第106話 鍵
どうも。では、どうぞ!
久しぶりにゆっくりと眠った俺は起きてすぐに梨絵の家に向かった。
いつものように揺られながら海岸線を走らせるバスの中では学校へ向かう学生達から梨絵の状況や美代子の事なんかを質問される。
答えようが無い俺にとっては苦笑いしながら誤魔化すしかないが、中には二人の事を好きだったヤツ等から睨まれる感じも覚える。
改めて二人の人気はすごいなと感じるのと、何故二人とも俺だったのかの不思議さが入り交じっていた。
駅前に着いたバスを降りて学校へ向かう学生達とは逆方向の梨絵の家に行く。
梨絵の家に着くとポケットから鍵を取り出して家の中に入って行く。
鍵は昌子さんから貰っていた。
母娘の二人暮らしの為、昌子さんはどうしても仕事が欠かせない。
これでも仕事の時間を減らしていた。でも完全に辞めて看病に専念出来る程の余裕は無いらしい。多少の補償金は入るらしいが…
昼間の時間帯梨絵に何か合ったら困ると言われて鍵を預かっている。
今となっては勝手知ってる梨絵の家なので、玄関で軽く梨絵を呼んで室内まで上がって行った。
リビングに入った俺はソファーに座っていた梨絵に朝の挨拶をする。
病院の車が迎えに来るまでまだ多少の時間は残っていた。準備はすべて完了していたみたいで可愛いらしい笑顔を俺に向けてくれたが、梨絵の右足は殆んど感覚が無いらしい。
また、外で走り回ったりは出来ないので殆んど家の中で過ごす梨絵の身体はだんだんと細々くなっていくような気がした。
家の中とかは松葉杖で動いたりするが外では掴まる所も余りないので殆んどが車椅子での外出だった。
そんな不自由さを感じさせない程の元気良さは変わらなくいつも傍にいる俺の事をまだ好きだと言ってくれる。
でも、まだ俺には梨絵の気持ちに答えられる事は出来なかった。
人を本気で好きになったのは美代子しかいなかったし、多分これからも……
情で梨絵と付き合う事は出来ない。
そんな事は梨絵に対して失礼だし美代子に対しても失礼だ。
俺はそんな事はしたくない。
美代子の事が完全に忘れる事が出来たら。
梨絵の事を愛せるようになったら。
次に進む事が出来る。
現実によく聴く、初恋は結ばれないという話しを昔は信じていなかったが、今考えるとそうだったのかなと信じようとしている俺は、心の何処かで梨絵の事を愛したいと感じているのかも知れない。




