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 装備を買い整え、ついでに店内で着替えもさせてもらった俺は駆け出しの冒険者感丸出しで町を闊歩かっぽし、宿を探す。

 大通りには飲食店が軒をつらね、ちょうど夕食時とあって、あちらこちらから胃袋を暴力的なまでに刺激する香りが鼻を抜けていく。


 すぐに宿探しから食事へと心変わりすると良い匂いのする近くの店に突入。思えば、朝に携帯食料を少し口にした程度でこの町に着いてからは何も口にしていない。


 これでは流石の俺でも空腹に抗えるはずがない。




 店内は居酒屋に近い雰囲気でカウンターテーブルと普通のテーブル席に分かれている。ひとりぼっちな俺はテーブルを一人で占領する度胸もなく、まあまあ混みあっているのでカウンターへと進み、腰を降ろす。


「ご注文はお決まりですか?」


 俺とそう年端の変わらない素朴な少女が席に着くと同時に注文を聞いてきた。


「このお店のオススメ料理をひとつください」


 一人でお店に来てオススメを頼むなんて、またまた人生初の体験だ。

 まあ、メニュー自体何があるのかわからないからなのだが。




 待つこと、5分。


 出てきた料理はビーフシチューのような煮込み料理に小さなサラダとパン。


 「いただきます」と感謝もそこそこにビーフシチューもどきを一口。すると脳内に電撃が走る。


「(旨いっ!)」


 異世界に来てからというもの久しぶりの濃い味付けに理性のタガが外れたように食べ進める。

 思えば、この世界に来てから食事はリーベ婆さんのお世話になっていたから斯程さほど困らなかったが田舎の村では調味料は貴重な為、自然と薄味となり正直物足りなかった。

 幸いお肉は自分で狩っていたので他の家に比べれば、豪勢な方だったと思うが育ち盛りの俺には薄味の料理など、なかば修行に等しいものだった。


 気付けば、ビーフシチューもどきを平らげてしまっていた。


 その後、おかわりを2回程して満足すると重たいお腹を抱えながら「ごちそうさま」と言って、お店を出た。


 お店の名前は『満腹亭』。


 しっかりと日記に記して忘れないようにしておこう。




 久しぶりの満足感に満たされながら生き返ったように力強い足取りで宿探しを再開する。・・・が肝心の宿が見つからない。

 正確には宿は見つけているのだが装備を整えるのと夕食に時間が掛かってしまった為、遅くなってしまいどこへ行っても既に満室と言われ部屋が空いていないのだ。

 それに数日前からキャラバンがこの町に滞在しているのが満室に拍車をかけているようだ。


 完全に出遅れ、途方に暮れる俺はふと行商人の言葉を思い出す。


「(宿に困ったら、教会に行きなさい)」


 ひょっとしたら行商人は今の時期に宿屋が混むことを知っていたのだろうか?

 どちらにしろ、こうなっては教会に行ってみるしかないと、行商人の言葉を頼りに一筋の望みにかけて、教会を目指す。


 教会は町の外れ、北側の外壁付近にひっそりと建っていた。


 立地的に考えて思ってたよりもこの領内は宗教色が弱いのかもしれない。村でも教会に通っている人は少なかったと思う。


 町の大通りには数は少ないがオイル式のランプが街灯の代わりに吊るされており、歩くのに困ることはなかったが中心地から離れた、町中外部には街灯などはなく、民家から漏れる僅かな光と月の光だけが頼りだ。

 こうも視界が悪いと『夜目』スキルが欲しいが取得方法もわからなければ、あるのかどうかもわからない。

 これからはスキルの情報を集めるのこともした方が良いかもしれない。


 目立ってしまうが生活魔法の《ライト》を使い、慣れない夜道をゆっくりとした足取りで目的地に向い歩く。

 教会の周りにも住宅が密集しているのだが既に皆、寝静まっているのか静かなもので道は閑散としている。


 こんなにも暗く静かだと、近くにある脇道から今にも魔物が飛び出して来そうだ。




 《ライト》の弱い光が照らす暗闇の中、なんとかつまずくこともなく教会へとたどり着いたが完全に陽が沈み夜分ということもあってか、すでに教会の光は消えて、扉は閉められていた。しかし、ここまで来てすんなりとは諦められない俺はドアノッカーを叩く。


「コンコン」


 相手にちゃんと聴こえただろうかと思っているとかんぬきが外され、教会の扉が重い音と共にゆっくりと開かれる。


 扉の先には片手で火の灯った蝋燭ろうそくを持ち、緩やかな僧侶服を着たおじいちゃん神父がひとり、俺が何者か見極めるように見ている。

 村の教会ではおじいちゃん神父だったので今度こそはと巨乳な美人シスターを期待していたのだが出迎えてくれたのはまたおじいちゃん神父だった。どうやら俺にはとことん主人公補正が足りていないようだ。


 残念な感情はおくびにもださず、おじいちゃん神父に文句を言っても仕方がないので用件を伝えることにする。


「夜分にすいません。今夜泊まる宿が見つからず、教会に行けば泊めさせてもらえると聞いてやってきました。泊めさせて頂けますか?」


 俺の用件に納得したのか、おじいちゃん神父は1拍置いてから口を開く。


「・・それは大変でしたね。うちの教会でよければ、構わないですよ」


「ありがとうございます」



 こうして今夜泊まる場所は確保したがまさか教会の礼拝堂にあるベンチで寝るとは思っていなかった。まあ、毛布を二枚貸してもらえたし、ベンチを向き合わせてくっつければ見た目ベットみたいだったので寝心地はそこまで悪くなかった。






《今日の日記》


 どうやら俺はおじいちゃん神父と巡り会う星のもとに生まれてきたようだ。





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