にここには光が無い。
異常なのはそれだけじゃない。
息をすれば肺に向かって流れてくる空気の感覚も、手を叩いても耳を鳴らす音も、匂いが鼻腔を擽る事もない。
唯一感じられるのは自分が五体満足でここに居ることを証明してくれている触覚。
身に纏う服と触れ合う体の感覚が彼を正気にしていた。
触覚すら反応もしなければ彼は既に発狂したであろう違和感しか存在しない世界。
そんな事を確認すると同時にこれが夢だと認識する。
魔法の才能があるほど夢で自由に動けると言う噂があるがそれとはなんら関係なくこの夢を見るのが数えるのも気が滅入るほどの経験からだ。
そして現実では決して存在し得ない程の恐怖と緊張とそれを上回る覚悟と殺意が彼の胸に沸き上がる。
暗闇のただ一点を見つめて。
そこから先は一度も見たことがない。
でも少年は知っている。
これは彼の記憶であると、なんらかの理由でそれが流れ込んで来たのだと。
そして、間もなくして最上で最悪の物語が始まる。
魔法使いは『人間』とは異なる『生き物』である。
起源はおよそ数百年前、有史以来の大災害が人類を襲った。
いや大災害と言う括りの言葉では収まらない。
それは人類をそのまま滅ぼすであろう程の危機。
一度目の轟音と衝撃で幾つもの国、何万もの人々がダース単位で消し飛んだ。
しかし人類の危機はそれだけでは収まらない。
光が消えた。
衝撃と共に地面を揺らし立ち込めた砂や塵が空を覆い太陽からの光が閉ざされ熱が届かない。
運良く生き残った人々は今までのしがらみも信念も己すらも捨ててただ、神に祈った。
自らの行いを悔い生き残りたいと、絶対的な力を持つ神にただただひたすら願った。
願いが届いたのかはたまた見るに見かねたのかもしくはその両者か、どちらにせよ人類は救われた。
神が遣わした魔法と天使によって。
それからと言うもの人類は一つの神を信じ魔法を日常生活に用いてきた。
魔法使いになることによって。
人類はそもそも魔法なんてものを行使出来るように体が作られてはいない。
そもそもとして神がこの世に新たに追加したものだからだ。
魔法使いは人間の体を1から再構築し魔法が撃てるように作り変えられた生き物である。
基本的な体の構造は変わらないが第六感『魔覚』や個人の才能や能力に応じて髪の色や目の色等が変化するのが主な違いだろう。
しかしそれだけで魔法が撃てるか?と言われれば違う。
魔法使いになるにも変化するタイミングやそれから体が慣じむまでに激痛が走るし魔法を撃とうにもまともに魔力を扱えるましてや魔法として撃ち出したりするなどは不可能に近い。
だからこそ魔法使いは杖を所持する。
人類が産み出しだ兵器に銃と言うものがあるが、生身の人間に火薬と弾を持たせたところで何も出来ないのと同じだ。
要は魔力と言う要素を魔法として行使出来る機関が必要なのだ。
火薬を効率良く使い弾を飛ばす銃のように。
魔法使いの魔力を効率良く練り上げ具現化するための杖が。
それ以外にも移動手段や魔法使いならではのものを並べると途方もなく長い。
だが魔法がもたらしたのは決して良い物だけでは無かった。
魔法を行使する時には必ず微弱だが魔力が放出される。
使用した魔力量に対して放出される魔力量はどれ程その魔法使いのレベルが高いかを見定める基準にもなるが決して零には出来ないように出来ている。
そうして漏れでた魔素が空気中に含まれる。
すると、魔法の元である魔素はこの世に無かったものなので魔法で品種改良されていない作物が育たなかったり、雲に反応を起こし氷や炎の雨が降ったりと自然災害も起こる。
問題なのはそれだけじゃない。
植物や動物が魔素を吸い込み希に適応すると、その生物は魔獣になる。
