1.連続怪死事件
ここから第二章です!
それから、一週間が経過した。
佐城さんは定期的に『ペンクラブ』に顔を出している。他の面子ともおおかた顔合わせも済んで、いよいよサークルの一員という感じになってきた。
俺とは学部も同じということもあって、行動を共にすることも多い。そうしていると分かったのは、午前と午後で人格の交代をしているということだ。
『ったく、お前ホントに物好きだよな。オレなんかと一緒に、なんて……』
午前の講義で隣の席に座ると、佐城さん――便宜上ミコトと呼んでいる――は、深くため息をつきながらそう言った。彼女曰く、今まで俺のようにかかわろうとしてくる人物はいなかったのだとか、なんとか。それは多重人格というものによるのか、それとも単なる性格上の問題か。
どちらかは分からなかったが、口振りからして嫌われているわけではなさそうだった。そのことに、少しばかりホッと胸を撫で下ろす。
『でも、変な話だよな。ミコトってかなり美人な部類じゃないか?』
『なっ……!? おま、冗談でも言うなよ、そんなこと!!』
『え、なにが……?』
ついでに、そんなやり取りもあった。
珍しく赤面していたので、妙にその表情が記憶に残っている。この一週間でミコトの性格も分かってきた。彼女は幼く、ややつっけんどんな部分があるが、それでも根っこの部分は優しい女の子なのだ。
ただ感覚としては――『悪友』というのが近いだろうか。
女友達というよりも、気の置けない同性の友達、といった方が的確だった。
『お前、ホント……そういうところだぞ』
『え、なにが……?』
それを伝えたら、何故か白けた目を向けられた。
俺は理由が分からずに首を傾げたが、ミコトは大きくため息をつく。
そんなこんなで午前中を過ごすと、昼休みの時間となった。ちょうど一週間ということで、本日も午後の講義はない。
なので食堂で一人、ぼんやりと定食を食べている俺であった。
『――変死体事件は今月に入ってからすでに三件起きており、警察はその手口などから、これらを同一人物による犯行であると考えて捜査し……』
「世の中も物騒だよなぁ、飯時に見たくないニュースだけど……」
設置されているテレビから流れるニュースを眺め、そうぼやく。
なんでも美崎市ではいま、連続怪死事件が起きている、とかなんとか。具体的に調べたわけでもないけれど、全国ニュースでも取り上げられているから、それなりに注目されているようだった。
しかしながら、食事時の話のタネにもならないものだ。
俺は頭の片隅に留める程度にして、みそ汁を啜った。
そうしていると聞き慣れた声に、名前を呼ばれる。
「ミキヤくん、隣いいかな?」
「ん? あぁ、奈津子か」
それはサークルの同期、赤城奈津子だった。
俺と同じ定食をトレイに乗せた彼女は、こちらの答えを聞くより先にそれをテーブルに置く。やや色素の薄い髪を後ろで一つにまとめつつ、着席した。
幼い顔立ち、決して高くはない背丈の彼女は大学ではなかなかに目立つ。
大人の中に子供が一人、そんな感じだった。
「それにしても、物騒だねぇ~」
奈津子は割り箸を割りながら、おもむろにそう口にする。
それはきっと、先ほどのニュースの内容について。
「おい、飯食ってる時にあんな話をするなって」
俺は不快感を隠さず、そう伝えた。
すると奈津子はキョトンとして、あはは、と苦笑い。
「ごめんね、ちょっと知り合いが関係してるから……」
「知り合いが……?」
そして、頬を掻きながらそう言った。
そんな風に話題を出されると、否定的なことを言った俺も話題に乗らざるを得ない。訊き返すと彼女は小さく頷いてから、こう口にした。
「言ってなかったっけ? 私のお兄ちゃん、県警に勤めてるから」
「あぁ、そういうことか」
俺は少しホッとした。
もしかしたら、奈津子の友人でも事件に巻き込まれたのか、と考えたのだ。
たしかに彼女の兄が県警に勤務しているのは、以前にちらりと聞いたことがあった。それとなると、この事件についても、一般人より深く知っている可能性があるだろう。
「そんなに大変なのか?」
俺が訊ねると、奈津子は少し真剣な顔で言った。
「うん……。一つ一つの遺体の損傷も激しくて、なかなか調査が進展しないんだって。お兄ちゃんも毎晩遅いから心配なんだよね」
言いながら鶏肉を切り分ける奈津子。
……メンタル強いな、コイツ。
「でも、同一犯なんだろ?」
「たぶん、ね。全部――られてるから」
「ん、奈津子? いま、なんて言ったんだ」
俺は肉の最後の一切れを口に運ぶ直前で、そう訊き直す。
すると、一つ息をついてから――。
「遺体は全部――」
奈津子は、どこか感情のない声でこう繰り返した。
「全部、喰いちぎられてるらしいから」――と。
それを聞いて、俺の背筋が凍った。
緊張から堅い唾を呑み込んで、彼女の顔を見つめる。
「あ、ごめんね! 話を変えようか!」
「………………」
そんな俺の様子に気付いたのか、奈津子はそう言った。
でも脳裏にはもう、その言葉が焼き付いて離れない。
鶏肉の最後の一切れ。
それを見つめて、今日はもう食べられないなと、そう思った。
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