プロローグ ある冬の夜に
――それは、ある冬の出来事。
俺は雪に埋もれた道を、感覚だけを頼りに進んでいた。
大学進学を機に両親からは離れて、都心を離れた田舎に一人暮らし。坂の多いこの街で過ごす最初の年末は、自分の人生において一つの試練のようだった。
「はぁ……」
吐く息は白く。
空を見上げるとそこにあるのは、分厚い雲に覆われた夜の空。
街灯に照らしだされる丸いそこから降り注ぐ、白い、綿よりも軽いもの。触れるとすぐに壊れて、水に還っていく。あまりに儚いそれに、またため息が出た。
止まっていた足を再び動かす。
そうしてしばらく進むと、次第に視界が開けていく。
「この景色だけは、ご褒美かな」
そんな詩的な台詞が出たのは、きっと自分しかいないと分かっていたから。
目の前に広がっているのは坂の上から望む、明かりに彩られた一つの街の姿だった。そこが俺の移り住んだ街――美崎市である。
北陸の一角にあるそこは、やはりこの季節になるとそれなりに雪が降り積もる。
海まで見渡せるここからの景色だけは、そんな慣れない環境に放り込まれ、ささくれ立った俺の心を落ち着けてくれた。
まるで宝石の散りばめられたような、そんな世界を見下ろして。
「ん……誰か、いるのか?」
その時だった。
俺は、自分以外に観客がいることに気付く。
足を止めて、思わずそう口にする。そうすると、冷え切った空気を伝って、相手の耳にその声が届くのは自明の理だ。
その人物――白無垢を身に着けた、黒髪の女性――は、おもむろにこちらを振り返った。ガードレールの前に立ち、あまりに儚げに立ち尽くすその人。
「………………ぁ」
思わず、声が漏れた。
なぜならその女性はあまりに、美しかったから。
恐怖心にも近いのだろうか。いいや、それを上回るほどに、俺は見惚れていた。腰ほどまでの長い髪を風になびかせて、左右で色の違う瞳。
感情のないそれらに見据えられ、身動きが取れなくなる。
しかし、やがて彼女は柔らかく微笑んで――。
「こんばんは。貴方は、どなた?」
それが、俺と彼女の出会い。
雪が降り積もる、そんな冬の出来事だった。
初めまして。
佐々瀬川と申します。
次の話の更新は、おそらく21~22時頃に!
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