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異世界三日目の朝。
今日も夜が明けきらない早朝に目を覚まし、寝ぼけた頭で仕度にとりかかる。
井戸で顔を洗い、水瓶の水の入れ替えを終える頃にはしっかりと太陽が昇り、今日1日の始まりを告げる。
朝からの重労働で疲れた体のまま、キッチンへ入ればそこには仁王立ちのブリジットの姿があった。
「遅いっ!あんた、いったいどれだけ師匠を待たせるつもりっ!」
開口一番からこれである。
「す、すみません」
むしろお前が早く来すぎなのでは?とは口が裂けても言えない。
「ブリジットよ、たいして待たされてなどおらんからそうカリカリするでない、おぬしも気にすることはないわい」
腑に落ちないといった表情のブリジットにもリーベ婆さんは声をかける。
「ブリジット、すまないが先に今日、調合に使う分の薬草をすりつぶしておいてくれるかい?」
「わかったわ」
素直に指示に従いキッチンを後にするブリジット。すれ違い様に『キッ!』と睨んできたが特に何か言う訳でもなく大人しく、調合室へと入っていった。
なんとか静かな朝食を迎えられそうだ。
朝食を摂っている最中、昨日に聞き忘れたことを思い出したので聞いてみる。
「そう言えば、旦那さんの日記になるべく教会へ行ったほうが良いと書いてあったんですがこの村に教会ってありますか?」
「教会かい?教会ならあるぞ。そういえば、じいさんも女神様に会うとか行ってよく足を運んでたねぇ」
「そうなんですね。今日は僕も採取に行く前に教会に寄ろうと思います」
「そうかい、好きにしたらいいさ」
◇
朝食を済ますと教えてもらった教会に向かう。
教会は村の北側にあり、壁等は土で造った土倉式で田舎の村に違和感のない造りだ。
正面の屋根の上には教会のシンボルである十字架が掲げられてはいるがひどく主張が弱い。
教えてもらわなければ、教会と気付くことはなかっただろう。
両開きの扉を引き、「ギィー」という重い音と共にゆっくりと扉を開く。
窓が少ない為か、扉の先は薄暗く質素な礼拝堂が広がっており、奥に緩やかな僧侶服を着たおじいちゃん神父がひとり、女神像に向かって祈りを捧げていた。
こういう時、俺の中での常識では巨乳な美人シスターが出迎えてくれるはずなのにおじいちゃん神父が出てくるなんて、どうやら俺には主人公補正が足りないようだ。
それはともかく、黙っていても仕方がないので用件を伝えることにする。
「早朝にすいません。女神様に祈りを捧げにやってきました」
俺の声に気付いたようでおじいちゃん神父は振り返り、1拍置いてから口を開く。
「朝から実に素晴らしい心懸けですね」
そう言うなり、自身が祈っていた場所を空け渡してくれた。
正直、隅っこのほうで良かったのだがこうなっては仕方がない。先程のおじいちゃん神父のお祈りポーズを真似て、女神像に祈りを捧げる。
気付けば、俺はまたあの真っ白な空間に立っていた。
「気が付いたようですね」
俺の目の前には以前会った現実離れした美貌を持つ女神が毅然と立っていた。
「(俺は確か教会で祈りを捧げていたような?)」
「確かに下界にあるあなたの体は祈りを捧げたままで意識をこちらに呼び寄せたのです」
「(下界ということはここは神々が住む神界的な場所なのかな?)」
「そうです。あなたが思った通り、ここは人々がいう所の神界ですね」
「(そもそも俺の心の声が聞こえてる!?)」
口には出していないのに心の中が読まれることに驚愕する。
「それは当然ですね。私も歴とした神の一員であり、尚且つここは神界の為、人の心を読むことなど造作もないことなのです」
神の力の一端に触れた俺は戸惑うばかりだ。
「少し話がそれましたが今回あなたを呼んだのは他でもありません。前回時間がなく説明が疎かになっていた為、あなたをもう一度お呼びました」
「確かに前回は何がなんだかわからない内に異世界へ連れて来られたので詳しく教えてくれるのですか?」
「はい、そうです。前回は私の干渉力が弱く、時間がなかった為に中途半端な状態での説明となってしまったのでその補足だと思ってください」
「それならもっと早く呼んで欲しかったです」
「それについては申し訳なく思っていますがこちらとしても条件が揃わなければ、呼び出すことが出来なかったのです」
「条件ですか?」
いつ俺は条件を満たしたのだろうかと疑問が湧いてくる。
