4.ミコトの優しい言葉
短め。次回、幕間を挟みます。
『――だから、何かあればすぐに僕に連絡してほしい。すぐに駆けつけるよう手配するし、不安だったら周囲の警備をすることも惜しまないよ』
マサヒコさんは最後にそう言った。
俺は彼の連絡先を受け取って、どうするかは後日、また伝えることにした。
とりあえず今は頭の中がいっぱいで、なにをどう考えたらいいのか分からない。もしかしたら身内に犯人がいるかもしれない、という言葉もそうだけど――そもそも、食人事件なんて気がくるっている。そうとしか思えなかった。
現実味が乖離している。
そのせいで、俺はすぐに答えを出すことが出来なかった。一晩寝ずに考えたけれども、思考が鈍化するだけでなにも変わらない。
そしてそのまま、朝の講義を受けているわけだけど……。
「……はぁ」
当然ながら、その内容が頭に入ってくるわけがなかった。
一番後ろの席に陣取って、大きくため息をつく。すると隣から、
「何だよ。今日はずいぶんとシケた面してんだな」
ミコトの声がした。
机に突っ伏しつつ、ちらり、視線だけ投げる。
彼女はどこか不機嫌な表情を浮かべて、俺のことを見ていた。
「あぁ、なんていうか。ちょっと困ったことになってな……」
「困ったこと?」
そして、俺がそう言うと小さく首を傾げる。
表情がころころ変わる彼女は、一転して心配そうに眉をひそめた。
「んだよ、だったら相談しろっての」
「ありがとうな。でも、やめておく」
「……あ? なんだそれ」
次は困惑したそれに。
教授が黒板に板書することをメモしながら、少しイラついた様子を見せるミコトだったが、しかし心配してくれているのは間違いないらしい。
それでもなかなか、打ち明けられないのはマサヒコさんの言葉があったから。
――もしかしたら、犯人は俺の『知り合い』かもしれない。
それが、俺の中に暗い影を落としていた。
もちろんだが、そんなことはあり得ないとも思っている。
しかし保身以上に、周囲を巻き込みたくはない。そう思ったのだ。
「おい、ミキヤ。一つだけ言わせてもらうぞ」
「え……?」
そう考えていると、どこか低いトーンでミコトがそう言った。
なんだろうか。今までにないくらい、怒っているように思われる声色だ。いったい何を言われるのだろうかと、少しだけビクビクしていると……。
「オレたちはダチだ。まだ付き合いは短いけど、少しくらい信用しろ」
不意打ちのように、優しい言葉をかけられた。
ポカンとしてしまう。そして、無意識に頬が緩んでしまうのだった。
「ありがとな、ミコト……」
そして、素直に感謝を述べる。
今はまだ無理だけど、もう少ししたら相談しよう。彼女は信用しても大丈夫だ、と心の底からそう思えた。
気持ちが楽になるのを感じながら、俺は前を向く。
でも――思ってもみなかった。
まさか、この日の夜にあんな光景を目の当たりにするなんて……。