True soul 1
最後の1チームになるまで生き残れば真の魂として認められる。参加チーム数は50。チーム人数は二人。マップ内に落ちているアイテムや武器を駆使して戦い、勝ち残れ――。
ハッ。ここは、飛行船か。目覚めた直後、頭の中に流れ込んできた大量の情報。それらは、まるでもともと知っていたことのようにすんなりと理解できた。
俺がジャンプリーダーか。重要な役目を任されたな。
これから俺は相棒と共に、生き残らなければならない。それには、そこそこの物資があって、なおかつ敵チームとあまり被らない場所に降りる必要がある。ならば、オーシャンタウンに降りるのが良いだろうな。
あそこは、マップの端で移動の必要がある可能性が高く、人気がない。だが、物資は豊富だ。移動の手間くらい勝利のためなら我慢しよう。
タンッ
ブワァァァ
吹き付ける風が心地よい。上空から見下ろす、決戦の島――スピリット・グラウンドは、とても壮大で美しかった。暗雲が渦巻き、雷を浴びながら噴煙を上げている活火山。光を反射して輝いている湖を、取り囲んでいる森林。過酷そうな、荒野地帯に、白銀の世界が広がっている雪山地帯。どこもかしこも、胸を躍らせる場所ばかりだ。
そんななか、俺が選んだオーシャンタウンは、海に面している暖かそうな区域。水が街の中まで浸食していて、移動速度が落ちるデメリットがある場所だ。
「始まったか」
「さあ、殺戮の始まりだぜ」
決められたセリフが、口から飛び出てくる。なぜだろうか。
相棒は、相変わらず優しい。さっきの言葉は、『さあ、殺戮の始まりだぜ(本当は戦いたくなんかないんだけどな)』だ。なぜか分からないが、相棒とは今日初めて会ったはずなのに、思考が読めてしまう。
降下中、敵チームの動向を探るため、辺りを見回す。――まさか被るとはな。1チームの向かう先は、明らかにオーシャンタウンだ。落下軌道も全く同じ。ということは、開幕運ゲーの始まりか……。
俺が降りたのは、街の端っこの小さな建物。敵と被らずに武器さえ取れれば、あとはなんとかできるという自信があっての選択だ。
そして、相棒が降りたのは、俺とは真逆の方向にある屋敷。援護は期待できないし、こっちから援護することもできない。なんであいつあんなとこ降りてんだよ。
慣れた手つきで建物を探っていく。運がない。最低ランクの灰色アーマーと、包帯、ミニシールドポーションしか見つからなかった。だが、ここに降りたのは訳がある。ベランダがあり、そこには確定で武器が湧く宝箱があるからだ。
ベランダに出て、隅に置いてある宝箱を開ける。
シャララララララ―ン
いかにも、良い物が入っていますよ、的な音をたてて、開いた宝箱の中には、Tyadey-53というオモチャが入っていた。落胆を隠せず、溜息をついてしまう。
これは、通称『ワイゴミデス』と呼ばれている、弾がBB弾の銃だ。1秒間に、ダメージ量が1の弾丸を15発撃てる程度の威力しかない。体力が100あり、さらにそれに加えてシールドを削らなければいけないことを考えると、殴った方がマシなんじゃないかと思えてくる。
「運は、実力があればいらない」
なにを言っているんだ俺は。戦場に運は必要だ。本当にこの勝手に喋る口には困らされる。
隣の家に賭けるか。そう思い、向かうと、その家の窓が開いていることに気づく。なるほどな。敵がいるから、相棒は真反対の家に行かざるを得なくなったのか。敵がいるという合図を送ってこなかったのは、単純に忘れているだけだろうな。あいつの性格からして。
周辺には、俺がいた建物と敵がいるであろう建物しかない。選択肢は一つだな。オモチャのセーフティを外しておく。それから、屋根上にロッククライミングの要領で登り、敵が出てくるのを待ち構えた。ちなみに、セーフティ装置が付いているのは、Tyadey-53だけだ。なぜかは分からない。それでも、咄嗟に拾った時にセーフティがウザいということは魂に焼き付いている。
敵も俺が待ち伏せをしているのを、物音で気づいているだろう。さあ、どう来る?
