頑張って働いたけど
2年間はあっという間だった。
その間に情報を集め周辺の地図を手に入れ、、飛竜に乗るための教習所がある事や、南に「異形の人」の国があり、人間とも友好的な事などを調べた。
そして残念ながら2年働いたくらいでは、貯金が目標の半分にも満たない事も分かった。
教習所に通うお金も必要だし、鞍などの騎乗に必要な道具も買わないといけない。
思った以上にお金が必要だった。
博覧会開催まであと3ヶ月。
オレは居酒屋の親父さんに正直に相談した。
親父さんはしばらくの間うーんと唸っていたが、オレがカタンから来たことを思い出し、カタンから持ってきた物を売ってはどうかと提案した。
この街はカタンからおよそ500万キルリも離れた辺境の街。
ゲートがあるとはいえ、カタンから「人」が来る事もほとんど無く、ましてや「物」が入ってくる事などまず無い。
なので「カタンで生産された物」というだけで、高値で買ってくれる好事家は必ず居るし、心当たりもあるのだという。
□
親父さんに紹介された彼の年齢は、オレより少し上、20代後半くらいか。
身に着ける衣服や小物に興味があるとの事なので、カタンで買った衣類や靴、帽子など思いつく物をいくつか揃えてこの屋敷を訪れた。
親父さんは別室に通され、この部屋にいるのはオレと彼だけ。
ちなみに今、オレの着ているものは全てこの町で買ったものだ。
彼は立ち上がり、椅子に座る俺を上から下まで観察しながら質問を続ける。
「T・Pと言ったか?今の歳はいくつかの?カタンを出立したのは何歳の時かの?」
「ちょっと立ってみ?身長体重は?」
「ふむ、私より少し小さいが体重は変わらんの」
オレの肩幅や腰、モモの太さなどを手で触って確かめ、再び席に付いた。
「座ってくれ。いや、不躾で悪かったの。」
「さて。実はの、お前さんがカタンから来た人間である事は確認済みだ。」
「悪いと思ったが、ゲートの利用履歴を遡らせてもらった。」
「職権乱用というヤツだ。すまんかった。」
そう言って深々と頭を下げる。
「しかし、おかげで確信が持てた。」
「聞いておると思うが、辺境に住む我らにとって『王都カタン』は、遠い遠いおとぎの国の様なものでの。」
「なにしろカタンに行くには15もゲートを通過せねばならんからの。行くも帰るも容易い事では無い。」
「おっと、お前さんの方がよく知っとるの。」
「もっと近場でよく似たものを、と言う事になるのは当たり前だの。」
「お前さんのような者でもなければ『本物のカタンの人間』はこのような辺境には来ないという訳だ。」
「私は、カタンのファッションに興味があっての。」
そう言ってオレの持ってきたシャツを広げる。
「これはカタンで生産された物かの?」
「ええ、そうです。友人と出かけた際に買った物です。」
「ほう、友人と、のぅ」
「念の為聞いておくが、この中でカタン以外の製品はあるかの?」
「・・・正確な生産地は、正直把握していません。でも、これらは全て旅に出る前、カタンの街で買った物ばかりです。」
「そうか、ならばよい。」
「分からん事を正直に話してくれたのはうれしいの」
裏地を触ったり、ボタンを確認しながら話を続ける。
「随分丈夫そうな生地だの。」
「旅に出る前提でしたから、丈夫なヤツを選びました。」
「このシャツ、すごいんですよ?」
「クギに引っ掛けたり、木の枝が刺さって穴が空いたりしても、放っておけば自動修復するんです」
「買って5年になりますが、ホツレもないんです。」
「ほう・・・高かっただろう?」
「いえ、それほどでも無かったです。高機能の割に安かったので、クラスでも数人持ってました。」
「高機能で若者に人気の商品か、なるほど。」
口元がニヤリと笑った気がした。
他には?とズボンを広げ、自分の腰に当ててみる。
「そのズボンとこっちの上着は同じ店で買った物です。」
「上着は防寒重視、ズボンは丈夫さと動きやすさ重視で買いました。」
「ズボンはさっきと違って荒い生地だの。しかし、丈夫そうではあるの。」
「上着は見た目重そうなデザインなのに、ずいぶん軽くて柔らかいの。」
「ズボンは草むらも歩けるように、丈夫で汚れにくい素材です。」
「上着は暖かくて水を弾く素材で出来てます。」
「外で運動するのに適した服装という事かの?。」
「はい、カタンではちょうど高機能で酷使に耐える物が流行ってましたから。」
「そうか、うん、カタンの流行りか・・・」
微妙に鼻息が荒い気がする。
「すまんが、試着させてもらってもいいかの?」
そう言って彼はシャツ、上着、ズボンを持って部屋を出てゆく。
しかし、オレは彼を呼び止める。
「ちょっと待って下さい!」
「着替えるならこの靴もどうぞ。頑丈なだけのありふれた靴ですが、その上下に合わせて買ったんです。」
「そ、そうか。この上下に合わせて選んだ靴、か。それは必要だの。」
着替え終わった彼は、伸びをしたり屈伸をしたりして動きやすさを確認してから、その服のまま席に座った。
「肩周りや腰は思った以上に余裕があって、疲れにくいようだの。」
「汚れにくさや撥水性は今は分からんが、保温性はすごいの。」
「季節では無いとはいえ、少し動いただけなのにもう暑いの。」
「雨は弾いて汗は排出するのでベタベタにはなりませんよ。」
「ここより、カタンの方が冬は寒いように思います。」
「去年の冬は、シャツとこの上着だけで大丈夫でしたよ。」
「そうか、カタンの冬は寒いのか・・・」
「私はカタンに憧れているのに、そんな事も知らんかった。」
「私はこれでも責任ある立場での。1日休むだけでも調整が面倒なのだ。」
「旅行など、行き先を選ぶだけで現地との調整が必要なほどでの。ゆっくり出来た試しが無い。」
「写真を見たり、地図を見たりして現地に行った気になるという話は、聞いた事があるかの?」
「私は現地の風俗。流行りの物が好きなんだ。」
「現地の話を聞いて、現地の物を身に着ける。」
「それで出かけた気になる・・・私のささやかな楽しみだの。」
「今日は憧れのカタンの話を聞いて、カタンの流行の服を着せてもらった。非常に満足している。」
「ここにあるものは、すべて売るつもりなんだの?」
「一つ残らず買おう。靴はあるのに靴下はないのかの?下着は・・・いや、やめておこう。」
「買値は奮発する。またカタンの話を聞かせて欲しい。」
オレは立ち上がり、必死に礼を言った。
これで目標にかなり近づいた。
「他にも、今日持ってこなかった本やペン、懐中電灯なんかもありますが、これらも買い取ってもらえませんか?」
「おぉ・・・それは見てみたいの。」
「分かった。一週間後にそれらを持ってここに来て欲しい。」
「私の友人達を紹介する。彼らにもカタンの話を聞かせてやってくれ。」
「今日は有意義だった。また来週、必ず来てくれよ?」
「こちらこそ、ありがとうございました!」
そう言ってオレ達はがっちり握手をして別れた。




