第108話 雪
季節外れですみません。
今にも雪が降りそうな雲空の下を車椅子を押しながら歩いている。
梨絵と他愛もない会話をしていると冷たい雫が頬を伝わった。
梨絵にも感じたようで二人一緒に空を見上げると
「雪だ〜」
と梨絵が可愛いらしい大きな声を出した。
まだパラパラと降ってくる雪を見ながら積もる前に帰らないとと心配している俺を他所に梨絵は久しぶりに見る雪を心から楽しんでいるかのようだった。
確かに雪と言うのは乙女心を擽るのかもしれない。
しかし、車椅子を押しながら歩いている俺にとっては街中がどんな綺麗に雪化粧をしても苦痛以外の何者でもない。
車などを運転する大人の気持ちが解った感じがした。
早く帰らなければと焦る気持ちとは裏腹に、少しずつアスファルトが見えなくなり車椅子の進みが悪くなってきた。
それまでは雪を楽しんでいた梨絵もようやく状況を理解し始めたのか
「家まで大丈夫かな?」
と心配してくれた。
梨絵の家までは普通に帰れればあと5分ぐらいの所まで来ていたが、車椅子のタイヤが雪に絡み付く今の状況だとまだまだかかりそうな雰囲気だった。
「梨絵…オンブして行く」
静かに答えた俺は車椅子の前にしゃがみ込み梨絵を背中に乗せた。
少し恥ずかしがっていた梨絵が俺の言う事を素直に聞いたのは早く家に帰りたかったのか、俺が車椅子を押す辛さが解ったのか、それともただ単に俺の背中に乗りたかったのか…は梨絵しか解らない。
さっきよりも進みは早くなったが二人分の体重がかかる足は降り積もっている雪の中にのめり込んでいく。
一歩一歩慎重に進ませる俺に梨絵は肩に置いていた手を首に巻き付けてきた。
一瞬驚いたが振り落としてしまうよりはマシなので余り気にはしなかった。
否、背中に当たるモノを気にしないように努力していた。
なんとか理性を保りつつ梨絵の家までたどり着いた。
肩で息する俺に梨絵は
「わがまま言ってゴメンね」
と俺に謝ってきた。
車で帰ろうと提案した俺の意見を遮った事を謝っているのだろうが、無事にたどり着いた今となってはどうでもいい事だった。
「大丈夫だから。それより早く身体拭けよ」
と洗面所から持ってきたタオルを梨絵に手渡す。
雪とはいえ触れれば雨と一緒で身体は濡れる。
頭の先から足の先まで濡れている身体を拭いていると梨絵の携帯が音を鳴らした。




