第86話 手
では、どうぞ!
期待していた俺がバカだったのかこの日は何も起きなかった。
1人寂しく寝た俺は、次の日の朝ダルそうに起きてきた。
美代子は梨絵を向かえに行く為、早く家を出る俺の朝食の準備を始めていた。
「おはよう〜」
典型的な朝の挨拶までダルくなる。
「おぅ〜」
しか答えられない。
「……」
そして昨日とは変わって無言での食事時間となる。
何があったの?
とかも聞いてこない。
聞かれても答えられないが少しは心配して欲しい。
否、俺が1人で先走っていたのは分かるけど…
まぁ、幾らでもチャンス?はあるからね!
朝食を終えた俺は梨絵を迎えに美代子より早いバスに乗る。
昨日1日で美代子との仲が親密になった俺としてはやっぱり今日も顔がにやけている。
夜の事は忘れて。
梨絵の家に着くと玄関先で俺を迎えてくれてそのまま学校へ向かい歩き出した。
途中、他愛も無い話しをしながら向かっていると梨絵の足取りが重いのか、歩くペースがいつもより遅く感じる。
後ろから他の生徒が俺達の事を抜き去って行くのを見ても分かるほど俺達のペースは遅い。
また足が痛み出したのか心配した俺は
「足、大丈夫か?」
と梨絵に聞く。
梨絵は俺の隣では無く一歩下がった位置で手を振りながら
「大丈夫、大丈夫」
と言った。
大丈夫と言っても梨絵のペースに合わせていると遅刻は免れない。
別に俺は遅刻したからと言っても問題ないが、事故の影響でかなりの日数を休んでいる梨絵はキツいかもしれない。
幾らテストで良い点数を取っているといっても学校に復帰した今では通用しないだろう。
だから俺は梨絵に手を差し出した。
俺が引っ張る形で梨絵を学校まで連れて行く為に。
「…ありがとう」
と言って梨絵は俺の手を取る。
前にも思った事だが梨絵とは自然と手が繋げる。
逆に美代子とは手を繋いだ事が無いことを思いだす。
今までの俺だったら恥ずかしくて繋げないかもしれない。
でも今は美代子と手を繋いで街を歩いてみたい。
美代子とデートというものをしてみたい。
この時の俺は梨絵と手を繋ぎながら美代子の事ばかり考えていた。