ヒュッ ヒュ―ン コトン
ピ ピ ピ ピ
うおっ。俺はダッシュで屋根を飛び降りる。あの野郎、窓から腕だけ出して、手榴弾を投げてきやがった。
ドゴォーン
爆発の音に紛れて、僅かに聞こえたドアの開閉音を、俺は聞き逃さなかった。俺は家の周りを取り囲む塀から、相手はドアから、頭だけを覗かせる。
パパパパパパパパパ
パパパパパパパパ
敵もかよ……。オモチャ同士の撃ちあいが始まる。しかし、俺の方が不利だ。俺は灰アーマーで、シールドが30しかないが、相手は弾が当たった時のエフェクトから、緑アーマーだと分かる。緑はシールドが60もあるからな。このままだと、シールド差分で俺が先に死ぬだろう。
予想はしていたことだが、やはりそうなったか。弾切れだ。両者ほぼ同時にBB弾を撃ち尽くし、もはや拳で語り合うしかなくなった。俺の残りHPは65。拳のダメージが20なので、4発くらったら死ぬな。
敵の残りは、俺が与えたダメージから考えるに、80というところだろう。
「出て来い」
「拳で語り合いまっしょい」
互いに遮蔽物から出てきて、間合いを探り合うように、対峙する。このままでは、まずいな。相棒は真反対に降りてしまっている。おそらく敵の増援が来る方が早い。早々に決着をつけなければ。
「フッ」
短く息を吐き、距離を詰め、右ストレートを放つ。俺の拳を、敵は腕でガードした。だがな、それは意味のない行為なんだよ。たとえガードしようとも、当たり判定は腕にもあり、ダメージは変わらないからな。
体力有利の俺は、そのまま連撃を繰り出した。さっきは咄嗟に腕でガードしてしまった敵も、俺に向かって蹴りを放ってくる。
一進一退の攻防を繰り返し、あと一発で倒せそうだ。そう思った直後、敵の体が、緑色に光った。
「ヒーリングしまっしょい」
敵のアビリティか。これで敵の体力は30回復した。それは、あと2撃は耐えられるようになったということ。それに対して、俺はあと1撃しか耐えられない。だが、俺はこの状況を待っていたのさ。
「ワープ」
振り返りざまに、3連撃を叩きこむ。相手は、驚愕の表情でこちらをみると、そのまま地に伏した。
俺はワーパーだ。5メートルの範囲なら一瞬で移動できる。そのアビリティを使い、敵の背後に現れ、攻撃した。もし相手のアビリティがクールダウン中でなかったら、瞬時に回復され、また互角になってしまう。だから俺は、切り札を最後まで取っておいたのだ。
「ワンダウン」
なかなかスリリングな戦いだったが、この程度は乗り越えられないと、勝利はできない。さて、ダウンしているヒーラーに止めを刺すとしよう。
「慈悲はない」
タン タン
チッ、やられた。止めのセリフをいっている間に撃つのは、格好がつかないのでやめてほしかったな。
銃声から察するに、もう一人の敵の獲物は、LPーノーテルという銃。連射と単発のモードがあり、今のは単発だろう。一発17ダメージという高い威力を持つ代わりに反動は大きいが、単発うちならそこそこの距離は狙える。近距離、及び中距離が得意な、いわゆる強武器だ。
ダウンしていると、のっそのっそ這うようにしか移動できない。やれることは、相棒が何とかしてくれると信じることくらいだ。油断しすぎたか。
バァン
パキィン
敵のアーマーが割れた音がする。銃声からして、相棒の武器は、SMT-ウォアーというスナイパーライフルだな。武器は二丁持てるので、近距離用の武器を拾えていれば体力有利な分、相棒が勝つ可能性が高い。
タタタタタタタタタ
バァン バァン
敵も相棒もどこにいるか分からないが、激しい攻防が行われている。相棒はどうやら近距離系の武器を拾えていないようだ。
しかし、俺は相棒が勝つと確信した。視界の右端に浮いている相棒の体力ゲージが、ほとんど減っていないからだ。おそらく、アビリティを使ったのだろうな。
