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5ページ目






 帰ってきた俺は店舗部分を通り抜け、キッチンに踏み込むとリーベ婆さんの背中が視界に入る。リーベ婆さんはちょうど料理をしていたようで手を離して、俺の姿を確認してくる。


「おかえり、怪我はないようだね」


 家の中には既にブリジットの姿はなく、それだけで気持ちが軽くなるのが自分でもわかった。

 どうやら初日で苦手意識が芽生えたようだ。


「はい、問題なかったです」


 簡潔に挨拶が済むとリーベ婆さんは再び調理へと手を戻すがついでに今日の成果を報告させてもらう。


「薬草は問題なく集まりましたが野ウサギは1匹も捕まえられなかったです」


「そうかい。誰しも初めてが上手くいくわけじゃないから気にすることはないさ」


「はい」


 励ましの言葉だということはわかるが逆に俺のやる気に触れて、明日こそはと思う。


「すぐに夕食が出来るから座って待ってな」


「わかりました。採ってきた薬草はどこに置いておけばいいですか?」


「その辺に置いといておくれ」


 リーベ婆さんの言う通り、魔法の袋をテーブルに置くとイスに座り、待つことにするが手持無沙汰になってしまい、どうにも落ち着かない。


 ここは俺も手伝った方が良いのか、でも生まれて此の方、料理などほとんどしたことがない俺が手伝ってはかえって邪魔なのではと葛藤している内に料理は出来上がってしまった。


「悪いが今日の夕食もスープにパンだよ」


「大丈夫です。むしろ食べさせてもらえるだけ、ありがたいです」


「そうかい。じゃあ、冷めないうちにいただこうか」







 食事中は相変わらず、静かだ。というのもまだ2日目とあり、他人行儀が抜けない。

 まあ、2日目で抜けていたら俺はどれだけコミュニケーション能力が高いんだって、話だが。


「それで初めての狩りはどうだったんだい?」


「何匹かスライムを倒すことが出来て、レベルが2になりました」


「そうかい。その調子で地道にレベルを上げていくといいよ」


「はい」


 駄目だ。会話が終わってしまった。ここは何とか俺からも話を振らなければと思い話題を振り絞る。


「と、ところで旦那さんてどんな人だったんですか?」


「ん?じいさんのことかい。そうだね・・・ひと言で言って不思議な魅力を持つ人だったねぇ」


「そうなんですか」


「私がじいさんと初めて出逢ったのは王都にある冒険者ギルドでねぇ」


 そして、リーベ婆さんは物思いにふけるように静かにスプーンを置いて語りだした。



「そう、あれは今から50年くらい前かねぇ。私がギルドの受付をしていたある日、じいさんがひょっこり現れたんじゃ」


 俺もスプーンを置き、話に聞き入る。


「初めは他の冒険者達と比べて、線も細く頼り甲斐の無さそうな黒髪に黒目を持つ珍しい人くらいにしか思っておらんかったんな。実際、その頃のじいさんの冒険者ランクもまだFランクと低かったしのぉ」


「それがじゃ、半年も経たん内にCランクとなり、1年後にはBランクまで昇り詰めてしまってな。受付嬢同士、けっこう優良物件なんじゃないかなんて盛り上がっておったのう」


 リーベ婆さんは昔を思い出したのか、眼をつぶり懐かしさに浸っているようだった。


 どうしよう。スープが冷めてしまう。


「その更に1年後にはAランク試験にも受かり、当時の最速昇格記録を抜いたんじゃ。そこで私がじいさんの担当に抜擢されてなぁ。あの時は嬉しい気持ちと仲間だと思っていた受付嬢達からそれはもう酷い妬みや嫌がらせをされたもんだ。勿論、私もただ黙っているだけじゃなかったがね。カッカッカッ!」


 リーベ婆さんの話は熱を帯びてきただけじゃなく、女同士の醜い争い話に発展し始める。

 俺は話の先が見えず、なんだかヤバイと思いつつも口をつぐみ、ただ黙って走り出したリーベ婆さんの話を聞くことしか出来ない。


「あの時はそれは酷いもんだったねぇ。冒険者達はカウンターがあって見えてなかったが受付の中ではお互いに足を踏んだり、蹴るなんて当たり前で毎日が熾烈な戦いの日々だったねぇ」


 受付嬢達、カウンターの中で何てことやってんだよ!


「またある日は私の荷物が隠されてねぇ、あの時はそりゃ困ったのぅ。でもね、私も冒険者ギルドの受付として数多くの冒険者達を観てきた眼力は伊達じゃなくて、すぐに犯人を見破るや次の日に雑巾を搾った水でお茶を入れてやってねぇ。案の定、同僚はお腹を下して、ヒィヒィ言いながら受付業務をしていたねぇ。カッカッカッ!」


 あ~、この話は長くなるなと俺は覚悟を決めたのであった。







 俺は旦那さんの話を聞いていたのにいつしかリーベ婆さんの若い頃の話に変わり、聞きたくもない受付嬢のリアル醜い話を聞かされ続けた。


 今から冷静に考えれば、話題ならもっとあったと思う。今後はあまり、旦那さんの話をするのは躊躇われる。




 なんとかリーベ婆さんの話を聞き終えた俺は冷めたスープを飲み干すと作ってもらったかわりに食器を洗う。

 リーベ婆さんはその間に俺が採取してきた薬草の確認と仕分けをしていた。


「おや?魔石がけっこうあるねぇ」


「はい、魔法スキルを取得可能にするのに魔石が必要と言っていたので頑張って集めてきました」


「ご苦労様だね、後片付けが済んだら教えるとしようかね」


「はい!」


 ついに魔法スキルが取得可能になるとあって、急いで皿洗いを終わらせる。




 その後、リーベ婆さん指導の元、無事に取得可能になった。


 ちなみに魔法スキルの取得方法だが自分に適した属性の魔石を握りしめて魔力を送るという方法だった。

 そして、残念なことに俺の魔力に反応した魔石は緑色のスライムの魔石のみだった。


 覚えた魔法スキルは『風魔法』で俺自身、風属性に親和性が高いらしい。


 待望の魔法スキルだが取得に必要なSPが20SPと今のところ、取得の目処がたっていない。


 何はさておき、一仕事終えたといった感じでリーベ婆さんは薬草が入った魔法の袋を持って調合室に引きこもっていった。


 俺も部屋に戻ると寝る前に先人に習い、ともに異世界へと来たノートに今日の出来事を書き込む。




本日の日記内容


・スライム緑色×6匹

・スライム赤色×5匹

・スライム青色×4匹

・スライム黄色×5匹

・スライム紫色×6匹

・スライム黒色×3匹

・スライム白色×4匹


 レベルが1つ上がったがお肉には出会えなかった。


 スライムは叩くより刺す方が効果的だ。


 俺の属性は『風』のようだ。






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