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冒険者ギルドから出た俺は隣に建つ、ギルド直営店へと移動する。
直営店の外観は他と同じ木造に扉は片扉だ。看板には革袋?の絵が描いてある。
扉を開けば、来客を知らせる鈴の音が響く。
一歩を踏み出しお店の中に入れば、中は奥行きがあり、外観から見た想像よりも広かった。
「おう!いらっしゃい」
いきなり声を掛けられ、内心で驚いてしまったがそんなことなど、おくびにも出さず声がした方を確認すると店主が入り口の近くにあるカウンターの中で座っていた。座っている為、全身は見えないがかなりガタイが良いおっさんだ。
「坊主、見たところこの店は初めてみてえだな」
「あ、はい!」
「初心者みてえだし、なんかわからないことがあったら気軽に聞けよ!」
「わかりました。その時はよろしくお願いします」
「はっはは、珍しく礼儀正しい坊主だな」
俺は頭を下げて、一瞥すると店内を散策し始める。
店に置いてある商品は武器や防具からポーションや寝袋など、他はなんだかよくわからない雑貨のような物が置かれていた。
そして、雑貨類も気になるところではあるが俺も年頃の男子。やはり一番気になるのは武器だ。
すでに気持ちは初めて、ネズミーランドに行った時のわくわく感を上回っている。
気持ちが逸り、少し歩く速度が上がったが俺自身、気付いていなかった。
武器は目玉商品でもあるようでお店の一番奥に飾られている。
その一角には剣に槍に斧、棍棒に杖といった様々な武器が並べられ、武器特有の危険な魅力を放っている。
「わぁ~!」
今、俺の目はビームが出るかもしれないくらい輝いていることだろう。
武器の魅力に引き寄せられ、手短にある片手剣を手に取る。
片手剣は両刃造りで刃渡りも控えめ、所謂ショートソードというやつだろうか。
確かな重さを腕に感じつつ、片手剣を正眼に構えてみたり軽く振ったりしていると不意に声を掛けられる。
「全く腰が入ってないな」
ビクッと肩を震わせ、思わず片手剣を落としかける。
「剣ていうのはな、腕の力だけで振れば良いってもんじゃないんだ」
振り返れば、さっきまでカウンターに座っていたはずの店主が後ろで腕を組んで立っていた。
いつの間に移動していたのだろうか。
「俺が見てやるからもう一度構えてみろ」
「はい」
なんでこうなったと自問自答しながら俺は言われるがまま、なんとなく構える。
そして、ここからが長かった・・・。
そんな俺の構えを見た店主からダメ出しの嵐。
心が秒で挫けた。
この日、俺は生まれて初めて剣を握り、槍を翳し、斧を振りかぶった。
しかし、どれも店主のお眼鏡に叶うものはなく、話し合った結果。
俺の体格に尤も合う武器は短剣だという見解に至った。
まあ、短剣術スキル持ってるし当然か。
ゴールドスライムをタコ殴りにし、グリフォンとの戦いで折れてしまった替わりのダガー《15000G》1本と冒険者防具シリーズ《10000G》防具シリーズといってはいるがどう見ても少し丈夫そうな服に初心者用お得パック《5000G》を薦められるがまま、購入。
すでに店主の武器の扱い指導で疲れ切っていた俺には抵抗の意志はなかった。
・ダガー:ATK20
『冒険者防具シリーズ』
・冒険者の服:DEF5
・冒険者のベルト:DEF5
・冒険者のズボン:DEF5
・冒険者のブーツ:DEF5
『初心者用お得パック』
・リュックサック中型
・ミニポーション×5
(回復小)
・ポーション×3
(回復中)
・キュアポーション×1
(毒回復)
・携帯食料×3日分
まとめ買いした為、1000G値引きして貰い会計をしているとふとカウンターの後ろにあるショーケースに飾られたダガーが気になり、聞いてみる。
「そこに飾られたダガーは凄い武器なんですか?」
「ああ、これはこの店で唯一の魔法武器だ」
「魔法武器・・・」
今日イチで俺の心を鷲掴みにする言葉だ。
「人や国によって、魔法具とか属性武器とか魔剣なんて言われる物もあるが武器自体にステータスを上げる力や特殊な力を秘めた武器のことを総じて言う」
「ちなみにどんな能力があって、いくらぐらいするんですか?」
「こいつは『疾風のダガー』と言ってな、とあるAランク冒険者が使っていた短剣でな。装備するとAGIが+20されるんだ。魔法武器の中では最弱の部類ではあるが値段は300000Gと駆け出しには厳しいな」
俺はじっと、『疾風のダガー』を見つめながら思う。
今なら買えてしまうと。
「まあ、坊主みたいな初心者には過ぎた武器だな。ガッハッハ」
「(ぐはっ!)」
その後、魔法武器に興味が湧いた俺はあれこれと質問責めをして、色々とわかったことがある。
中でも尤も興味深かったのは俺でも素材さえあれば、作成出来る可能性があることだろう。
その際に錬金術店というワードが出てきたので心に深く刻んでおこう。
冒険者ギルドで討伐集計に時間が掛かり、直営店で話し込み、更に時間が経ったこともあって外に出た時には月が出ていた。
町は昼とはまた違う賑わいを見せて、夜の顔を見せる。
「それにしても、いつ見ても異世界の月はでけぇな」
ボンヤリとそんなことを呟きつつ、今夜過ごす宿を求めて彷徨い始めた。