第102話 海岸線
今日もよろしく。
病室に戻ろうと振り替えったら美代子の姿があった。
さっきまで美代子の事を考えていた俺は美代子を目の前にして言葉が出なかった。
なぜ美代子がここに居るのだろうか?
さっきまで友美や梨絵と楽しく話ししていたはずなのに。
お互い見つめ合ったまま言葉が出ない。
数秒たっただろうか美代子が沈黙を破った。
「こんな所で何してたの?」
「…別に」
「……」
会話が続かない。
話したい事は沢山あるはずなのに。
「梨絵ちゃんの所、戻る?」
「あぁ」
美代子と短い会話が終わり二人で病室に戻る。
長い廊下は俺達だけの足音しか聞こえない。
まるで周り中の時間が止まったのかのように…
病室に戻りしばらくすると昌子さんが仕事から帰ってきた。
初対面である美代子と軽く挨拶をした後、俺達は家に帰る事にした。
元気よく挨拶する梨絵はどこかしら強がっているのが解る。
友美や美代子の前では全くと言っていいほど痛がる素振りを見せなかった。
でも、俺には解る。
梨絵の痛みが…
三人でバスに乗るとよく飽きないなと感心する程、友美と美代子は喋り続けている。
そしてまた1人残されている俺は窓越しに写る海を眺めていた。
駅から俺達の家に向かうバスは海岸線を走るので海を眺める事が出来る。
小さい頃から見飽きていたハズなのに、夕日が照らされている海岸を見ていると、あの日の事を思い出す。
小学校に入る前に交わした美代子との約束。
今、全てが崩れ落ちようとしている。
もうあの頃には戻れない。
沈み行く夕日を見て俺は、美代子達に解らないように目尻に溜まった涙を拭いた。
バスを降りて途中の曲がり角で友美と別れる。
美代子と二人で家へ向かい歩き出すと
ふと美代子の足が止まる。
俺が振り替えると
「話し……が、あるんでしょ?」
と聞いてきた。
「……あぁ」
美代子に答えた俺はまた歩き出す。
それは家の方向ではなく、小さい頃良く遊んだ砂浜に向かって……




