True soul 2
「卑怯者どもが」
俺が独りだと知った瞬間に、執拗に追ってくるクソ野郎ども。俺に追いつけるわけがないのに馬鹿なやつらだ。
俺のパッシブスキル――流水速は、移動速度を常に10パーセントアップする。それに熟練した逃げ足を駆使すれば、捕まるはずがない。ただ、厄介なのは、俺の目的をやつらは分かっているということだ。
一人で勝てる可能性は、ゼロに等しい。ならば、誰もが仲間をリスポーンさせようと考えるのは自然なこと。一人のやつが行くところは決まっている。
俺はいち早く、リスポーンができる、リスポーンビーコンという機械のところに行かなければならない。少しでも遅れれば、間違いなく相棒が復活する前に敵が殺しに来るだろうからな。
目指すのは雪山を越えたところにある、渓流地帯だ。そこに行くには当たり前ながら、雪山に戻らなければならない。
なぜそんな面倒な場所に行くか。それは、敵に襲われないようにするためだ。荒野地帯にもビーコンはあるが、そこは次の安全地帯のなかにある。リスポーンシップを発見した敵が、わらわらと集まってくるのは確実だろう。
雪山の頂上に着き、渓流地帯を見通す。敵影は確認できない。まあ、今頃こんなところにいるチームなんていないか。あとの問題は、後ろから追ってきているだろうやつらだけだ。
足首程度の深さがある、広い川。それは、とても透き通っていて美しく、何本にも枝分かれしている。水辺を囲うように咲いている色とりどりの花々は、笑っているように見えた。そんな綺麗で落ち着くような場所は、俺を癒し、荒んだ心をなごませてくれる。
視覚と聴覚しかないはずなのに、太陽の光が温かく感じるのはなぜだろうか。そんなことを思いながら走っていると、やっとのことでビーコンにたどり着く。
「起きる時間だ」
あとは、守り切るだけだ。
「殲滅する」
バァン
俺の振り返りざまに放った銃弾は、木の陰から俺を狙っていた敵の胴体に吸い込まれていった。気付いていないとでも思っていたのか? 慎重に狙っているから俺に先制されるんだ。俺を倒そうと思ったのなら、強気に攻めて来いよ。返り討ちにしてやるから。
タタタタタタタタタ
ダン ダン ダン
右前方70メートルの木の陰に一人、左前方30メートルの大岩に一人か。まず、岩の方から潰す。
幸いこの辺りは茂みが多い。これをうまく使えば、勝てる可能性は十分あるだろう。いや、違った。俺は、絶対に勝つ。
ヒュッ パシュ シュゥゥゥゥ
敵の視界が奪われている間に、俺は全力で駆け、距離を詰める。岩野郎も、自分が狙われていることに気づいているだろう。迎撃の体制を整えているはずだ。それを、真正面から打ち砕かなければならない。
スモークが晴れた瞬間、岩を挟んで、タイマンが始まった。
ダァン ダァン
タタタ タタタタ
俺は、一瞬だけ顔を出し、撃つことができる。対して相手は、継続して当てなければ大きなダメージを与えることができない。体力をあまり減らさずに倒せそうだ。そう思った時、相手は壁になった。
まあ、そうだよな。相棒と同じ外見をしている時点で、間違いなくアビリティを戦闘中に使ってくるということは予想できていた。その形態になれば、どんなに正面戦闘が強くなるかは理解できている。そして、それがどんな弱点を持っているのかも。
ヒュッ シュゥゥゥゥ
「花火の時間だ」
ヒュヒュヒュヒュヒュン
ピピピピピピピピピピピ
俺がなんのためにショットガンとスナイパーライフルを持っているか。それは、弾数が少なくて済み、その分グレネードをたくさん使えるからってのもあるんだよな。
ドドドドドゴォーン
バキィン
その形態は的が大きすぎるうえに動きが遅い。適当にグレネードを投げてもほとんど当たってしまう。それは、俺が放つショットガンの弾も同じだ。
ダァン ダァン
倒れない……か。本当に厄介なアビリティだ。
カカカ
スモークが晴れ、敵の豆撒き機が火を吹く。俺と敵の距離はわずか3メートル。そう、これは狙っていた距離さ。
「ワープ」
ダァン ダァン ダァン
「ゴミが、俺に牙を剥くなど、あってはならな――」
ガターン
「ワンダウン」
やっと倒れたか。あんな大きな壁だと、振り向きが遅くなるのは当たり前だ。
