第95話 最悪
今日も頑張りましょう。
元気に振り回っている梨絵の横で昌子さんの顔が青ざめていたのを感じた。
昨日の診断の後から昌子さんの様子がおかしい。
梨絵の大丈夫と言う声に俺は少しも安心する事が出来なかった。
朝食を食べ終えた梨絵の検診が始まる。
ベッドから立ち上がった梨絵は昨日ほどではないが多少、右足を引きずっている。
俺は手を貸そうと左手を差し出したが、本当に大丈夫だから!と言って自力で診察室まで歩いている。
そんな俺達の後ろを歩いている昌子さんは、相変わらず何も話さない。
梨絵が診察室に入って行くのを見てから
「本当の事を教えて下さい」
と昌子さんに迫った。
しばらく立ち往生の形となった昌子さんは
「あとで…ちゃんと話すから…」
と残して診察室に入っていった。
1人残された俺は朝だというのに薄暗い廊下の椅子に腰かけ事故の時の事を思い出す。
あの時は昌子さんと一緒に梨絵の手術が終わるのを待っていた。
今みたいに1人ではなかった。
1人で待つ寂しさは小学生の頃に卒業している俺にとっては何も感じなかったハズだ。
だけど、今ほど誰かに傍にいて欲しい気持ちはない。
不安でしょうがない俺を誰か支えて欲しい。
誰か傍にいて欲しい。
誰か話しかけて欲しい。
梨絵もそうなのだろう。
今ほど梨絵の気持ちが解った瞬間はない。
そんな事を考えていると梨絵の診察が終わった。
診察室から出てきたのは梨絵1人だった。
「昌子さんは?」
と訪ねると
「何か話しがあるって」
梨絵はそう言うと自分の部屋に向かって歩き出した。
診察に向かう時よりも帰る時の方が足を引きずって見えるのは気のせいではなかった…
昌子さんが部屋に帰ってきて、これから仕事に向かうと言う。
この調子で仕事になるハズも無いと考えている俺は昌子さんに
「ちゃんと話してからにして下さい」
と、出て行こうとする昌子さんを制した。
「梨絵の前では…」
昌子さんは小声で俺に言う。
それなら俺も外に出ればいい。
梨絵に昌子さんを送ってくると言って外に出た。
病院の駐車場で車のロックを外した時、昌子さんは
「最悪…本当に最悪の事だけど……足の…切断も考えといて…くださ…」
最後まで言えず昌子さんはその場で泣き崩れた。




