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『異世界転移』
今では数多くの小説で用いられる言葉であるがまさか自分自身が巻き込まれる日が来るとは夢にも思わなかった。
そんな俺も異世界に来てから3ヶ月が過ぎようとしていた。
俺が今いる場所はロンダール王国内にいくつも存在する領都のひとつ、シュタット領と呼ばれる領都から歩いて、2週間以上はかかるらしい田舎ではあるがとても平和な農村だ。
この農村の一帯は気候や環境にも恵まれ、干ばつや水害等の自然災害といったことには無縁で領内でもトップクラスの食糧生産地となっており、領主のお墨付きをもらうほど、重要な村のひとつに数えられている。
その為、行商や商人一団が時おり来ては食糧を大量に買っていき、3ヶ月に一度は騎士団が見廻りにくる。
俺はそんな田舎にある唯一の薬屋の空き部屋を現在は間借りして寝起きしている。
俺は部屋の窓から射す、柔らかな月の明かりを頼りに日課の日記を書きながら転移してきた当時を思い出すのであった。
◇◇◇
その日は休日であり、まだ中学生の俺は学校で使うノート等の文房具を買って、家に帰る途中だった。
春の心地良い陽気に足取りも軽く、なんの変哲もない道を歩いていた俺は不意に足もとがフワッとした感覚に襲われて気付けば、真っ白な空間に美女と向かい合っていた。
「初めまして、私はあなたが住んでいた世界とは別の世界を管理する女神です」
「(・・・はぁ?)」
「突然のことで驚いていると思いますが、あまり時間がないので手短に説明させてもらいますね」
「あなたは私が管理する世界の者によって召喚に巻き込まれてしまいました」
「(・・・召喚?巻き込まれる?)」
「巻き込まれたあなたには、本来なら召喚された者に附与される能力がありません」
「しかし、それでは召喚に巻き込まれたあなたにあまりにも無慈悲な為、代わりに私から『贈り物』を送っておきます」
「(ギフトってなんだ?)」
「もう少し私に本来の力があれば、説明出来たのですがもう時間のようです。あなたにはこれから先、困難が待ち受けているとは思いますが決して諦めないでください」
「・・・・・・・ん?」
眩しい光に包まれ、次に気付いた時には買い物に出掛けていた時の姿のまま、森の中に立っていた。
「(いったい何だったんだ?)」
視界には木々が広がり、一瞬、夢かもと思ったが手にはビニール袋。中には買った文房具がしっかりと入っていた。
意外に冷静な自分に驚きつつも訳もわからぬまま、突っ立っていてもどうしようもないので森の中をひたすら進むことにした。
どれくらい歩いただろうか、少し疲労が出始めた頃、森は拓けて、遠くに建築物を発見した為、ひとまず安心する。
しかし、それも束の間の安心でしかなかった。
建物に向かい、進むにつれてこの集落の生活レベルや規模が見えてくる。
まさに『村』という言葉がぴったりな辺鄙な畑が広がる農村だったのだ。テレビでたまに放送されている田舎を巡る旅番組に出てきそうなくらいだ。
日本の文明に慣れた俺は新たな不安を抱えつつも、やっと抜けた森に戻る選択肢はなく、小麦畑が広がる小路を歩いて村の中へと入っていった。
結果からいうと俺の不安は的中した。
村人達は基本的に自給自足の生活を送っており、文明の利器などかけらしかなかったのである。
しかし、諦めなかった俺は村人から話を聞き、村で一番の物知り婆さんがいるという唯一の薬屋へとたどり着いた。
「すみません、お婆さんはいませんか?」
薬屋の扉を開けて、声をかける。
俺の声が止んでから十秒ほど経って、奥の間から腰が曲がり始めた老婆が姿を現す。
「どうしたんだい?いつもより早いじゃないかい?」
誰かと勘違いしているのだろう。問いかけるように語りかけてくる。
それも数瞬、俺の姿を見ると少し目を見開き、笑顔を浮かべた。
「初見のお客さんだね」
お婆さん改め、リーベ婆さんにも先に会った村人達に同様、俺に起きた出来事を説明すると思い当たる節があったようで俺のことを『迷い人』だと言った。
