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狩りの対象をシルバースライムとゴールドスライムに絞るようになってから1ヶ月が経った。
この異世界に来てからは約5ヶ月になる。
季節もすっかり様変わりし、夏の強い陽射しが肌を焼く。
生活魔法のひとつ《クール》を使い、自身の周りの気温は適温に保たれている為、言う程キツくはないが陽射しまでは遮れない。まあ、森の中ということもあり、日陰がそこらじゅうにあるのでいざとなれば木陰で休めば済むことだ。
これまでの間にブラックスライムとホワイトスライムも当然、討伐数が1000匹を超えており、新たなスキルとステータスポイントをゲットしている。
意外だったのは獲得したスキルだろう。
これまで属性耐性を獲得していたので俺はてっきりブラックスライムとホワイトスライムからは聖属性と闇属性耐性が貰えるものだと思っていた。つまりは違ったということなのだが見てもらった方が早そうだ。
名前:今井 りく
種族:人族
Lv:40
SP:110
ステータスポイント:0
STR:200
VIT:200
INT:200
MND:140
DEX:200
AGI:200
LUK:105
《スキル》
解体Lv3/100
生活魔法Lv23/100
風魔法Lv8/100
索敵Lv21/100
隠密Lv4/100
投擲術Lv30/100
短剣術Lv5/100
体術Lv1/100
回避Lv1/100
《耐性スキル》
風属性耐性Lv1/10
水属性耐性Lv1/10
火属性耐性Lv1/10
土属性耐性Lv1/10
毒耐性Lv1/10
暗闇耐性Lv1/10
魔封耐性Lv1/10
《ギフト》
女神の恩情
《称号》
スライムキラー【神】
ブラックスライムとホワイトスライムから獲得したスキルは暗闇耐性と魔封耐性だった。毒耐性スキルはパープルスライムからだ。
他にもスキルが沢山増えているがレベルが上がり、スキルポイントが増えたので必要そうなスキルを取れるだけ取ってみた。後、取得していないのは採取だけだが今後も取得することはないと思う。
レベルも40まで上がり、ゴールドスライムを倒してもなかなかすんなりとはレベルが上がらなくなってきた。
ゴールドスライムといえば、STR値を200に上げてからというもの称号の影響もあり、投擲だけで倒せる時がある。割合だとおよそ3割といったところか。
最近の悩みは余ったスキルポイントをどうするかだ。
どうするとは今後のことを考えてスキルポイントを残しておくか、楽して好きなスキルレベルを上げるかもしくは上げ方がわからない耐性スキルに振ってしまうかどうかだ。ものすごく悩む。
悩みつつもいつものように森を徘徊してスライムを狩っていると索敵に反応があった。しかし、いつもと違う違和感を感じる。
明らかにスライムよりも反応が大きいのだ。
この森でスライム狩りを開始してからというもの忘れかけていた警戒心を思い出し、ゆっくりとした足取りで大きな反応の元へ向かう。
この5ヶ月で庭とまでは言わないが多少、詳しくなった森の中を相手に気付かれないように倒木などの遮蔽物を上手く使い、近付いていく。
「っ!?」
反応の近くに来た所で木の陰に隠れ、様子を伺った俺は大きな反応を出している魔物を見て、息を飲んだ。
そこには鷲の頭部と翼に獅子の躯を持つ異様な魔物が木陰で躯を休めていた。
初見だが俺はこの魔物を知っている。
「(グリフォンだっ!!)」
物語やゲームなどによっては中級から上級に分類される強さを持つ魔物だ。
間違ってもスライムの楽園たる、この森にいて良いモンスターではない。
ましてや現在、ゲームでいう始まりの村周辺でレベル上げしている俺にとっても会っては駄目な相手だと思う。
グリフォンをよく見れば、身体中に傷を負っており、所々から血が流れている。
推測するに何者かと争い、どこかから逃げてきたのだろう。
手負いの魔物とか厄介過ぎる。
冷静に観察を済ますと勝算がわからない以上、危ない橋は渡りたくない俺は気配を殺し、見なかったことにして来た方向へと引き返す。
パキッ!
