ゴブリン強化パッチ
ゴブリンは地球においていたずら好きの妖精で、妖精はケルト人にとって神に近い存在だ。
そもそも妖精がか弱い存在として扱われるのは、唯一の神を信じるあの宗教のせいで本来ならアーサー王伝説とか北欧神話のように、いや話がそれた。
最近の小説や漫画では、ゴブリンを小鬼と言うらしい、小鬼は日本において最強の妖怪、鬼の下位種、例えるならドラゴンの下位種のワイバーン的な存在だろう。
この世界におけるゴブリンは、妖精ゆえに魔術に耐性があり、鬼のごとき恐ろしい怪物である。
ゴ(キ)ブリン、ゴキブリに例えられるほど繁殖力が高く、圧倒的な数で登場人物に無双される雑魚、そんなイメージが定着しているが、繁殖能力の高さは利点である。
身体が小さい、妖精や小鬼、また雑魚モンスターというイメージからも、矮小な存在として体の小さなイメージが定着していることだろう。
小さな人型の生き物、これはまさに小人と言えるのではないだろうか?いや言える。無理やりにでもそれっぽい物を合わせて最強のゴブリンを生み出すという今回のコンセプトだから、ゴブリン=小人が出来る。ヨーロッパでは妖精と小人が同じものとして扱われる時代もあったし大丈夫だろう。
では小人とは何だろうか、ドワーフやノーム、ホービット、絵本の靴屋に出てきそうな小人、作者は技術力がありそうだったり、鉱石に詳しそうだったり、そう言った小人を選んだ。きっと小人なら銃を作ってもおかしくないと思わせるために。
また体が小さいことは、銃を用いて戦う世界であれば大きな利点になりうる。人間の子供ほどの大きさだとしよう。そんな体長のゴブリンが塹壕に隠れれば、それを殺すのは非常に難しくなる。
「よって、妖精ゆえの魔術に対する耐性、最強の妖怪の鬼のごとき力、繁殖能力、小人のごとき技術力、銃で戦う。これを持ってゴブリンの強化を行う。」
緑色の小さな怪物は、鬼のごとき剛力と、小人のごとき小さな体躯で坑道を掘り進める。
木々を切り倒し、丸太を軽々と持ち運ぶ。
溶かされる鉱石は、優秀な技術者によりありとあらゆるものへと加工される。
「ギグ、グゲガ、(時は、来た、)」
「そうだとも、」
学生服を着た金髪の少年がゴブリンの声にこたえるようにそう呟く、少し太りぎみの少年はニヤニヤと笑いながら指を鳴らす。
「諸君、かつてゴブリンの神を勤めていた前任者は、魔王に支配されることで生き延びようと試みた。」
そのしぐさ一つ一つがゴブリンの視線を引き、その言葉に魅了された。
「ギャ、ギャガ、ギャギャギャギャ、」
翻訳のゴブリン、神の言葉を伝える神官とでもいうべきゴブリンが、偉大なる神の言葉を多くの同胞に伝えようと声を張り上げる。
「それが使いつぶされるだけの未来だと知りながら従属による生存を選んだ。あの愚物の唯一の成果は私という次の神に君たちを残しただけであり、そのすべての行いが全てのゴブリンの未来を奪う行為に等しかった。」
怒りに震える者、過去を嘆くもの、誰もがかつての屈辱を思い出す。
「今の我々は国は存在せず、他種族の支配領域の端で隠れ潜む事しかできない、けれど私が信じた君たちなら違う。私が信じる君たちは、鬼のごとき力を持ち、妖精の様に魔法を操り、小人のごとき武器を生み出す最高の種族である。」
「1億4千万のゴブリンによる同盟である。志を同じくする同士が、この場所で牙を研いでいる。しかし、他の種族は違う。同じ種族同士が誰が上に立つかで争っている。我等は違う。1億4千万のゴブリンによる強固な同盟であり、ここに参加しているゴブリンは、自分が生活するのに必要な道具を作るだけではないと知っている。自分が飢えないだけの作物を作ればいいわけでもないと知っている。ゴブリンリーダーやゴブリンキングともてはやされた者が、その地位を捨ててここに集ってくれている。ここにいる者は知っているのだ、我らがゴブリンの輝かしい未来のために、ゴブリンによる偉大な帝国を作るために。」
沈黙、長すぎず短すぎない、そんな静寂が世界を包む。
「集った同士諸君、私が神としてより高位の力を得たように、本来の力を取り戻したことだろう。そんな諸君らを私は信じている。ゆえに命じる。産めよ、増えよ、地に満ちよ、その暴力的な数の、ゴブリンの海を持ってこの世界を征服せよ。」
「私は諸君を信じている。ゴブリンという種族を信じている。なすべき事を成せ、私が与えた力を存分にふるえ。」
弾丸が放たれるようにゴブリンは動き出した。間抜けな降伏勧告、笑い声と共に放たれる矢、地下に掘り進められた坑道からあふれ出すゴブリン、蹂躙だ、戦争だ、虐殺だ、速やかに八つの都市が落とされた。四十の村が滅びた。
全ての種族に宣戦布告を行ったゴブリンは、電光石火のごとく進軍し、次の日には倍の数の都市を落とした。
ようやくゴブリンの危機に気が付いた種族は、同じ種族に助けを求め、連合軍を持って数の優位を確保した上で戦争に挑んだ。
彼らはゴブリンの数を脅威と断じたのだろう。しかし、無数の有刺鉄線と塹壕によって構築された防御陣地に阻まれた。大軍を滅ぼしうる魔法は十分に効果を発揮せず、時速七十キロの騎兵はその機動力を発揮できぬまま撤退を余儀なくされた。
彼らは、ゴブリンが強固な陣地を作るのであれば、迎え撃とうと考えた。
地形に合わせたマントを羽織り、銃を持って走り出す。陣を組んでの突撃ではない、互いに距離を取り、騎兵に匹敵する速度で駆ける無数のゴブリン、盾を構えた重装部隊が驚くように投げ飛ばされ、魔術は満足にダメージを与えれず、弓はその的の小ささに悩む。誰が想像できるだろうか、あの小さなゴブリンが鎧を着た兵士を吹き飛ばすと、誰が想像できるだろうか、これだけの大部隊が先遣隊に過ぎないと、誰が理解できるだろうか、ゴブリンに滅ばされるであろう未来を。