普通の生物ではあり得ない身体能力や取り込んだ魔素の量によって物理法則を無視して飛んだり炎を吹いたりと色々な突然変異を起こす。
それらに対処するのは勿論魔法使いだ。
魔法使いになるのは肉体にも精神にもリスクがある。
人類の全員は魔法使いではない、魔法使いと普通人の共生が今社会に求められている問題ともなっている。
魔法使いの研究ジャンルは多岐に渡る。
そもそもとして魔法使いの年齢が痛みや変化に体が耐えれる十代後半からになるため多くても複数人グループで研究する者が多い。
良くも悪くも最低限の情報共有の中、魔法は発展していたのだがあとから魔法使いになった人々が先に進んでいたのにも関わらずそれを知れずに研究してしまい全く同じような研究論文を知らずに出してしまうケースが増えてしまった。
その為、情報共有兼若い魔法使いの育成をするため世界初魔法学校が建てられることになった。
それが現在世界唯一の魔法学院。
アンズベルム学院学校は面積で言うと約四平方キロメートル。
中には生徒や先生、魔道研究をする人々が住む寮、日常の品々からちょっとした魔法薬など様々な物が売っている購買、魔法戦闘が唯一許可される闘技場、上げれば地下を含め数十に渡る施設が当時の最先端の魔法を用い作られている。
学院敷地内も凄いが一度領土の外を出てみるとそこにはほぼ全ての魔法植物が群生している。
ある程度危険度の低いものなら魔獣も存在しておりここを越える条件を持つ研究所はおろか、こことまともに比べることが出来る研究所も指で数える程度しかないほどの設備。
学校の中には情報共有の為にこの世の魔法の論文など仮説から憶測のレベルを出ないものまで集められた図書館もある。
魔法を極めんとする者の殆どはここに住んでいるのもこういう理由からだろう。
二つ目の学院が作られないのもその便利さ故か労力をを惜しんでるのか魔法使いの数が少ないのが理由か。
何はともあれそこには魔法使いが良く集まるのだ。
それ以外の魔法に関するものが良くも悪くも。
一番近くの人里ですら数キロ先の山奥。
そこには人が踏みいることは無く、鬱蒼とした木々が不規則に並んでおり小型の生物や草木が自由に群生していた。
そこには一人だけ人間が暮らしている。
一部だけ木が斬り倒され質素なログハウスが建っていて裏には畑なんかもある。
まるでたった一人の少年が住んでいるとは思えない環境だがたまに人里におりる時に依頼を受けたりしてまだ未熟ながらも魔法使いとして生計を立てて畑や周囲の森では得られない必需品を購入している。
普通の人間と違い魔法使いは成り立てでも努力と才能次第ではある程度の攻撃魔法は使えるようにはなる。
だから害獣駆除などの仕事を請け負っているのだ。
時刻は朝の五時過ぎ、眠たげに目に擦らせながら丸太を二つ切って形を軽く整え並べた木の土台に良く行く人里で貰った大きな麻袋に藁を詰めただけのものに動物の皮を毛布代わりに敷いた簡易なベットから出る。
彼の名前はアベル=アイナート齢十五歳の少年だ。
まるで雪のように白い髪でやや濃い青藍の瞳。
背丈は年相応で髪は邪魔にならない程度に切ってある。
髪色と目の色が表すのは固有魔法への多大な適正と回復魔法の適正。
魔法は主に二種類に分けられる。
一つは魔力量によっては使えない魔法も勿論出てくるが魔法使いなら全員が使える一般魔法。
そしてもう一つが個人の魔力の特性やそれぞれのイメージを基盤に放つ固有魔法だ。
固有魔法はまず同一人物でないと再現は出来ない。
まるで懐中時計のような精密さで扱うため歯車となる魔力の性質や体の適正やイメージが少しでもずれると別の魔法になってしまう。
固有魔法は基本的に努力の領域だ。