掘り下げて聞いてみれば、『迷い人』は大変珍しい存在ではあるが全くいないわけでもなく、驚くことにリーベ婆さんの亡くなった旦那さんが『迷い人』だったらしい。
リーベ婆さんは俺で二人目ということもあり、不思議な縁もあったもんだねと笑っていた。
「ちなみにその旦那さんはなんて名前だったんですか?」
「ウチのじいさんかい?ウチのじいさんの名前は『ヤマダ タロウ』だよ」
最早、亡くなっているとはいえ、明らかな日本名に安心感を覚えた。
「しょうがないねぇ。まぁ、これも何かの縁さね」
少しではあるが俺の顔から不安が払拭されたのを見てかわからないがリーベ婆さんは二つの提案を示してくれた。
一つ目はどうせ泊まる場所もなければ、泊まるお金もないだろうからと今は亡き旦那さんが使っていた部屋を使っていいと言われた。
二つ目はこの村で冒険者をしないかというものだった。
『冒険者』
異世界転移よりも遥かに使われている言葉。
地球では中2であり、まさに厨二病を発症している俺には素晴らしい響きである。
リーベ婆さんの提案に二つ返事で答えると奥の間に戻り、1枚のカードを持って来た。
説明など最早必要ない。間違いなくギルドカードだと確信するとやはりギルドカードであった。
しかし、なぜリーベ婆さんが持っているのか気になり、聞いてみるとリーベ婆さんの経営する薬屋は委託されて、冒険者ギルドの仮出張所も兼ねているらしい。
ただし、登録のみを行っている。
詳しく聞いてみると、ギルドの手を借りなければ解決出来ない仕事もなく、これといった事件も起きたことがない為、正式にギルドを置いては赤字が目に見えてるわ、転属に希望する人員もいない為、リーベ婆さんが委託という形で請け負ったらしい。
ちなみにリーベ婆さんは若い頃、王都で冒険者ギルドの受付をしており、その時に旦那さんと出会ったとのことだ。
話を聞きながら登録は簡単に終わり、冒険者としての説明に変わっていった。
まず、冒険者にはランクが存在する。
ランクはGから始まり、F、E、D、C、B、A、Sまである。これはギルドで仕事を受注し完遂することによって徐々に上がっていく。
ただし、Dランクからは試験に合格しなければ上がれない仕組だ。
そして、Sランクだけは特殊でギルド本部に轟くほど活躍して初めて、Sランクに見合うか協議されるらしい。
次にステータスについて。
ここで初めてこの世界にはステータスが存在することを知った俺は居ても立ってもおられず、試しに自身のステータスを確認した。
名前:今井 りく
種族:人族
Lv:1
SP:0
ステータスポイント:0
STR:15
VIT:15
INT:50
MND:15
DEX:15
AGI:15
LUK:30
《スキル》
《ギフト》
女神の恩情
まずステータスだがリーベ婆さんに見てもらったところ、INT値は高いものの全体的には至って普通とのことだ。
そして、INT値が高いのは日本で義務教育を受けていたおかげみたいで迷い人によく見られる特徴らしく、リーベ婆さんはそう言えば、ウチのじいさんもINT値が高かったねぇと独りで納得していた。
。
念の為、INT値が50だとどの程度の実力なのか聞いてみたところ、魔法使いとしては駆け出しだと言われた。
それでも俺にはまだ『女神の恩情』なる《ギフト》があるのでリーベ婆さんに見てもらう。
「こ、これはっ!!」
《ギフト》を目にしたリーベ婆さんの驚きに俺もチートきたぁーと意気込むのも束の間。
「ウチのじいさんも持ってたわ」とおもいっきり《ギフト》が被ったようだ。女神様の手抜き感が凄い。
しかし、それも《ギフト》の効果によっては神采配にもなる。
「ちなみにどんな効果があるんですか?」
「なんだったかね。ウチのじいさんから聞いたんだけどね。確か大変だけど、なかなか凄い能力だったと思うんだけどね」
なんだか煮え切らない答えにモヤモヤする。
「忘れちまったよ。だけど、じいさんが書いた日記があるからそれを後で渡すから見てみな。それっぽいことを書いてたと思うから」
こうして俺の異世界活動において、運命的な出会いとなる日記と出会うのであった。