カタン
俺がダウンさせたやつが、箱になった。相棒が勝ち、チームが全滅したからだ。
俺は静かに、去り行く魂へ祈りを捧げる。やらなければ、やられるだけだ。悪いとは思わない。それでも、余裕のある時くらい、見送ってやってもいいだろう。
「起きろ、この役立たずが」
敵が倒れた後、真っ先に相棒が駆けつけてきて、蘇生をしてくれる。さっきの言葉は、『起きろ、この役立たずが(俺が役立たずなせいで、すまない)』だ。相棒は、俺をいつでも助けてくれているというのに、自らに自信がない。もっと自分を誇っていいと思うんだがな。
「感謝する」
これは本音だ。
次の安全地帯はどこだったけか? 確認すると、MAPの西部にあるオーシャンタウンからはかなり遠い、北東部が次の安全地帯のようだった。
オーシャンタウンの物資を手早く漁って、安全地帯に向かうとしよう。慣れたもので、走りながら一瞬で拾ったり、着替えたりすることができるが、どうやっているのかは自分でも分からん。
装備がある程度整ってきた。もう、拳で戦わなければならない、なんてことにはならない程度には。
相棒は、スカイラインという、二点バーストのアサルトライフルを中距離用に持ち、近距離は、M2AE-イカムというサブマシンガンで戦うようだ。
M2AE-イカムは通称『豆撒き機』と呼ばれていて、一発のダメージは10と小さいものの、連射速度は随一で、近距離最強と名高い武器。もちろん状況にもよるが、遮蔽物の一切ない平地では、間違いなく無類の強さを発揮するだろう。
対して俺は、A-ツフンアイビーショットガンをメインに、相棒が使っていたSMT-ウォアーをサブウェポンとして装備している。
A-ツフンアイビーショットガンは、一回引き鉄を引くと、一発8ダメージの弾が15発射出される。瞬発的な火力は他を圧倒するものの、連射力は近距離武器のなかで最も遅く、M2AE-イカムとは正反対の性質をもった武器だ。そういう側面から付けられた愛称は、『一発屋』。華々しい活躍をしてから、あっさりと散ってしまいそうな名で、俺はそこまで好きじゃない。
オーシャンタウンを囲っている森を抜け、安全地帯の近くまで行くと、気温は変わらないのに、雪がところどころに散らばっていた。度々見かける木も、葉が全て落ちていて、丸坊主になってしまっている。森は、鳥や虫の声でにぎやかだったが、ここら辺は静かすぎて不気味だ。
これから俺たちが向かおうとしているところは雪山で、急な斜面を登っていかなければならない。いや、もう雪山に入っているのか? 砂漠地帯からいきなり都会地帯になったりするこのおかしな世界では、珍しく境界線がはっきりしていないので、迷うところだ。
「危険な香りがするな」
「ふん、腰抜けが」
今のは、『ふん、腰抜けが(腰が抜けちゃいそうだよ)』だ。そして、このやりとりが発生するのは、本当に大変な事態が迫っている時。今のところ順調なんだが、どうやら気を引き締めていかねばならないらしいな。
安全地帯にもうすぐ入る。そんなときに、ことは起きた。雪山と俺たちが進んできた森を、両断するように、聳え立っている岩壁。それには裂け目があり、通り抜けられるようになっているのだが、そこで待ち伏せをしているパーティがいたのだ。
「面倒だな」
面倒どころじゃねえ。敵に高所を取られていて、なおかつ敵のところには遮蔽物がある。ここで撃ち勝つのは至難の技だろう。回り道をするかとも考えたが、それには時間が足りない。
ダン ダン ダン
タッタッタッタッタ
バキィン
クソッ。撃ってきやがった。アーマーが剥げ、あと何発か喰らったらダウンしてしまうだろう。遮蔽物までは二十メートルといったところか。
「トランスフォーム!」
