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3ページ目






 日記を読み終える頃には陽はすっかり傾き始め、窓から射し込む陽射しは赤みを帯びていた。


 ゆっくりと日記を閉じて、腰掛けていたベットから立ち上り、静かに窓から外を眺める。

 窓から覗く景色は地球とあまり変わらぬ、田舎では在り来たりなひとつの風景。


 日記を読むまではどこかでこれは夢なのではと思っている自分がいた。

 しかし、日記を読み諭されてしまった今は現実を受け止めることで精一杯だ。


 それにしても日記に書いてあった内容が本当だとしたらこれは最早、日記ではなく異世界の攻略本に近い。


 改めて、この日記を惜しげもなく書き残してくれたヤマダタロウさんと渡してくれたリーベ婆さんに感謝を伝えたい。


 そして、出来ることなら『日記2』も読みたい。


コンコンッ!


 不意に後ろの扉からノックの音が響き、続いてリーベ婆さんが声を掛けてきた。


「夕食の準備が出来たから食べにおいで」


 それだけ言うと足音が扉から遠ざかっていく。


 俺はベットの上に置きっぱなしになっていた日記を部屋にあった机の上に置き直して、夕食を食べに部屋を出る。




 このリーベ婆さんの家は薬類を売る店舗部分の他にキッチンと薬を調合する部屋に個人の部屋が2つの計5部屋ある。


 俺はキッチンへ赴くとすでにテーブルの上には食事が運ばれていた。


「早かったね」


「休んでいただけなので」


 ひと言だけ告げると席に着いた。


「二人分の食事を作るのもずいぶんと久しぶりだねぇ。粗末な物しかないが我慢しておくれよ」


 テーブルの上には細かく刻まれた野菜が入ったスープに拳ほどの大きさのパンがひとつ。

 世話になる身では贅沢は言えない。


「いえ、食べさせてもらえてその上、寝床も貸してもらってるのでありがたいかぎりです」


「そうかい、それじゃあ冷めないうちに食べようか」


「はい、いただきます」


 俺は手を合わせて、いただきますと言っただけなのにリーベ婆さんは雷に打たれたように固まってしまった。


「どうかしたんですか?」


「じいさんもそうやって食べる前に『いただきます』と言って手を合わせていたのを思い出してね。やはり、同郷の者同士習慣が同じなんだね」


 リーベ婆さんは懐かしそうな表情を浮かべている。


「手を止めさせて悪いね。今度こそ、食べておくれ」


「はい、いただきます」




 食事をりつつ、どうやって旦那さんの事や日記の話を切り出そうと考えているとリーベ婆さんに先手を取られた。


「育ち盛りには物足りない食事だろうけど、明日からやってもらう薬草採取をする森には野ウサギが出るから捕まえておいで、そしたら夕食にお肉が出せるからね」


 育ち盛りの俺はお肉と聞いて俄然やる気を出す。


「その森には魔物が出るんですか?」


「勿論、出るが食用に向いている生きものは野ウサギだけだね。後はスライムだらけで初心者でも危険は少ないよ」


「そうなんですね」


「安心しな、まず死ぬことはないさ」


「わかりました」


 あまり会話が弾まないことに変な緊張を感じる。


「じいさんの書いた日記は読んだかい?」


「はいっ!読みました」


「どうだい?役に立ちそうかい?」


「それはもう、攻略本のような内容で間違いなく役に立ちますっ!」


 思わず、声が大きくなってしまい、リーベ婆さんが驚いたのか細い目が少し見開かれた。


「あっ!大声出してすみません」


「いいさぁ、あんたの役に立つならじいさんも本望だろう」


 切り出すならここしかないと思い、聞いてみる。


「それで話は少し替わるんですけど、魔法スキルはどうやって覚えるんですか?」


「魔法スキルかい、魔法スキルは魔石を使って取得可能にするんだが今は魔石がないからねぇ。明日、薬草採取のついでにスライムを狩って魔石を集めてきな。そしたら教えてあげるよ」


「わかりました」


「後、日記の最後に書いてあったんですが2冊目の日記もここにあるんですか?」


「日記の2冊目かい?はて、あったかのう?」


「な、ないんですか?」


「ふぅむ、どうだったか・・・」


 考えるように押し黙ってしまったリーベ婆さんが話し出すのを待っていると再び、話し出した。


「私が知っている日記はあの日記だけだね」


「そうですか・・・」


「もしかすると、王都に住んでいる娘夫婦が知っているかもしれないけど悪いねぇ、力になれなくて」


「いえっ!十分なほど力になってくれているので気にしないでください」


 その後、食事が終わるまでお互いに無言になってしまった。




「明日は朝から私の弟子が来て、色々と教えてくれるだろうから今日はもう休むといいよ」


 食事を終えて、お礼ではないがせめてもの気持ちに皿洗いをしているとそう言われた。

 ここは日本ではなく、あかりに使う燃料は多少高価なため、言われた通り就寝する。


 リーベ婆さんに『おやすみなさい』と告げて、部屋に戻ると着のみ着のまま、ベットに横になり明日のことについて思いを馳せる。


 気付けば、ベットの虜となり意識は夢の中に落ちていた。






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