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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

冒険者ヤレヤレのやれやれ譚

作者: ガンダーラ

 「お願いします!! ヤレヤレさん! マイクを助けてあげて下さい!! 私の、わ、私の力じゃ無力なんです……」

 

 「お、おいおい、少し落ち着いてくれお嬢さん。……マイクって誰?」

 

昼下がりで騒がしかったギルド内が少女の悲鳴ともとれる叫びで水を打ったようになる。周りの連中の不躾ともいえる視線を感じて悪いことをしていない筈なのに居心地が悪くなる。

 泣きながらすがりついてくる美少女の甘い匂いに少しドギマギしながら俺はどうしてこんな事になったのか思い返していた。


 いつものように太陽がちょうど頭上に来る時間に目覚めた俺は宿屋で少しぼーっとした後遅めの朝食を取って冒険者ギルドに向かった。

 冒険者ギルドとはモンスターが溢れないように迷宮を管理、さらに冒険者というモンスター討伐、植物や鉱石の採取、果てにはどぶさらい等依頼があればなんでもする奴らの斡旋を行う組織である。

 冒険者は過去の依頼の達成率、難易度、達成数、依頼人の評価などによりランク付けされており、下から鉄、銅、銀、金、オリハルコンとなっている。ちなみに俺は丁度真ん中の銀等級だ。


 そしてギルドの掲示板でいい感じの依頼を探していたらいきなり後ろから声を掛けられたんだ…… 回想おわり。

 いやー、こんなかわいい子が冒険者ギルドに居るなんてなぁ。 なんてことを思いながらマジマジ見てたらまたその女の子が口を開いた。


 「まさかマイクが一人で砂の迷宮に挑むなんて……」


 砂の迷宮、その言葉を聞いた瞬間どこか上の空だった俺の頭が冷水をぶっかけられたかのようにス―っと冷めていくのを感じた。

 砂の迷宮は冒険者ギルドが管理する王都周辺にある十一の迷宮の中でも上位に入る難易度を誇る迷宮だ。迷宮の地面はサラサラした砂で構成されており、足を取られ体力を徐々に奪っていく。空気中の湿度も異常に低く、テイマーが砂の迷宮にスライムを連れて行ったら帰ってきたときには水分を取られたのか体積が半分になっていたという笑い話も聞く。いや、冒険者としては笑えないが。

 そんな過酷な環境に加え、砂の中からモンスターがどこからともなく飛び出してくるので精神も削られる。

 これらの理由から砂の迷宮の推奨ランクは金等級以上と言われている。 


 「……そのマイクって奴のランクは?」


 「銅、になったばかりです……」

 

 すがるようにこちらを見つめてくる美少女、シチュエーションとしては最高だがこの依頼は受けかねる。

 救助依頼、しかもマイクとやらの生存は絶望的だろう。いつから迷宮に潜ったのかは知らないが銅級冒険者が長時間生き残れるほど砂の迷宮は甘くない。救助依頼でその救助対象が息絶えていた場合、できればその遺体、損傷が激しい場合は所有物を持ち帰らなければ依頼は達成したと見なされない。というか救助依頼は難易度が高すぎる、迷宮は広大だし、モンスターに丸ごと食べられていた時などは発見することすら出来ない。特に探索や追跡の魔法を使えない冒険者には不可能と言ってもいい。まぁその難易度から救助依頼は成功した場合莫大な金額が依頼人から支払われる。しかし……


 「グスッ、ウッ……ヤレヤレさん?」


 依頼人のこの少女を見る限りとてもではないが金持ちには見えない。精一杯身綺麗にしているようだが駆け出し冒険者だろうか? 身に着けている装備は職人が冒険者ごとに採寸して作るようなオーダーメイド品ではなくどこにでも売られているような既製品だし、髪にはキューティクルがないように見受けられる。しかし肌はツヤツヤで冒険者にあるまじきキメとハリ、胸はややボリューム不足だがそこが逆に良いというか……思考が変な方向に逸れたな、生存率絶望的な救助対象、期待できない高額報酬……これはダメだな。