前触れもなく、俺と敵のあいだに壁が出現する。これは、相棒だ。自身を巨大な壁に変え、味方を守るアビリティ。壁になっている間は体力が10倍となる。
バァン
相棒の壁から最低限の部分だけを出し、素早く狙いをつけ敵の胴体を撃ち抜いた。大ダメージとまではいかなかったが、これで敵の1人は回復に時間を割かなければならない。残念だったな、俺は狙撃が最も得意なんだよ。
シュッ パス シュゥゥゥゥ
モクモクと、敵の視界を遮るように発生する煙。こんな時のためにスモークグレネードを持っておいたのだ。もしさきほど弾を外していれば、敵はスモークの中を突っ切って、ごり押してきただろう。
なんとかダウンせずに大木の影に隠れることができた。それでも、最悪な状況だということに違いはない。
しばらくの間、遠距離での撃ち合いが続く。ここで一人でもダウンできれば、敵が蘇生する間に距離を詰めて、互角の状態で戦えるのだがな。敵もそれを分かっているようで、少しでもダメージを受ければ回復しやがる。
敵の武器は、M2-ナーボという、高威力のリボルバーと、N3-ギウルという威力はそこそこな代わりに反動がほぼない銃だな。どちらも中距離武器で、もう一つの武器は分からないが、近距離二丁持ちではないらしい。
もうすでに、かなり近くまで毒ガスが迫ってきている。あと一分程度でここは地獄と化すだろう。賭けに出るか。
俺と相棒は目配せを交わすと、俺はグレネードを、相棒はSOUL SKILLを放った。
「発動しやがれ、大地の術式!」
数秒間の地鳴りの後、地面から次々と突き出てくる大きな岩。それに当たると、50のダメージに、移動速度の低下が付与される。これが相棒のSOUL SKILL。いわゆる、必殺技だ。あわよくば、敵が引いてくれるか、もしくはダメージを喰らってくれることを期待して放った。
「現れよ、空飛ぶ絨毯」
やはりな。敵は、ひらひらとしている弾が貫通しそうな布のくせに、絶対に壊れないという性質を持つ絨毯に乗って、宙に浮いていた。敵の1人――サイコダウンの持つSOUL SKILLだ。地面から現れる岩を避け、なおかつ高所を取れるという強力な技。相棒のスキルを完全にメタってやがる。
だが、全くの無駄だったわけではない。相棒のスキルで出現した岩の間を縫って、ある程度距離を詰めることができた。窮地だってことに、変わりはないが。
ここをどう突破するか。俺の必殺技は、視界が開けている場所でないと真価を発揮できない。どうにか裂け目を通り抜けられれば良いのだがな。
ズドォン
新しい銃声だ。どうやら別のパーティが、戦闘音を聞きつけてやってきたようで、絨毯の上にいたパーティを攻撃している。
急な斜面になっているため、新しく来たパーティは、絨毯で飛んでいるパーティと同等の高さ。絨毯パーティは、遮蔽物も何もない状態で一方的に撃たれ、さらに下に降りれば俺たちがいるため、どちらに転んでも無残な結果が待ち受けているだろう。
俺たちと戦うことを選んだか。大量の岩が点在しているフィールドで、2対2の攻防が始まった。一瞬で決着を付けなければ、別のパーティがきて共倒れになることを敵も理解している。
俺がショットガンを武器に選んだのは、相棒のスキルと相性が良いからだ。障害物が多い場所では、一瞬で大ダメージを与え、隠れるという戦法ができる。そして、相棒は岩より高い壁となって自身が的になるかわりに、上から豆撒き機で永続的に攻撃。完璧に近い戦略だな。
対して相手は、二人とも豆撒き機。ヒーラーとサイコダウンなので、俺たちのような戦法を取ることは出来ない。
カカカカカカカカカカ
カカカカ カカカカ
カカカカカカカカカカ
ダァン ダァン
三丁の豆撒き機の音に、俺の一発屋の銃声が混じる。そして、別パーティからダメージを受けていたこいつらは、十秒ともたずに箱となった。さきほどまであんなにも苦戦していたとは思えないくらい、あっけないものだった。
