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13ページ目






 部屋の中に光が差し、眩しさで目を覚ます。


 目を開ければ、最近では見馴れた天井に木の木目。

 よく覚えていないがいつものベットで寝ていたみたいだ。


 身体を起こそうと上半身に力を入れれば、背中に鋭い痛みが走る。

 あの戦いは夢ではなかったのだと実感が沸き起こり、起き上がるのを一旦、諦めてベットの中で曖昧な記憶を探る。


 グリフォンを倒した後、しっかりと魔法の袋に収納して満身創痍の状態のまま、重い体を引き摺りなんとか村に帰村。

 村の入り口で血だらけの俺を見た村人達が集り、何やら言っていたまでは覚えている。しかし、そこからの記憶はない。


 たぶん、そこで倒れて意識を失い、リーベ婆さんの家に運び込まれたんだろうとは予想はつくが・・・。


 服の襟の隙間からは丁寧に巻かれた包帯が目に入る。



ガチャ



 不意に開けられたドアに視線を向ければ、俺が目を覚ましているとは思わなかったと言わんばかりの表情をしたブリジットと目があった。


「「・・・」」



「「・・・」」



「「・・・」」


 俺から何か言わなければ、いけないのかと思っていると普段と違う口調でブリジットが口を開いた。


「替えの包帯持ってきたわよ」


「あ、はい、ありがとうございます?」


 なんで俺は疑問形なんだよと思ってしまったがブリジットは気にした様子もなく、やはり普段と違う口調で話し掛けてくる。


「包帯を替える前にお腹がすいてるだろうから何か取ってくるわね」


「お、お願いします」


 持っていた包帯を机に置くとご飯を取りに引き返してしまった。


「・・・」


 今までの態度との違いに違和感がひどい。


 これが青天の霹靂へきれきというやつなのだろうか。









 食事を持って戻ってきたブリジットに甲斐甲斐しくもお世話をされて、俺の方が一歳歳上なのに恥ずかしくてそれを口に出して断れない自分に不甲斐なさを感じているとリーベ婆さんが部屋に入ってきた。


「調子はどうだい?」


「お陰様でだいぶ良いです」


 ブリジットに世話をされている間、俺が村人達によって運び込まれてリーベ婆さんが処置してくれたことを聞かされた。


「師匠、交換した包帯を洗ってきますね」


「ああ、そうしておくれ」


 ブリジットは包帯を手に部屋から出ていった。

 いつもと態度が違うブリジットに戸惑っていたので部屋から出ていってくれて気持ちが少し落ち着いた。


「ご迷惑をお掛けしたみたいですみません」


「なに気にすることはないよ。まさか、スライムの森にグリフォンが出るなんて私も思ってもいなかったしねぇ。ましてや倒して持ち帰ってくるなんてね」


 あれ?グリフォンの事はまだ何も言っていないのにと不思議そうな顔をしているとネタバラシしてくれた。


 処置を終えたリーベ婆さんは俺の為に使ったポーションの補充をしようと魔法の袋から薬草を取り出そうと中身をテーブルにあけたら、グリフォンが出てきて驚いたそうだ。


「おかげでテーブルがひとつ駄目になっちまったがね。カッカッカ」


 テーブルを間接的に壊してしまったのも申し訳ないがリーベ婆さんがグリフォンに押しつぶされなくて良かった。


「事後報告になるがグリフォンは勝手に解体させてもらったよ。その際に村の衆にも手伝ってもらったからお礼にお肉を少し分けさせてもらったが素材はちゃんと残してあるから安心しな」


「そうなんですか。ありがとうございます」


「こちらこそ、村の衆が久しぶりに肉が食べられるって喜んでおったわ」


 やはり豊かな村とはいえ、お肉はなかなか食べられないようだ。


「それとこれを渡しておくよ」


 リーベ婆さんから渡された物を見て、頭に『?』が浮かぶ。


 リーベ婆さんの手の平にはキラリと光る欠片がひとつ。


 落とさないようにその欠片を受け取り、手の平に乗せてまじまじと見つめる。


 見た目はコップなどを割ってしまった時に出る小さな小さなガラス片に見える。

 というか、それ以外には見えない。こんなの其処ら辺に落ちていたとしても、まず気にも留めないだろう。


「おぬしも集めておるのだろう、その『力の欠片』を」


「!?」


 確かに女神様からのお願いで『力の欠片』の回収を頼まれてはいるが集めるには異常進化個体を倒す必要があるため、手にするのはもっと先の事だと思っていた。


 そもそも、なぜリーベ婆さんが『力の欠片』の存在を知っているのか。予想はつくがそうゆうことなのだろう。


「うちのじいさんも集めておってな、何度か見せてもらったことがあるのじゃよ」


 ・・・やはり。


「だから、きっとおぬしも集めておるだろうと思ってな、取って置いたよ」


「ありがとうございます!」


 まさか、あのグリフォンが異常進化個体だったことにも驚きだが意図せずに手に入れることが出来て、棚からぼた餅だ。


「傷は浅かったとはいえ、まだ完全には治っておらぬからな今日一日は安静にしておれ。それにブリジットが世話をしてくれるだろうしのぅ。カッカッカ」


 そうだ。俺にはまだ理解できない事象が発生していた。


「その・・・ブリジットの態度が急に変わったみたいなんですけど・・・なんでですかね?」


「ああ、おぬしは知らなかったねぇ。あの子には昔、仲の良い兄がいてね。それはそれはブリジットが馴ついていたそうだよ」


「・・・」


「それがある日、冒険者になるといって村を飛び出していってね。最初はブリジットも寂しさに堪えながら応援していて、手紙もちょくちょく届いていたらしいんだがある時からパッタリと手紙が途絶えてねぇ」


「・・・」


「冒険者になるといって出ていってから3年。ブリジットの兄と共にパーティーを組んでいたという冒険者がこの村にやって来て、げたんじゃよ」


 リーベ婆さんは皺が寄り、細くなった目を閉じて、想いを馳せるようにゆっくりと次の言葉を紡いでいく。


「ブリジットの兄は遠出した依頼の帰りにグリフォンに襲われて、命を落としたとな・・・」


「・・・っ!」


「それからかねぇ、あの子が冒険者や魔物に対して辛辣になったのは」


 正直、ブリジットにそんな過去があったなんて想像もしていなかった。


「グリフォンはあの子にとって最も憎い兄のかたきだったのさ」


 つまりは俺がお兄さんの仇を討ったみたいな?


「今回、おぬしがグリフォンを倒してきたことであの子の溜飲が少し下がったのかもしれないねぇ」


「・・・そうなんですね」


「まあ、おぬしには元々、関係ない話だからね。気にすることはないさ。それよりも今はゆっくりと休むと良い」


 それだけ言うとリーベ婆さんは部屋から出ていった。


 俺は再び、一人になった部屋で天井を見つめながらブリジットのことを考えるのであった。






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