 「うーん……お嬢さん、悪いけど他の人に当たってもらっても」


 「金級以上の方々は全員出払っていますし'得意分野'だと思ったのでベルさんにはヤレヤレさんを紹介したのですが……ヤレヤレさんにはこの依頼は荷が重かったですかね」


 依頼人の少女に依頼を受けないことを伝えようとした俺に声を掛けてきたのは冒険者ギルドの受付嬢の一人、エリザベスだった。美人でスタイルも抜群だが歯に衣着せぬ物言い、心を抉るような毒舌から冒険者からは恐れられている。ちなみに俺もその中の一人である。そこがエリザベスさんの良い所だ! と恍惚とした顔で力説してくる奴も居るが俺にはその気持ちは分からないというか分かりたくもない。


 「いや、荷が重かったというかぶっちゃけマイク君とやらの生存は絶望だと思うしなぁ、というか何でマイク君は砂の迷宮に挑もうとしたんだ?」


 「マ、マイクは私とチームを組んでいて最近鉄級から銅級に昇格したんですが、ちまちました依頼は俺には合わないとか常日頃ぼやいていて……今日の朝砂の迷宮に行くってメモを残して居なくなっちゃてたんです!!」


 「えぇ……なんだそれ。受付で止めなかったのか?銅級だぞ?」


 傍でたたずむエリザベスに問いかける。基本的にギルドの受付で依頼書の手続きをするのであまりにも依頼の推奨ランクと冒険者のランクが離れているときは受理されない筈である。迷宮はギルドの管理下にあるという名目なのでギルドを通さずに迷宮に潜り込んでそれが発覚した場合、罰金あるいは冒険者資格の一時停止、最悪の場合冒険者資格の剥奪が考えられる。流石にそんなリスクがある行為をしてはいないだろう。


 「それが……マイクさんの受付をしたのは新人だったのですが、ランクを照らし合わせるのを忘れて受理してしまったようです。もちろん、その新人には厳重注意をしましたが」


 「マジかよ……」


 話を聞く限りその新人にも不手際があったことは否めないが冒険者は基本的に自己責任だ。自分のレベルに合わない依頼を受けて命を落としてしまったとしても自業自得だと言われるだけだ。


 「お願いですヤレヤレさん!! 今こうしている間にもマイクはっ! 報酬ならいくらでも払います! だから、マイクをっ……」


 「報酬ならいくらでもって……言っちゃ悪いけどそんなにお金持っているとは思えないしなぁ」


 「た、確かに今はあまりお金を持ってないです……な、なんでもしますからぁ!いつまでかかっても絶対払いますからぁ! お願い、ヒック、しますぅ、グスッ」


 「ベルさん、大丈夫ですよ、ヤレヤレさんはこう見えて優しい方ですから」


 エリザベスが嗚咽を漏らすベルさんの肩にそっと手を乗せて慰める、と同時にジト目でこちらを見てくる。こんないたいけな少女のお願いを断らないですよね? と言外に伝えてくるようだ。

というか何でもって……ゴクリ、なんでもってことはなんでもだよなぁ!! 言質は取った。まぁ砂の迷宮は俺と'相性'が良い。自分の命まで危険になることはないだろう。

 つーわけで、


 「分かったよ、ベルさん。君の熱意に負けた。マイク君の救助依頼受けるよ」


 「ヤレヤレさん!! ありがとうございますっ!」


 そう言ってベルさんは俺に抱き着いてきた。ふむ……ベルさんは着やせするタイプか。なんてことを考えてるとベルさんの後ろから氷のように冷たい視線が突き刺さる。言うまでもなくエリザ

ベスの視線だ。後からぐちぐち言われるのも癪なので肩をそっと掴んで離れさせる。


 「おし、じゃあ早速行ってくるわ。手続きはよろしくな」


 「はい、気を付けて行ってらっしゃいませ」


###


 冒険者ギルドから砂の迷宮までは徒歩では数時間かかるが、今回は緊急事態であったのでギルド備え付けの転移門を使って迷宮に一気に移動する。転移門とは二つの地点を空間魔法で繋げて固定化したもの……らしい。詳しい理屈は理解していないが重要なのは転移門を使うのには莫大な魔力と使用料がかかるということだ。転移門のそばに座る婆さんに金を払い、婆さんが空間魔法の魔力を転移門に充填させることで転移門は効果を発揮する。