なんとも言えない微妙な気持ちだ。だが、今はそんなことどうでもいい。素早く逃げなければ。
最速で岩壁の裂け目を通り抜けると、視界が開ける。そして、前方50メートルに敵影がみえた。体力が残り少ないので逃げるしかないな。
「古の術式、解放!」
地面から突如浮き出てきた、巨大な青色に輝く魔法陣。そして、相棒が壁になり、敵の攻撃を受け続け3秒が経過した時、視界が白く染まった。
「なんとかなったか」
「少しは役に立つようだな」
俺のSOUL SKILLは、転移魔術だ。200メートル以内の見える場所ならば、3秒間の発動時間があるものの、一瞬で移動できる。相棒も、『少しは役に立つようだな(さすがだな)』と称賛してくれた。
敵が追ってきている様子はない。安全地帯にも無事入れた。完璧なように思えるが、一つ問題がある。それは、物資が尽きそうだということだ。
時間的な余裕がなく、箱を漁れなかったせいで、かなりの回復と弾を失った。そして、いまだ俺は緑アーマーだ。アビリティの特性上シールドの重要性が高い相棒は、しっかり赤アーマーを着ていて、実質200の体力がある。でも、できれば俺も赤アーマーが欲しい。
おそらく、すでに主要な町は漁られているだろう。物資を得るためには、敵をどうにか倒さねばならない。
ダン ダン ダン ダン
カカカカカカカカカカカカカ
ズドォン ズドォン
都合よく、俺たちが向かっていた方向から聞こえてきた銃声。音の大きさからして、そこまで距離はない。これは漁夫の利を得るチャンスだ。俺と相棒は、同時に走り出した。
雪山は走りにくく、進むのに時間がかかる。敵を発見できたのは、戦いが終盤になっただろう頃だった。
雪山と、マグマがあちこちに流れる火山地帯の、境界線に1パーティ。完全に火山地帯に入ったところにもう1パーティがいる。どうやら火山地帯にいる、俺たちから見て奥のパーティは、一人がダウンしているようだ。
距離は、約150メートルくらいか。SMT-ウォアーの射程距離内だな。相棒には彼らにバレないように距離を詰めてもらい、俺は静かに狙いを定める。
外すということは、相手に気づかれるということだ。もしそうなれば、確実に逃げられるだろう。確実に当たる瞬間を狙うしかない。
風向き、距離、弾速、空気抵抗。数々の予測不能を、長年の経験と勘でねじ伏せる。敵は回復中で、俺がミスらなければ確実に当たるはずだ、
バァン
「ワンダウン」
スコープ越しに見えた、驚愕と、絶望に彩られた顔。それは、自分たちが優勢だったのになぜ邪魔をするんだという呪詛を吐きかけてきているようで、恐ろしかった。
ババン ババン ババン
相棒のスカイラインが火を噴き、背後からの奇襲を受けた敵は、あえなく全滅する。死とは、この戦いにおいて身近にあり、唐突にやってくるものだ。俺たちも、いつまた死にかけるか分からない。
「雑魚は死ぬ運命なんだよ」
相棒は、さっき死にかけた恐怖がいまだ消えないようで、『雑魚は死ぬ運命なんだよ(自分はもう死ぬんだろうな)』と消極的な言葉を吐いた。本当に自分に自信がないやつだ。
もう一方のチームは、体力不利を悟ってすでに逃走していた。念のため、また他のパーティが来ていないか周囲を確認してから箱を漁る。
念願の赤アーマーに、武器のアタッチメントのほとんどが揃った。上々の収穫だ。
とてもいい結果に終わったはずなのに、なんで俺はこんなことをしているのだろうという疑問が頭をよぎる。あいつらの魂は、本物ではなかったのか。真実の魂とは、なんなのか。そんな、戦いにおいて不要な考えすら浮かんでしまう。
『勝ち残れ――』
そう、俺は勝ち残らなければならない。理由なんていらない。結果だけがあればいい。