俺のワープは、一瞬で敵の視界から消えることができる。それ以外にも、様々なことができることから、最強のアビリティといわれているほど強く、タイマンで負けることなどまずありえない。
もともとグレネードのみで削り切れるとは思っていなかった。グレネードは、スモークのなか、ダメージ表示の位置で、敵の位置を特定するという狙いもあったのさ。そして、最適な距離を理解した上で、スモークが晴れた後も一方的に攻撃する。これぞ俺だ。さっきの判断ミスなど、俺に似合わない。
体力はアーマーと合わせて残り120か。かなり厳しいな。アビリティはクールダウン中だし、グレネードも使ってしまった。純粋にエイムと立ち回りで何とかするしかない。
岩陰から足音が聞こえる。回復する暇はなさそうだ。
ダァン ダァン
タタタタタタタタ
俺は咄嗟に逃げを選択する。敵のエイムがかなり良く、大ダメージを喰らってしまったからだ。もう2発当たれば死ぬなこれ。
茂みをうまく使って、撒こうと試みるが、敵はしっかり足音を聞いてついてくる。このままでは視界が晴れた瞬間に殺されるだろうな。
茂みが途切れ、敵の足音が近づいてくる。とうとう俺は追い詰められてしまった。だが――。
「俺は信じる」
俺ならたった一度のチャンスをものにできると……。
まるで、世界が止まったように感じられる。これが、極限状態なのか? 手に取るようにわかる。敵がどこから、どのタイミングで、顔を出そうとしているか。
俺の体は、なにかに操られているかのように、完璧な場所で銃を構えた。そして、目を見開き、引き金に指をかけ――。
ダァン
カタン
「終わったか」
本当にギリギリの戦いだった。なんとか勝てたが、嬉しさより、安堵する気持ちのほうが大きい。
「少しは役に立つようだな」
相棒――じゃない。誰だコイツは? 相棒と同じ姿をしていて、同じセリフを吐いているが、なにかが違った。
そうか、やはりそうなったか……。死んだ魂は、もう戻らないという可能性も、考えてはいた。それでも、いざ実際にそうなると悲しい。
だが、俺は勝ち残らなければならない。相棒も、俺が勝つことを望んで命を張ってまで未来を託してくれた。なら、悲しむのは今じゃないだろう。
もう毒ガスが迫ってきている。もったいないが、転移を使うしかないか。そうでないと、俺たちの足より速く迫ってきている毒ガスに飲まれてしまうだろう。
ん? あいつ、先に走っていきやがった。ここで俺が1人で転移を使ったら、あいつは毒ガスに飲まれて死ぬ。いっそのこと、そうしてもいいんじゃないかとも思った。それでも、あいつはいないよりはマシ程度の戦力にはなるはずだ。仕方ない、追いついてから使ってやるか。
流水とワープを使ってあっさりと追いつく。ちょうどここからなら雪山の頂上が見える。ギリギリ届くだろう。
「転移を使う」
「さっさと使えよ」
こいつとは仲良くやれそうにないな。まあいい。さっきは一人で勝てたんだ。きっと味方がこんなんでも俺は勝てる。
「古の術式、解放!」
荒れ果てた大地が広がっている。草木は枯れ果て、生物は存在していない。隠れられそうな場所は、岩と地面にできている窪みくらいだ。距離を詰めるのに苦労しそうな地形で、射線がどこからでも通るため、かなり怖い。
あれから一切敵に出くわさず、最終安全地帯の荒野にたどり着いた。時折かなり遠くのほうで銃声が聞こえるものの、乱入できる距離ではないので、暇だ。
視界右上に表示されている残りパーティ数は4チーム。おそらく遠くで散発的に聞こえる戦闘音は、そのうち2チームが戦っている音だろう。3チームいればもっと激しい争いになっているだろうからな。
あとの一チームはすでに荒野地帯に来ている可能性が高い。だが、警戒しなくてもこの場所なら近づいてくる前に絶対に視界に入るだろう。今は気を緩めて休憩するのがいいかもな。
カ カ カ カ カ カ カ カ カ カ カ カ カ
暇だからといって空を撃ち始めやがった。それは、『出て来いよ、臆病者』という意味を持つ挑発にも似た行為で、マナーが悪いとされている。自らの位置と武器を教える最悪のデメリットもあり、俺は大嫌いだ。
ズドォン
バキィン
アーマーを割られたか。だから嫌いなんだよ。味方がやると俺の位置までバレて先制されてしまう。今のだって、もしヘッドショットされていたら、かなり危なかった。こいつ、敵のスパイじゃねえだろうな?