固有魔法はその人だけにしか出来ないため他の魔法使いの出る幕はない。
どのような意思でどのような魔法を作るのか、個人の適正などを考慮して作る魔法は一般魔法と違い自由度が高い。
有名な物を上げると歴史に名を残す大魔法使いのミルギルの固有魔法、『癒慈雨』天候を操り雨を降らせ雨に当たった生物を関係なく傷を癒す治癒魔法。
回復魔法史上最高レベルの範囲と致命傷の傷でも命を繋ぐ程度には治す驚異の範囲と回復力。
固有魔法ならではだが才能と魔法適正となにより本人の努力により成り立つ大魔法だ。
レベルが高すぎて下位互換すら固有魔法で作られていない。
その他にも大雑把な攻撃魔法とか治癒魔法では出来ない物は固有魔法で行われている。
魔力量が無くとも繊細な作業であれば一般魔法では難しいので魔力量の乏しい魔法使いは固有魔法を使い生計を立てることになるだろう。
ログハウスは小さく中にはベットと衣類、動物などに漁られないように食糧しかなく最低限の機能に留まっていて家と言うよりは物置小屋で寝泊まりしている感覚に近い。
裏の畑以外にも外には魔法の練習がてら石を切り崩して作った釜戸、井戸がある。
彼の朝の日課は魔法の練習だ。
杖を木に向け魔法のイメージを練る。
攻撃力の無いただ水を発射するだけの作業。
段々と魔力を込める量を増やし手のひら程度だった水の玉が人の頭ほどの大きさになり二十回を過ぎる頃には人よりも大きな水の塊を生成する。
魔法をぶつけていた木の周囲は大量の水を土が吸いややぬかるんできた。
魔力量を増やし段々と体が慣れ目も覚めてきた彼は練習を次のステップへと進める。
水の玉を先程のように真っ直ぐに飛ばすのではなく動きをつける。
カーブをつけたりジグザグに動かしたり木の枝を投げそれを正確に撃ち抜く。
一般魔法には臨機応変に軌道を変え対応出来る万能さは兼ね備えていない。
あらかじめに通るルートのイメージを練り予測で当てる。
どれだけ魔力を込めて魔法が撃てるかと言う事に並びどれ程魔法を自由に操れるかと言うことは魔法を学ぶにおいて重要な基礎とされる。
イメージに関しては一般魔法に関してはなんら難しいことはない。
師となる人物が魔法を放ちそれを目に焼き付けておけばある程度は魔法を使える。
だが問題なのは如何なる状況において冷静にイメージを浮かばせ魔法が撃てるか?と言うことだ。
実際魔法戦闘では相手に恐怖を煽ったりする行為は有効で、相手の魔法のイメージを阻害し戦意を喪失させることが対魔法テロへの対策の一つとして研究もなされている。
今日は依頼をされていなく冷静さを試せる相手もいない。
軽く息を整えながら袖で汗を拭く。
今日は予定がないから朝食を食べ終えたらもう少し体を動かそう。
そんなことを考えながら明日の準備と朝食の準備を同時進行で進める。
明日はアンズベルム魔法学園への入学式だ。
世界に一つだけの魔法学園故に敷居がとても高かった。
募集人数は設けられていないが一定以上の力のあるものしか入れなく魔法使いとして名だたる家は厳しい訓練を積ませるそうだ。
受け付ける年齢幅が広いからか魔法使いの人数が少ないとはいえ今年は異例の三十人越え、それも例年より才能のある者達が集まったと聞いて内心では落ち着かない。
未知なる明日への空想とまだ見ぬ仲間への期待と緊張が主に、その他にも様々な感情がアベルの中を駆け巡る。
準備を終えて、朝食を食べ始める。
明日はどんな日になるだろうか?そしてこれからをどんな日々にしていこうかそれだけを練りながら。
今日はアンズベルム魔法学院は新入生の入学する日だ。
魔法で天候操作されて雲一つない空に魔法で飛ぶことが出来ても越えるのは骨が折れる見上げるのも苦労するほど高い薄茶色の塀。