 ここは俺が出したが今回の依頼を達成すればいつか全額支払われるであろう報酬でその分は補填されるだろう。


 移動時間の差を計算するとマイク君が砂の迷宮で生きているかはどうかは半々と言える。もちろん、迷宮に入ってすぐに自分の力不足を感じて出ていたならば生きているだろうが、危険を顧みず

迷宮の奥の方へ進んでいたとすれば命のタイムリミットは刻々と近づいていると言っていい。


 迷宮の前で暇そうにしている警備員に依頼書を渡し、迷宮の中に入る許可をもらう。迷宮の中に入ると相変わらずの砂一面の光景だった。迷宮はいつから存在するのか、そして誰が何のために

作ったのか誰も知らないが、王都の研究者によると過去の文献を紐解くと少なくとも千年前には迷宮の存在があったという。迷宮には特殊な環境のほかに自然発生するモンスターが存在しており、

冒険者はそいつらを倒して素材を剥ぎ取り納品して金を稼ぐ。


 「さてと……じゃあ早速マイク君を探しますか」


 砂の迷宮は他の迷宮に比べて救助依頼の達成率が低い。過酷な環境やモンスターのせいでもあるが、冒険者の足跡や痕跡を砂が消してしまうのが主な原因でもある。しかし俺にとっては当てはまらない。なぜなら俺は……土魔法、さらに言えば砂魔法を大の得意としているからだ。推奨ランク金級の砂の迷宮に銀級の俺が派遣されたのも納得である。砂魔法を使い砂に触れている動くもの、さらに体重が成人男性ほどの、単独で行動しているものを探る。

薄く……広く魔力を広げていくと……見つけた。動いてはいるが段々と動きが鈍くなっているので急がなければいけない。靴の中に砂が入ってくるのを感じながら急いで向かう。


 「おおー、見事にジャイアントアントライオンの罠に嵌ってるなぁ……」


 向かう道中、人間の存在を感知したのか度々砂の中から出てくるアリのモンスターやトカゲのモンスターを砂魔法で適当に地面に埋めながらマイク君のものと思われる魔力反応にたどり着くとそこにはサラサラとした砂のくぼみに引きずり込まれて下半身が完全に砂に埋まっている男の冒険者が居た。

 

 ジャイアントアントライオンは砂の迷宮でも対処が難しいモンスターだと言われている。基本的に自分から動くことはしないがテリトリーに人間が入ったことを感知するやいなや魔力で足場をすり鉢状に変形させじわじわと標的を底に引きずり込む。もがけばもがくほど砂が崩れて下へと落ちていくのでソロで活動している冒険者には致命的だ。この罠に嵌った冒険者を助けるときは足場がしっかりしているところから縄などを投げ込んで引張り上げるのが普通だが、引っ張り上げられているのを感知したジャイアントアントライオンが重い腰を上げて直接襲い掛かってくることもある。ちなみに人間サイズから家ほどの大きさのものまでいる。


 「ひ、人かぁ?! 助けてくれ! お願いだ!」


 「あいあい、そのつもりだよ。ちなみに君がマイク君?」


 「そうだ! ベルが助けを呼んでくれたのか?!」


 あっぷあっぷと効果音が付きそうなくらい砂の中でジタバタしている目の前の冒険者がどうやらマイク君で間違いないようだ。しかしまぁ見事に罠に嵌ってるなぁ。まだ生き残っているという点では他のモンスターに襲われるより運が良かったのかもしれない。さて、どうやって助けだすかだが……


 「お、おい何をしてるんだ?! こっちに来たらお前も……?!」


 '徒歩'で行く。砂魔法を使って足元の砂を固めたのだ。これが最も魔力を使わない助け方だろう、呆然とした顔でこちらを見るマイク君の手を引っ張って立たせる。

 うわ、砂だらけじゃん、パンツの中にも砂が入ったのか股間がパンパンに膨らんでるし……まぁいいや依頼は達成したんだ。あとは帰るだけだ、とか思ってるとそこは甘くないのが迷宮仕様だ。


 すり鉢状の大きなくぼみのそこから大きな鋭い顎を持った毛だらけの虫型モンスターがキィキィ言いながら俊敏な動きで這い上がってきた。のんべんだらりと砂に囚われた獲物が息絶えるのを待っていたら助け出されようとしてるんだから焦るのも当たり前か。言うまでもなくこいつがジャイアントアントライオンだ。ちなみに顎がとても硬いので武器の材料になる、討伐したら顎だけ剥ぎ取ってギルドで売る者がほとんどだ。