「回復中」
「ダメージを受けるなんて、鈍いやつだな。俺なら避けれたぜ」
お前のせいだよ。このクソ野郎、次てめえがピンチになっても絶対助けないからな。
俺は基本的に、他人に期待しない。だから、普段は他人がなにをしようと興味すら持たないのだが――。
今はこいつに構っている暇はないか。撃ってきた敵は、銃声から北方向にいることがわかった。散発的に聞こえてくる銃声は、南方向。ということは、おそらくこのままだと挟まれてしまうだろう。先に撃ってきたチームを潰す必要があるな。
安全地帯の収縮が始まるのは2分後。それと同じくらいの時間に南から敵が来ると考えると、かなり時間が少ない。遠距離で撃ちあっている暇はなさそうだ。
「スキルを使え」
「あ? なんで俺がお前のいうことを聞かなきゃなんねえんだよ」
詰めるのにお前のスキルが必要なんだよ! それがなきゃ近づくまでに蜂の巣になるってことを理解してねえのか、こいつは?
「スキルを使え」
「あーハイハイ」
ハイは一回だって教わらなかったのか?
ダメだ。こいつといるとどうでもいいことにまで反応してしまう。なぜ俺はこんなにもイラついているんだ?
「発動せよ、大地の術式!」
とりあえず、障害物はできた。敵の武器もアビリティも分からないのがかなり怖い。それでも、近距離戦でなければ、もう1チームが来るまでに決着をつけるのは難しいだろう。
大量の大岩が散乱している慣れ親しんだフィールド。ここでは、敵の足音を聞くことが、かなり重要になってくる。
前方30メートルに敵二人分の足音がする。固まっているとは、かなり厄介だ。俺は、足音を敵に聞かせないようにするため、右にかなり大回りをして急襲することにした。
ダァン
いきなり撃たれた敵は、慌てて撃たれた方向に銃を向ける。しかし、すでにそこには俺の姿はない。俺がとったのは、古典的だが、有効な戦い方。ヒット&アウェイ戦法だ。
俺のパッシブスキル――流水は、移動速度上昇のほか、足音を軽減するという効果もある。敵に察知されにくく、追われても逃げやすいので、この戦法と相性が良い。
ましてや、ここは俺が最も得意とする戦場。どう逃げれば敵を撒きやすいか、どこまで敵に近づいても平気かなど、様々なことを体が覚えている。
ダァン
二回目も、反応できていない。このままもう少し体力を削りたいところだな。
敵が歴戦の猛者だったら二回目は勘で撃ち返してくる。どうやら今回の敵はまだまだ経験が足りていないようだ。
ダァン
カカカカ
ダン
三回目ともなると、さすがに反応はしてきたか。次からは、攻め方を変えなければいけないようだ。
敵の銃は、豆撒き機と、M2-ナーボというリボルバー。M2-ナーボは、一発60という大きなダメージ量と、そこそこの連射速度がある代わりに、装弾数が拡張マガジンが付いていても5しかない。爆発力はあるが、安定しない武器ランキングで、1、2を争うロマン武器だ。
敵がショットガンを持っていなくて助かった。もし持っていて、まぐれで一発でも大ダメージを喰らえば、とても危険な状態に陥るのは間違いないからな。
そういえば、味方がどっか行ったな。まあいいか。あいつがいたら返って足手まといになりそうだ。
ヒュッ
ドゴォン
ダァン
バキィン
グレネードを俺とは反対側に投げ、爆発した直後に俺も撃つ。そうすることによって、敵の意識はグレネードが爆発したほうに向いているため、俺はリスクもなしに攻撃できるという姑息な技。これは一回しか使えないが、十分だ。今ので敵のアーマーを割れたからな。
敵は全く最初の位置から動いていない。確かに、動き回るのはリスクのある行為だ。待ち伏せされていたり、味方とうまく連携できなかったり、予期せずバッタリと敵に出くわしてしまったりするからな。
だがそれ以上に、その場にとどまるということはやってはいけない。自らの位置は割れているのに、敵の位置は把握できていないという最悪な状態になる。そして、一方的に攻撃されるからだ。そんなことも判断できないこいつらは、確実に、運良くここまで残ってきた初心者チームだろう。
この攻防で決める。
ヒュッ
ダァン
ドゴォン
グレネードを上に放り投げてから、落ちてくる前に撃つ。そして、注意を俺に向けたやつらには、上から降ってくるグレネードに直前まで気づかない。直撃はしなかったものの、二人になかなかのダメージを喰らわせることができた。俺もかなりダメージを受けたが、相手のほうが損害がでかいだろう。