見た目上はただのレンガだが並々ならぬ強度を魔法により実現しているのだろう外で魔法行使をする授業も行うと聞くが間近で見ても傷一つも見えない。
そしてやけに重厚感があり鉄のような質感の塀と同じ高さでどんな大きな生物であろうと通れそうな広い横幅の扉。
その前に三十二名の生徒が並んでいる。
その中でアベルはある人物を目を離さずに眺めていた。
理由はすぐには目を離せないほど魔法使いとして完成していたからだ。
生徒達よりも少し前、扉の目の前に立った男。
ブィルソン=ノイツはやや細身で高身長、魔法使いではまず珍しい黒髪に黒目で恐らく元の髪色と瞳の色を保っている。
恐らく東の出だろうが明らかに背が高い、混血だろう。
そこまで予想してアベルはもう一度身震いする。
驚いているのは珍しいからでは決してない。
それならアベルの白髪もかなり珍しい部類に入るだろう、だから驚いたのはその滲み出る魔力からだ。
多少腕に覚えがあるであろう同級生の殆どが彼とのレベルの違いに驚愕する。
そして同時に覚悟する。
自分達がこれから越えねばならない壁はこれ程にまで大きく、そして偉大なのだと。
ブィルソンはメガネ越しに優しい視線を崩さぬまま満足気に頷く。
「うんうん、今年はかなり多いね。才がある者達だと聞いてはいたけど、凄く良いね。教え甲斐があるよ。」
そういって校門の扉を指差し、
「まあ見ての通りここはこの学院の校門だね、君たちに一つ課題をだそう。この学院の中に入ろうか。まあ入れそうにないなら最悪僕が少しだけ手助けするけど、皆ここに自由に行き来するくらいの力を持ってるしね。審査を見てなかった僕なりに君たちの力を知りたいんだ。僕が受け持つわけだしね。」
なんて生徒の前から校門の横の辺りに移動する。
どこから取り出したのかわからないが気付けば椅子に腰かけていてしばらくは観戦するつもりらしい。
そして生徒が二つに割れる、一人で観察しどうすればここを通れば良いか考える者と、人と協力を考える者。
最初に教師に助けを求めたり考えることすら始められない未熟者ならここには居ない。
ここは世界唯一の魔法学院、並々ならぬ努力と才能の両立によりようやくスタートに立てるのがこの場所。
魔法使いとしての歴は浅いが現代の一般魔法使い以上の実力と魔法使いとしての心意気は身に付けている。
は校門の扉に目をやるパッと見でわかるように金属製で表面上では細工は無いように見える。
だが、力任せに押して開くような代物なら魔法学院の扉は勤まらない。
何か魔法を使って開ける仕組みがあるはずだ。
この光沢感どこかで見たような気がする。
「なあ、あんた見たところこの扉についてなんか思い付いたんじゃないのか?」
「ああ、見たところ魔法を通しそうなんだがどの金属かまでは分からない。俺はアベル=アイナートだよろしく。そっちもなんか思い付いた事があるなら情報共有してくれると助かる。」
話しかけてきたのはアベルより少し大柄で拳一個分は背の高い茶髪緑目の男。
年齢は十八歳ぐらいだろうか?もう一人女の子を連れておりそっちは水色の髪に同じく水色の目をしている。
「よろしく、アベル。俺の名はジル=バートリ、隣のが俺の幼馴染みのレイラ=ネルソンだ。ジルとレイで良い。俺達も考えては見たんだがさっぱりでな。家の図書でも漁ればそれらしいのを見かけると思うんだが…魔法を通す以外に何かわかることはあるか?」
再び扉に目をやる。
「一から調べるしかないな。ジル、レイ、俺は魔力直接流して調べてみるからそっちは塀の上を越えられるかどうかと魔法で何かしら細工がされてないか調べてくれ。」