足下から不穏な音が鳴った。
どうやら枯れ枝を踏み割ったようだ。
額から伝う汗を感じながらゆっくりと振り返り、グリフォンがいた方を確認する。
「キュイィー!!」
猛禽類特有の鋭い視線と俺のつぶらな瞳が絡みあう。
「(マズイッ!)」内心で舌打ちをし、今すぐにでも逃げ出したいがグリフォンから放たれる殺気がそうはさせてくれない。
「・・・くっ!」
相対しただけでこのプレッシャー。やはり、戦っては勝ち目は薄いと感じ、退くタイミングを見計らう。
張り詰めた緊張感の中、時間だけが流れる。
その間にもグリフォンは体勢を整え、今にも駆け出して来そうだ。
逃げるのは厳しいかもしれないと思い始めた頃、グリフォンが羽を広げて、大きな嘴を開く。
変化は劇的だった。
俺とグリフォンの間に立ち生える木々の幹は抉れ、または木々を薙ぎ倒し見えない何かが迫る。
咄嗟に横に飛び、姿勢を低くして頭を守って身構える。
見えない暴風は横たわる俺の背中を複数箇所、浅く切り裂き通り過ぎていった。
この時になって、背中に感じる痛みととも風のブレスを吐かれたのだとわかった。
もし、正面からまともに受けていたらと考えると俺の顔から血の気が引いていく。
グリフォンは俺を一撃で戦闘不能に陥らせる攻撃力を持っている。
これはこの上なく看過できない事実だ。
幸いグリフォンはブレスを吐いた反動なのかその場から動く気配を見せないので悟られないように急ぎ、ステータスを開き、ありったけのスキルポイントを風属性耐性に注ぎ込む。
風属性耐性レベルをMAXにするのに必要なスキルポイントは54ポイントだった。
残りは56ポイント。
少しでも生存率を上げる為に残ったスキルポイントを全て回避にまわし、回避レベルも10となった。
背中にズキズキとした痛みが走るが歯を食い縛り、魔法の袋から投擲用の石を取り出して、駆け出す。
戦闘用のスキルは短剣術や風魔法もあるがまだ抵レベルな為、有効とは考えづらい。ならば、俺が所持しているスキルの中で一番レベルが高い投擲術で攻めるのが無難だろう。
傷を負っているせいか、いつもよりも少し動きが鈍く感じるが木々を上手く使い、グリフォンの側面に回り込むように動く。
「(今だっ!)」
俺の動きを追うように合わせて動いていたグリフォンが怪我の影響からか態勢を崩す。
高められた集中力は一瞬の隙を見逃さず、素早く投擲する。
「キュイアアッ!?」
隙を見逃さずに投げた石は狙い通り、グリフォンの目を穿ち、重傷を与えた。
片目になったグリフォンは俺を射殺すように猛禽類の鋭い目を更に鋭くし、殺意をぶつけてくる。
心臓を鷲掴みされるような感覚に抗い、死角となった側面から執拗に石を投げつける。
この攻撃を嫌ったグリフォンは羽を広げ、羽ばたく。
空に逃げられれば厄介だと思っていると目の前の木が音をたてて切り倒された。
風魔法のウィンドカッターと気付き、回避不可能とわかるや腕を交差させてガードする。
風属性耐性を上げたのは効果覿面で服の袖は切られたが腕には赤い筋が残る程度だった。
グリフォンの風魔法を見て、思い出したかのように俺も石での投擲の他に風魔法のウィンドカッターを織り混ぜて攻め立てる。
遠巻きに攻め続けることで元々、グリフォンが傷付いていたこともあり、目に見えて弱っていくのがわかった。
それでも油断することなく、執拗に攻撃を加え続けているとついにグリフォンが力なく膝を着く。
所持していた石もなくなり、残るはダガーのみ。
ゆっくりとダガーを構えながらグリフォンと正面から相対すれば、既に虫の息。
不意な強敵との遭遇で気付かなかったが手負いのグリフォンも相当な無理をしていたのだろう。
小さく顔を上げたグリフォンと目が合う。
根本から種族も違えば、言葉も通じないはずなのだがこの時の俺には止めを刺されることを願っているように感じた。
止めを刺す為にダガーを振りかぶりとグリフォンは静かに目を閉じる。
俺に逡巡や躊躇はなかった。
綺麗に振り抜いたダガーは一直線に飛んでいき、寸分違わずにグリフォンの眉間に突き刺さる。
「ドサッ!」という音と共に大きな躯は横たわり、こうして初めての魔獣狩りは幕を閉じた。