今なら勝てる、そう確信し、正面戦闘に移行した。正面戦闘っていっても、もちろん障害物を挟んでの撃ち合いだ。それでも、よほどのことがない限り逃げはしないし、逆に敵が逃げようとしたら追うつもりでいる。
ダァン ダァン
カカカカ カカカ
ダン ダン ダン
勝った! 敵のHPは、おそらくミリなのに対して、俺はアーマーすら割られていない。これなら二人相手で、障害物がなにもない状態でも倒しきれる。
敵を逃がさないように突撃する。地面に描かれる青色の魔法陣。敵は俺と同じワーパーで、転移を使い逃げようとしているようだ。だが、発動より俺が敵の場所に行くほうが早い。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
いくつかの大岩が滑るように動いて、俺と敵の間に大岩が連結した岩壁が現れる。敵のサイコダウンのアビリティ――サイコパワーだ。フィールドに存在するオブジェクトを移動できるそのアビリティは、場面によってはとても輝く。動かせる距離はオブジェクトの大きさに依存するが、この高さ2メートル程度の岩なら10メートルは動かせるだろう。
悪あがきをしやがって。俺のアビリティを忘れたのか?
「ワープ」
ダァン
カタン
壁をすり抜けて、驚愕で硬直している二人を纏めて撃ち抜く。
終わったか。やはり俺のアビリティは、障害物を無視できるというところが破格の強さだな。
右上の残りチーム数は、いつのまにか2になっている。残り1チームなら、味方が消えても俺ならやれるか? まずは、敵チームの居場所を掴まなければな。
「トランスフォーム!」
ズドォン
――!? 相棒の片鱗が見えたような気がした。バタリと崩れ落ちるあいつ。そうか……。足止めをしてくれていたんだな。
俺がヒット&アウェイ戦法なんか使って、時間をかけてしまった。そしてその間に、敵は転移魔術を使って素早く攻撃しにきたのだろう。SOUL SKILLを使用してまで勝利後の油断をついてくるとは、敵は間違いなく猛者だ。
すまなかった。俺は、お前という存在を誤解していたようだ。後はまかせとけ。必ず勝ってみせる。
あいつが庇ってくれたおかげで、物資は漁ることができ、体力も満タン。かかってくるといいさ。世界一の強者たる俺を倒せる可能性があるのは、相棒がいないこのチャンスくらいしかないぜ?
まずは敵の位置を把握しなければいけない。撃ってきた方向は分かっているが、もう移動しているだろうからな。
足音を聞き逃さないように耳を澄ます。しかし、一ミリたりとも音を拾うことは出来なかった。相手はかなり慎重に動いている様だ。
足音を極力立てないように、撃たれた場所から遠ざかっておくか。同じ場所に留まるってことは、その場所を攻略する算段を立てている相手が、時間が経つほど有利になるってことだからな。
ダァン
「ワープ」
岩を通り抜け、全力で逃走する。いつのまに後ろを取られ、アーマーを半分以上削られてしまった。相手は予想通り、かなりのやり手だ。
敵もショットガンを持っているとなると、この場所は逆に危険だ。相手は2人いるため、1人を倒すのに消費する体力は、最低限に抑えなければならない。ショットガンはまぐれが怖いからな。
勝つには、安全地帯の強ポジに陣取るしかなさそうだ。ちょうどいいところに、『僕を使って』とでも言っているようにしか思えない巨大な岩があった。あそこの上ならば、射線も切れ、一瞬で登ってくることは不可能に近いことから、二人相手もできるだろう。
敵が追ってこれていないか確認してから、巨大岩を地道によじ登った。SOUL SKILLを使えば簡単に登れるが、まだ使いどころがありそうなのでやめておく。
ダン ダン ダン
カカカカカカカカ
M2-ナーボと豆撒き機だな。想定通りだ。敵が撃っているのは近中距離が強い武器。遠距離だというのにそれを使うということは、スナイパーライフルは持っていないのだろう。
終盤戦は、近距離戦になることが多いので、近距離武器を二丁持つのがセオリーだ。だが、この状況を見越して、俺はあえてスナイパーライフルを持ち続けている。