アベルは扉へと近づく。他の生徒達も動き始め各々扉へと近付き始める。
しかし調べても一向にわかる気配がしない。
ジルとレイに再開して聞いてみたが塀より上は不当な侵入者を迎撃する仕組みがあるらしく飛ばした石ころが一瞬で溶かされたらしい。
それを見かけたブィルソンは「上から入るなら黒焦げにならないようにしなよ?生徒の死体は見たくないからね。」と単なる脅しだとは思えない事を言い、そして塀のどこを見ても何かしらの細工を発見することは出来ず手詰まりとなった。
にしても扉を開ける手立ては他の生徒も見つからないらしい。
そして一人の生徒が口を開く。
「無駄だ。そいつはオリジナルの合金で出来てるからまず魔力ぐらいなら流せても魔法はほぼ通用しないから魔法での硬化も含めて耐久力は俺らじゃ破れんだろう。そして外からの細工は元から存在しない。」
まるで造形品のように整った割れ物のような金髪にそれに対して真っ赤に燃え盛る炎を彷彿とさせる赤い目。
そして纏う雰囲気は群れの頂点に君臨する獅子のように鋭い。
周囲を高圧的に見渡す彼に殆どの生徒がたじろぐ。
彼は他の生徒に比べて頭ひとつ飛び抜けて実力が高い、それも一つの要因だ。
だが怯まない生徒もいる。
「僕はルイス=ブィスコンティだ、よろしく。君も名乗ってくれないかい?そして、君はなぜそう言えるんだい?見たところさっきから扉を見るだけで触りもしてないじゃないか。」
ジルと同じで茶髪で緑目だがこちらはどちらも色が濃い、攻撃魔法が得意な証だ。
他の生徒は相談しあい動き出すなかで一人だけ動いていないのは良く目立つ、力を持っていれば尚更に。
「俺の名前はレオ=ファザールだ覚えておけ。まあ疑問に思うのも当然か。まず一つ、扉の金属を俺は見たことがない。魔法使いが使うような金属なら覚えているんだが、万が一俺が覚えてないものがあるとしても、曲がり形にもこれほどの数の魔法使いが居て何で出来ているかさっぱりわからんのはおかしいだろう。」
ここにいる全生徒が唖然とした。
確かに頭の隅にはあっただろう疑問。
魔法使いという常識外で生きてきたからこそ不変であった物への信用と魔法により調べる情報量の増加によりもしかしたら手違いがあったのかも知れないと思っていたのだ。
今調べた事実を無かったことにして。
思った通りの反応を得られたのかレオは続ける。
「おかしいところは他にもある。外から中に入るための細工が無い、その扉にもだ。取っ手もなければ開く仕組みにすらなってない、通常開くであろう真ん中が繋がっていて扉が開くときに軸になるものもない。そもそもとしてこれは扉なのか?一見大型生物も研究用に入れるようにしてあるように見えるが俺はこの学院が大型の研究してるなんて話を聞いたことがない、隠蔽してるんじゃなくて本当にここではしてないんじゃないか?そして最後に一つ、最初そこの先生は一言もその扉から入れとは言っていない。学園の中に入れと言っただけだ。だから上から入るんだろ?侵入者対策であろう攻撃を防いで。」
目を向けられたブィルソンは少し面白そうに目を細め諦めたように口を開く。
「いやー、流石学院長の息子なだけあるね。その通りだよ。ここは基本出入りする時はこの塀を越えることになる。じゃあそんな流石な君に質問だ。君ならこの塀をどう越える?」
やや挑発にも近い発言、レオは気にもとめない、代わりに当たり前だろう?とでも言うかのようにすぐに言葉を返す。