さっきまでのモヤモヤが嘘のように消え、俺の思考はクリアになった。
最終安全地帯は、火山地帯か、俺たちから見て火山地帯の奥にある荒野地帯だろう。とりあえず火山の高所――頂上に向かうとするか。
どす黒く、常に電気を帯びている雲が空を覆っていて、時折轟音と共に光の柱が地面に伸びる。火口からはモクモクと煙が出ていて、地面はゴツゴツとした黒い岩でできていた。ドロドロと流れるオレンジ色のマグマは、入るとスリップダメージを受ける。
「これが、自然の驚異か」
いや、別に熱くも苦しくもないんだがな……。
火山の頂上は、かなり広い。半径50メートルはあるだろう、円形をしている。そこで、俺は自分の浅はかさを呪うこととなった。
キィーン ガガガガガガガガ
ダン ダン ダン ダン
カカカカカカカカカカカカ
ダァン ダァン ダァン
頂上で、運悪く3チームと不意の遭遇をしてしまったのだ。俺たちがもう少し遅れてきていたなら、3チームだけで戦いが勃発していただろう。それなら銃声が聞こえて敵がいることが分かったのに、頂上についた時間が俺たちを入れて4チームともぴったり被ってしまった。
全チームが、綺麗な四角形を作るようにポジションを取り、激しい銃撃戦が行われている。クソッ、俺たちがそう考えたように、他のチームも高所を取りに来ることは予想できたことなのに。
まあいい。後悔しても仕方がない。こいつらはここで全滅させる。
まず右斜め前にいるチームから倒すか。遠くからダメージを与えて確認したところ、右斜め前のチームは、二人とも緑アーマーで、戦う前から体力有利が確定していた。さらに、その敵はアビリティの相性的に戦いやすい。これならエイムがよほどグダらない限り勝てるだろう。
とりあえず、長距離からどうにか大ダメージを与えることができれば、回復中に詰めることができる。再びSMT-ウォアーの出番だ。瞬時に大ダメージを喰らわせなければ相手は隠れてしまうため、ヘッドショットを狙う必要があるか。
タン タン タン タン
じっくりと狙いを定める。相手が撃ってきていて、何発か被弾しているが、一発のダメージはSMT-ウォアーの方が全然大きいからな。頭に当てさえすれば勝てるので、小さなダメージなどに気を取られることはしない。
バァン
外したか。いったん回復を挟んで仕切り直しだな。大量に転がっている岩の影に隠れて、物音に耳を傾けながらシールドポーションを飲む。
「ゴミ共が寄ってきたぜえ」
相棒がそんな有り得ないことを伝えてきた。俺はポーションを飲み終わると、岩から顔を出して、敵の様子を窺う。
カカカカカカカカ
嘘だろ。本当に詰めてきてやがる。大してダメージを喰らっていないので、俺が回復する間に、敵が詰めてこれるほどの時間はない。だというのに、あいつらは走ってこちらに向かってきている。
ダン ダン ダン
パキィン
は? 死角から撃たれ、アーマーが割られる。やばいな、左斜め前のチームも詰めてきやがった。こいつら、チーミングだ。
「古の術式、解放!」
とてつもなく長い3秒間が始まる。
「トランスフォーム!」
「馬鹿野郎が――」
巨大な壁は、あらゆる方向からの銃撃の的になり、一瞬で崩れ去る。すまない、だが、相棒のお陰で間に合ったぜ。
眩い光に包まれた俺たちは、死地からの脱出に成功した。よかった。あそこで相棒が守ってくれなかったら、俺がダウンし、スキルがキャンセルされていただろう。
ピ ピ ピ ピ
ドゴォン
あ……?
カタン
グレネード……。
そうか、これも一緒に転送しちまったんだな。すまない、俺の判断が遅れたせいで。
まだ、相棒を蘇らせる手段は残っている。リスポーンだ。今一番やってはいけないことは、過ちを引きずって、プレイの質を落とすことだ。俺が死んだら相棒の死が無駄になるからな。
待ってろ、絶対にリスポーンさせてやる。