「はい。今回は我々、神が下界でもっとも干渉しやすい場所。つまり、教会に来たことで条件が整いました。神なら無条件で呼び出せるのではと思うかもしれませんが呼び出すにもそれ相応の神力が必要なのです」
これでどうしてヤマダタロウ氏がこまめに教会へ行けといったのか合点がいったが・・・。
「神様でも万能ではないのですね」
「そうですね。本来ならば可能なのですが現在は訳あって、それがなかなか難しい状況なのです。今回はその事についてもお呼びした次第です」
面倒事に巻き込まれそうな気がするが本題と言っている以上ここでスルーする訳にはいかないだろう。
「まずは召喚に巻き込まれてしまったあなたを元の世界へと還してあげたいのですが残念ながら今の私ではそれは叶いません」
おそらく、さっき言っていた今回の呼び出しの本題に関係しているのだろうと思い、冷静に女神様の話を聞く。
「現在、女神である私は邪神の手により、力の大半を失っています」
これはなかなかのカミングアウトなのではと思い、口を挟みそうになるが女神の説明はまだ続く。
「なので貴方には私の力を取り戻す為に手伝ってもらいたいのです。勝手なことを言っているのはわかっていますが今の私には選択肢が限られているので心苦しいですが貴方に頼るほかないのです」
「・・・手伝いですか?」
「はい。ただ、私も無償で手伝ってもらおうとは思っていません。私の力を取り戻してもらう度にそれ相応の報酬を差し上げます」
「報酬ですか。ちなみにヤマダタロウさんも頻繁に教会に通っていたと聞きましたが女神様の手伝いをしていたのですか?」
「ヤマダタロウさんですか。貴方がその名を知っていることに少し驚きですが確かに貴方の言う通り、彼は私の手伝いをしてくれていました」
「そうなんですね」
ここで俺は日記の内容を思い返す。日記には女神様の手伝いについては書かれていなかったが頻繁に教会へ出向くようには書いてあった。これは暗に女神様のお手伝いをしてあげてほしいと願って書かれていたのではと思う。
会ったことはないがあれだけ、日記に役に立つ事を書いてくれた人物なのだ。
俺の心は決まっていた。
「わかりました。女神様のお手伝いをお受けします」
「ありがとうございます」
女神様は俺の返事を聞くと蕩けそうになる笑顔を浮かべた。
「それで僕は何をすれば良いのですか?」
「貴方には邪神に奪われた私の『力の欠片』を回収して、持って来てもらいたいのです」
「『力の欠片?』ですか。それは何処にあるのかわかっているのですか?」
「申し訳ないのですが場所はわからないのです。しかし、邪神は時おり魔物に力の欠片を植え付けては凶暴化させて人々を困らせているのです」
「凶暴化ですか・・・」
「はい。ヤマダタロウさんはその魔物のことを異常進化個体と呼んでいました。そして、冒険者ギルドに時おり依頼が出されるとも言っていましたね」
「それじゃあ、僕はその異常進化個体を狩り、『力の欠片』を回収して持ってこればいいのですね」
「はい、そうです。大変だとは思いますがお願いします」
「わかりました」
「回収した『力の欠片』の数に対して、報酬をお渡ししますので頑張ってください」
「ちなみにその報酬が何か今、確認することって出来ますか?」
俺自身、ちょっと賎しいかなと思ってしまうが報酬内容は大事だ。
「はい、構いませんのでお見せしますね」
女神様が言い切るなり、俺の目の前にディスプレイのようなものが表示され、そこには報酬が書かれていた。
・力の欠片×1個と交換
エクスマナポーション
・力の欠片×2個と交換
ミスリル銀インゴット
・力の欠片×3個と交換
魔法の袋
・力の欠片×4個と交換
エリクサー
・力の欠片×5個と交換
アダマンタイトインゴット
・力の欠片×10個と交換
《スキル》アイテムボックス
・力の欠片×15個と交換
オリハルコンインゴット
・力の欠片×20個と交換
マナの種
(※自身の魔法属性をひとつだけ増やす)
・力の欠片×30個と交換
???
~~~~~
「・・・・」
報酬の確認を終えた俺は思うのである。
これはドラ○エのちいさなメ○ルにシステムが似ていると・・・。
「報酬がお気に召せばよいのですが」
黙ってしまった俺に気を使っているのだろう語尾が弱々しい。
「いえ、大変気に入りましたので頑張らせてもらいます!」
「そう言ってもらえると助かります。他にもなにか困ったことなどがあれば、また教会へと来てください。出来る限りは力になりたいと思います」
「わかりました」
「それでは貴方の頑張りに期待しております」
そして、俺の意識はそこで途切れた。