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境界の欠片  作者: 佐々瀬川 サラミ
第一章
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4.扉







「今日は、本当にありがとうございました」

「いやいや。新入生に興味を持ってもらえて、こっちも嬉しかったよ」


 ずいぶんと話し込んでしまった。

 奈津子は用があるからと先に帰り、部室には俺と佐城さんだけが残された。気を許してくれたらしい彼女は明るく会話をしてくれて、気付けば外は真っ暗だ。

 なんでも佐城さんは地元の人間だということなので、とりあえず俺は自宅まで送ってあげることにした。そんなこんなで、俺たちは田舎特有の田畑と住宅の混在する道を行く。街灯に照らされた道でも、やはり田舎だ。仄暗く安心感はない。


「でも、噂に聞いていた通り。ミキヤさんが優しそうな人で安心しました!」

「え、噂って……?」


 そんな中で、ニッコリと微笑みながら佐城さんはそう口にした。

 なんのことかと思い、俺は首を傾げる。すると彼女は、とととっと、数歩先を行ってからこちらを振り返った。浮かんでいるのは満面の笑み。

 そして、心底嬉しそうに語るのだ。


「先に二人からお話を聞きましたから。えっと、私たちの記憶は共有されているんです。それで、一人目が面白い人を見つけたって!」

「あぁ、なるほどね。――ちなみに、二人目は?」

「あの子は少し気難しいところがありますけど、悪いやつじゃない、って!」

「ふむ、そうは思われてなさそうだったけど……」

「そうでもないですよ?」

「そうなのかな」

「はい!」


 苦笑いをしながら俺は佐城さんの話に頷く。

 とにもかくにも、彼女たちに気に入ってもらえたらしい。それは、どういうわけか分からないけれども、こちらも嬉しい気持ちが溢れてきた。

 頬を掻いて、少しだけこそばゆい気持ちを隠す。

 ――と、その時だった。


「――それに、気味悪く思ってないみたいですし」

「ん……どうしたの?」

「いえ、なんでも!」


 儚い笑みを浮かべて、少女が口にした言葉を聞き返す。

 なにを気味悪く思う必要があるのだろうか、と。俺はすぐに問いかけようとしたが、それを呑みこんだ。もしかしたら、佐城さんのトラウマか何かがあるのかもしれない。そう思ったのだ。

 話せる時がきたら、きっと話してくれるだろう。

 俺はその時まで待つことにした。


「あ、もうすぐで家に着きます!」

「そうなの? ……って、この辺に住宅なんてあるのか?」


 そう思っていると、不意に佐城さんが足を止める。

 俺は周囲を見回してみるが、やはり住宅らしきものはなかった。


「大丈夫ですよ。いま、迎えの者がきますから」

「迎えの、者……って?」

「お待たせしました」

「うおあっ!?」


 ――急に背後から男性の声が!?

 俺は驚きのあまり、跳び上がってしまった。

 振り返るとそこにいたのは、黒服にサングラスをかけた背の高い男。


「葛西、お願いがあるのですけど……」

「分かっております、お嬢様。ご友人の送迎ですね?」


 佐城さんの言葉に、男性――葛西さんは恭しく礼をした。

 見れば、いつの間にか黒塗りの高級車が道路に横付けされている。どうやら俺のことをアパートまで送ってくれるみたいだけど、困惑が拭いきれなかった。

 それでも彼女の方を見ると、安心させるように頷いているし……。


「とりあえず、お世話になります……?」

「お嬢様を送って下さり、ありがとうございました。ここからは我々にお任せを。それでは、車にお乗りください」

「は、はぁ……」


 促されるままに、俺は高級車に乗り込む。

 ――うわ、なんだこの座席のクッションは!? 柔らか!?


「宮越先輩、今日はありがとうございました」

「ん、いいよ。こっちこそありがとうね」


 窓が開いたので、最後に佐城さんと言葉を交わす。

 そして、微笑む少女に俺は言った。



「また、明日」――と。



 すると、彼女は驚いたように目を丸くする。

 だがすぐに目を細めて、ゆっくりと頷くのだった。


「はい。また、明日」



 その日の俺たちは、そうして別れた。



◆◇◆



 ミキヤがその場を去ってから数分後のこと。

 佐城ミコトは、ふっと息をついてから踵を返した。そしておもむろに口を開き、茂みに向かって冷たい口調でこう言うのだ。


「もう隠れなくても良いでしょう?」


 するとそれを聞いた相手は姿を現す。

 出てきたのは、あからさまに時代錯誤な風貌をした者だった。まるでファンタジー作品に出てくる魔法使いのようなフードを目深に被り、杖をついている。漆黒のそれらは夜の闇に紛れ、気配しか感じさせなかった。


「お嬢様。本日は遅いお帰りでしたね」

「だから何だっていうの? お前には関係ありません」

「くくく、相変わらずつれないお方だ。共犯関係にあるのですから、少しくらいは気持ちを許してくれたって良いでしょうに」


 クツクツと嗤うその者に、ミコトは不機嫌に答える。


「共犯関係――お前の素性を知っているから、私は信用しないのです」

「ははぁ、なるほどなるほど。それは正しいですね」

「………………」


 すると、フードの人物は大きく頷いた。

 ミコトは冷ややかにそれを見て、一つ咳払いをする。


「さぁ、もういいでしょう? ――『扉』を開いて」


 そして、一言そう述べた。


「承知いたしました、くくく」


 直後――空間が歪んだ。

 次いで現われたのは、一つの建物。

 古き日本家屋と思われるそれに、ミコトは迷いなく歩を進める。そこが自分の帰る場所だと、そう理解しているかのように。



 玄関から中に入り、部屋に明かりが灯る。

 それが世界に認識されてすぐ――『扉』は閉じるのだった。


 


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