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境界の欠片  作者: 佐々瀬川 サラミ
第二章
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4.ミコトの優しい言葉

短め。次回、幕間を挟みます。







『――だから、何かあればすぐに僕に連絡してほしい。すぐに駆けつけるよう手配するし、不安だったら周囲の警備をすることも惜しまないよ』


 マサヒコさんは最後にそう言った。

 俺は彼の連絡先を受け取って、どうするかは後日、また伝えることにした。

 とりあえず今は頭の中がいっぱいで、なにをどう考えたらいいのか分からない。もしかしたら身内に犯人がいるかもしれない、という言葉もそうだけど――そもそも、食人事件なんて気がくるっている。そうとしか思えなかった。


 現実味が乖離している。

 そのせいで、俺はすぐに答えを出すことが出来なかった。一晩寝ずに考えたけれども、思考が鈍化するだけでなにも変わらない。

 そしてそのまま、朝の講義を受けているわけだけど……。


「……はぁ」


 当然ながら、その内容が頭に入ってくるわけがなかった。

 一番後ろの席に陣取って、大きくため息をつく。すると隣から、


「何だよ。今日はずいぶんとシケた面してんだな」


 ミコトの声がした。

 机に突っ伏しつつ、ちらり、視線だけ投げる。

 彼女はどこか不機嫌な表情を浮かべて、俺のことを見ていた。


「あぁ、なんていうか。ちょっと困ったことになってな……」

「困ったこと?」


 そして、俺がそう言うと小さく首を傾げる。

 表情がころころ変わる彼女は、一転して心配そうに眉をひそめた。


「んだよ、だったら相談しろっての」

「ありがとうな。でも、やめておく」

「……あ? なんだそれ」


 次は困惑したそれに。

 教授が黒板に板書することをメモしながら、少しイラついた様子を見せるミコトだったが、しかし心配してくれているのは間違いないらしい。

 それでもなかなか、打ち明けられないのはマサヒコさんの言葉があったから。


 ――もしかしたら、犯人は俺の『知り合い』かもしれない。


 それが、俺の中に暗い影を落としていた。

 もちろんだが、そんなことはあり得ないとも思っている。

 しかし保身以上に、周囲を巻き込みたくはない。そう思ったのだ。


「おい、ミキヤ。一つだけ言わせてもらうぞ」

「え……?」


 そう考えていると、どこか低いトーンでミコトがそう言った。

 なんだろうか。今までにないくらい、怒っているように思われる声色だ。いったい何を言われるのだろうかと、少しだけビクビクしていると……。



「オレたちはダチだ。まだ付き合いは短いけど、少しくらい信用しろ」



 不意打ちのように、優しい言葉をかけられた。

 ポカンとしてしまう。そして、無意識に頬が緩んでしまうのだった。


「ありがとな、ミコト……」


 そして、素直に感謝を述べる。

 今はまだ無理だけど、もう少ししたら相談しよう。彼女は信用しても大丈夫だ、と心の底からそう思えた。

 気持ちが楽になるのを感じながら、俺は前を向く。





 でも――思ってもみなかった。

 まさか、この日の夜にあんな光景を目の当たりにするなんて……。



 


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