 「ひ、ひいっ! 何だあの化け物!」


 「あれがジャイアントアントライオンだよ、君を食おうとしてたモンスター。直接襲いに来たか」


 「は、早く逃げるぞ! あんなのに勝てるわけがない!」


 「おいおい、銅級で砂の迷宮に入るってんだから度胸があると思ってたんだけどなぁ。それに……勝てないって決めつけるのは早計だぜ」


 砂をかき分けながらこっちに向かってくるジャイアントアントライオンに手の平を向けると俺の周囲の砂がまるで意思を持ったかのように踊り狂う。行けと念じるとゴーゴーという風切り音とともに大量の砂が腕の形を形作りながらジャイアントアントライオンに襲い掛かる。こちらの魔力に干渉してきているのを感じるが魔力の量と質ともに大きく俺に劣る。なすすべもなく砂で形作られた手に握りつぶされ金切り声と汚い体液をまき散らしながら息絶えた。


 「す、すげぇ……あんた強そうに見えなかったけどやるなぁ!」


 「やるなぁ、じゃねぇよ。お前のせいで態々こんな暑くて砂でじゃりじゃりする所に来てるんよ、反省しろバカ」


 「イテ、分かってるよ、もうこんな無茶な事はしない、ベルとコツコツやっていくさ!」


 口は悪い生意気な新人といった印象を持っていたが説教して頭を小突くと意外にも素直に返事が返ってきた。さて、依頼は達成したからあとは帰って報酬をもらうだけだ。

 も、もしかしたらベルさんからお礼にご飯でも行きませんか? とか言われたり、さらに発展した事も……ありえる!! ルンルンな気分でスキップをしながら迷宮をあとにする俺をマイクと警備員が怪訝な目で見てくるのを感じた。


 「マイク!! バカバカバカ! なんで一人で行っちゃうのよ! もっと二人で成長して、それから挑戦しよって言ったじゃない! でも、生きてて良かった、本当に、よ、良かったよぉ~」


 「お、おい、ベル、恥ずかしいからこんなギルドの入り口で抱き着くなよ……でも、ごめん、お前を泣かせるなんて最低だよな、俺。ベル、もうお前を心配させない、一人にさせないから……」


 ギルドに連れ帰るや否や脱兎の如きスピードでこちらに駆け寄ってきたベルさんはそのままの勢いでマイクに抱き着いていた……なんだこれ、完全にカップルのそれじゃん。なんか色々期待してた俺がアホみたいだなぁ、いやまぁ薄々こんな展開になるのは察していたけど……


 「報酬はいかがしましょう、ヤレヤレさん? 依頼の難易度から計算すると金貨二枚ほどが妥当だと考えられますが」


 音もなく俺の隣に立っていたエリザベスが感情の起伏を見せない口調で語りかけてくる。金貨二枚かぁ……銅級冒険者にとってはなかなか厳しい値段だ、三か月ほど食事は野草、宿は野宿、それに加え依頼を毎日達成すれば払えるだろうが、そこまで俺は鬼ではない。


 「金貨一枚と銀貨八枚でいいよ、あ、もちろん一括で」


 ちなみに銀貨十枚で金貨一枚と等価である。


 「……分かりました。ではそのように手続きいたします」


 「嘘嘘、まぁちょろい砂の迷宮は俺のホームみたいなもんだしな、報酬は二人が懐に余裕ができたら徐々に払ってくれればいいよ」


 会話を聞いていたのか青ざめた顔でこちらを見ていた二人に吹き出しそうになりながらそう言う。まぁ金に困っているわけではないし楽な依頼だったのでタダでも良かったが……なんか二人のイチャイチャを見てたらなんかこう……それは嫌だなって。嫉妬ではない、これだけはハッキリ言える。生暖かい目でこちらを見てくるエリザベスに舌を出し、しきりに感謝の言葉を述べまとわりついてくる二人を引きはがして俺はギルドを後にした。


 「はぁ……全くやれやれだぜ」


 小さくつぶやいた言葉は風に乗ってどこかに飛んで行った。

情景描写どう書けばいいんだろう……

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