「どうにかして侵入者迎撃用の攻撃を防ぐしかないだろう。魔法攻撃への防御方法は主に魔法壁、対抗属性での相殺、反らす三つだ。一般的なのは魔法壁での防御だな、だが欠点として魔力を多く消費することだ。一流になるほど魔力を最小限にするために魔法を反らすようになるが。まあ一番良いのは魔法を避けることなんだが相手が一流になればなるほど避けるのは無理がある。今から魔法防御の最高峰からやるわけがない。なら自ずと魔法防御の基礎中の基礎の魔法壁を全員がある程度使えるようにしておけというこどたろう。」
椅子に座ったままのブィルソンはやや呆れ顔で話を聞いていた。
失望と言うよりは優秀すぎて感情が一周し驚きを通り越した結果だ。
「正解だよ…君は僕に教師としての立場を奪う気かい?すっかり言うことが無くなっちゃったよ…。まあレオ君が言ってくれたように君たちにはここで魔法防御の使い方を覚えてもらう。魔法防御は身を守れることは勿論極めかた次第では病気の感染を防いだりも出来るから別に戦闘に限ったことじゃないし君たちのこれからの進路を広げることにも繋がるから今から言うことをしっかりと聞いて使いこなすんだよ。まあ大体の人が覚えてるだろうけどさ。」
そういって胸元から木製の杖を取り出す。
「魔法で重要なのはイメージで魔法を放つときは皆何かしらのイメージを浮かべて放つ、でも魔法壁の構築だけはそのイメージを使っちゃいけない。魔法壁なんて呼ばれ方はしてるけど簡単に言えば魔力をそのまま壁にしてるだけで動作としては魔力を守りたい場所で放出するだけで良いから君たちなら凄く簡単だろう。でもこの学院の侵入者迎撃用魔道具は生物だと魔力量に応じて威力が上がるから魔力量の多い君たちは何もせずに入ると即死は免れないだろうから注意しなよ。普通は飛んで入るんだけど杖だけで飛ぶのは難易度高いから皆が魔法壁が張れたら僕が運ぶよ。」
生徒それぞれが様々な杖を取り出し各々が自分の回りに魔法壁を生成する。
魔法壁は杖の先に止まるため感覚で言えば盾に近いヴィルソンの魔法で全員の体がふわりと浮かぶ。
まずまず人の体が浮く風量を考えてほしい並の台風程度ではそんなことは起きない。
そして彼はそんな強い風なのにふわりと浮かせたのだ、風魔法以外にも明らかに何かしている。
そして三十二名の生徒全員にそれを行使している。
もはやどうやればたどり着くかわからない境地この数分で二度も驚かされる。
ヴィルソンが全員の魔法壁の強度を確認したのち塀の中に体が向かう。
塀を越え見えた視界は近くだと見上げなくてはならない塀よりも高い建物、これも塀と同じようにレンガで全てが作られていて場所によって色が違っている。建物は塀の内側をなぞるように作られていてその下には見たこともない金属製の黒光りした謎の物体がある。
謎の物体は丸い球体に杖がつけられていてわっか状のものを基盤に四脚の足がついているものにぴったりはまっている。
恐らくあれが侵入者迎撃用の魔法装置なんだろう。
そんなものが縦百メートルはあるようなスペースに隙間なく詰められてる訳だからこれの全部が作動した時なんて考えたくもない。
ちなみに一番それの標的にされたのは勿論ブィルソンだった。
まるで小さな家がそのままぶつかってきたような光線に目も向けず防いでいた。
今日三度目の驚きとそれを通り越した呆れがアベルの身を包みそれと同時に嫌と言う程自覚させられる。
自分の程度の低さをこれから世界を進めるにあたる人物になるであろういや、ならなきゃいけない自分が目指す壁の高さと言うのをこの数分で嫌と言う程。
今日はアンズベルム学院の入学式。
物語の歯車が整い始めていた。
新シリーズです。とある魔法もののラノベにはまり書いてみたくなりました。これから緻密な戦闘シーンや胸熱展開を書いて行きますのでよろしくお願いします。ここまで読んでくださりありがとうございます。それではこの続きでお会いしましょう。追記:あらすじは盛りましたすいません。