今回の戦いは、チーム数が減るのが早かった。あと俺とあいつらしかいないというのに、MAPはそこそこ広い。さらに、障害物の少ない荒野地帯。遠距離武器を輝かせるような戦い方もできるだろうと俺は知っていたのだ。
敵は、100メートル程度離れたところにある窪みにいる。だが、そこは次の安全地帯に入っていないため、あと1分以内に移動しなければならない。
その移動している隙を狙う。と言いたいところだが、まず間違いなく転移魔術を使うだろう。安全地帯内で俺からの射線を切れる唯一の場所――この岩の真下に来る可能性が高い。
敵が転移魔術を発動した時点で、グレネードを真下に大量にバラまけばいいか。そんなふうに、普通の者は思う。けれども、相手は猛者で、俺がグレネードをバラまこうとしていることには気づかないとしても、なんらかの攻撃は仕掛けてくると察しているはずだ。
カカカカカカカカ
ダン ダン ダン
やはりな。敵は、安全に転移を使うために、俺にどうにかして大ダメージを与えようとしている。
俺からは攻めてこないだろうという油断。そこを責めるのが、最も敵の意表をつくことができるだろう。
俺の武器をやつらはまだ知らない。敵は、俺が近距離二丁持ちだと思っているはずだ。スナイパーライフルを持っていると知ったら、撃ってこなくなるだろう。だから、一発だ。一発でヘッドショットを狙う。
ダン ダン ダン
カカカカカカカカ
少量でもダメージを受けたら回復を入れる。体力はほんの少しでも多い方がいい。ただ、敵のエイムはかなり良く、顔を出してからダメージを受けるまで、一瞬。その一瞬でヘッドショットを狙うとなると、とてつもなく困難だ。俺なら可能だがな。
今の攻防で、どこを狙えばいいのかが分かった。次で決める。
ダン ダン
カカカカ
バァン
バキィン
完璧だな。豆撒き機一発のダメージしか喰らわずに、頭にぶち込んでやれた。敵の1人――ヒーラーのほうは瀕死だろう。
俺は、手持ちにある最後の手榴弾のピンを抜き、レバーから手を放す。
「古の術式、解放!」
3
この手榴弾は、セーフティ装置が外れてから、5秒後に爆発する仕様だ。つまり、俺の転移直後に爆発することとなる。
2
そうなると、俺は被弾を免れないだろう。手榴弾のダメージは100。つまり、体力の半分を持ってかれる算段になる。
1
それでも、やる価値は大いにある。なぜなら――。
0
ドゴォン
「ワンダウン」
真後ろに突如として現れた、手榴弾を持った敵。多少動揺するのも当たり前だろう。
距離は僅か1メートル。もちろん避けられるはずもなく、手榴弾を全員で仲良く受ける。そして、1人ヘッドショットで瀕死だったヒーラーはダウンした。
これで、互角のタイマンミラー対決に持ち込むことに成功した。あとは、弾避けとエイムだけの純粋な勝負だ。
またこの感覚か。周りのものが全てあくびが出そうなほど遅い。時間の流れそのものが止まっているかのように感じられる。
俺の体は、勝手に動き出し、照準が敵の頭にぴったりと重なる。
ダァン
『真の魂が決定しました』
「終わったか」
激戦を制したにも関わらず、俺の心には虚しさだけが残った。
真の魂ってなんだろうか。無理やりに忘れてきたが、今まで倒してきた敵は、どんなやつでも死ぬ直前には感情のある顔をしていた。それが、偽物な訳が無い。
分からない。なぜ俺たちはこんな戦いをさせられているのか。
一体これからどうなるのだろう。相棒も失った今、俺はもう生きたいと思えない。
ふと、視界が消えた。真っ暗になるのではない、消滅したのだ。音も聞こえない。
どうしてか、すんなりとこの状況を理解できた。魂が、体から離れたのだと。
俺は、移動しているのか。動いていないのか。変化しているのか。なにも分からないということだけが確かだ。
相棒!? 優しい波動を、魂で感じる。間違いない。近くに相棒がいる。
生きていてくれたのか。それとも、俺が死んだのか。どっちだっていい。俺は相棒と一緒にいることができればそれだけで満足だ。
そう思ったのを最後に、俺の意識は途絶えた。
最後の1チームになるまで生き残れば真の魂として認められる。参加チーム数は50。チーム人数は二人。マップ内に落ちているアイテムや武器を駆使して戦い、勝ち残れ――。
ハッ。ここは、飛行船か。目覚めた直後、頭の中に流れ込んできた大量の情報。
ん? 真の魂ってなんだ? なんで勝ち残らなければいけないんだっけか?