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パラレル・ゲート  作者: 小鳥大軍
6/8

6話『B級魔獣[ゴリラゴ]』

車に乗り込むと、俺はシムにいくつか質問をした。


「今回戦うゴリラゴってどんな魔獣なんですか?」


シムは、頷きながら答えた。


「筋力が馬鹿高い魔獣だよ。それ対策に今俺は魔道具の服を着ているわけだが、これでもどれだけ軽減できるかわからん」


そして、それとこっちの方が重要なのだが、と言い


「やつは知性がある」

「はい?」

「ヤツは、俺たちが疲弊したところや、移動中などに攻撃してくる。気を付けておけよ」


なるほど。一つ目の疑問は解決した。次に別の質問をした。


「あの、騎士団は来ないんですか?」


シムは、俺の言葉を聞くと申し訳なさそうにこう続けた。


「騎士団の連中は件の魔獣との戦闘に敗れて今は回復中だ。多分明日あたりに倒しに行くんじゃないか?」


なら何でその騎士団と一緒に行かないんだろう。そう呟いたら、シムが


「いや、タツが戦うとなると騎士団レベルじゃ巻き添え食らって最悪死ぬんだよ。だったら最初からよばないほうがいいとおもったんだが・・・」

「アイツがいないんですもんね」

「そうなんだよな」


シムはハァーと溜息をつき運転を続けた。余談だが、やっぱり会話は続かなかった。










目的地に着いた。あまりこれと言ったものはないが、はじめに俺がこの世界に来た時、タツが着地した際に無茶苦茶にした畑のような感じの荒野だった。


「これ、全部魔獣がやったんですか?」

「いや、これの半分ぐらいは騎士団が暴れて出来たものだ」


半分は、ということは、もう半分は魔獣がやったということだな。うん。無理そう。一体でこの荒野を作り出すんだろ?タツならともかく、魔法も使えない俺が太刀打ちできるわけがない。まあ、そのための置き手紙な訳だが…。


「?あのヤロウどこ行きやがった?」


次の瞬間、シムが視界から消えた。シムが魔獣を探して辺りを見回した時、ちょうどシムの死角から巨大で毛むくじゃらな()が伸びて来て、シムの体を殴り飛ばしたのだ。

目の端で捉えた限りでは、シムは何とか防御できていたが、それでも骨が何本かは折れているだろう。

俺は、対策を取るべくその腕の持ち主を見た。

それは、深い紫の毛色で、優に3メートルはあろう人型の化物だった。確かに、これが何か?と聞かれたらゴリラと言うだろう。

これがBランク魔獣『ゴリラゴ』。見上げるような形になっていて隙だらけになっていたことに気付き、慌てて距離をとる。

その間、ゴリラゴは何もせずに俺を見ていた。まるで値踏みでもするかのように。俺が距離を取り(フーガ)を構えると、ゴリラゴは急にシムの方を向き、そっちに向けて走り始めた。


「ッ!!待て!!」


俺は急いで追いかけたが、追い付かない。ゴリラゴがシムのいる場所についた時、俺はまだシムを守れる位置ではなかった。ゴリラゴが腕を振り上げる。間に合わない。そう思った時、シムが隠していた石をゴリラゴの顔に向かって思いっきり投げた。その石は、ちょうどゴリラゴの目に当たり、ゴリラゴは振り上げた手をそのまま顔に当てもがき始めた。シムはその隙にその場から逃げ出し、こちらに向かって走って来た。


「シムさん!!」


シムはハァハァと息を切らして脇を押さえている。俺は、そんなシムに向かって


「大丈夫ですか?」

「大丈夫そうに見えるか?」


とてもそうは見えない。服はいろんなところが破け、血こそ出ていないけれど、服の合間から見える肌は所々が青く変色している。さらには、脇を押さえている腕とは逆の腕はプランとぶら下がっていて、おそらく折れているのだろう。


「骨が数本。後は内出血と強打僕だな。あのバケモン、強化服の上からでもこのダメージか」


話すのもやっとと言うような感じだ。


「ったく。あのヤロウ。このバケモン相手の時もいねぇとかふざけんなよ」


シムはニヤリと笑うが、その笑顔もどこか無理があった。


「タツが来ることを祈ってできるだけ時間を稼ぐ…か。出来るか?ナツ」

「頑張ります」


自信はないし、実力も無い。正直、こいつに勝てるビジョンが全く見えない。でも、やるしか無いんだ。俺がやらなきゃ俺もシムも死ぬ。ゴリラゴに殺される。ただ、良かった点は二つ。

一つは別に倒さなくても良いところ。タツが来るまで持ちこたえれば良いだけのところ。まあ、こっちは相手を倒す気ぐらいで、ちょうどなんだろうが。

二つ目は、ゴリラゴがさっきのシムの石で、片目を怪我したところ。ここから見た限りでは、ゴリラゴの左目は潰れている。

この二つがあるだけで、まだいける気がする。もちろん、勝てる気はしないが、死ぬ気もしない。不思議な感覚だ。俺は(フーガ)を構え直し、ゴリラゴを正面から見る。シムをできるだけ後ろに誘導して、どこから斬り込むかを考える。これも不思議だな。ほんの一か月前までただの高校生だったのに、今は命のやり取りをしているんだから。


俺とゴリラゴは、見つめ合いながらジリジリと近づいていく。正確に言うと、ゴリラゴに俺が近づいて行っているのだが。俺がゴリラゴの間合いに入った瞬間、世界が止まった。

俺も、ゴリラゴも、シムも、風でさえも。シムがぐっと呻く。それを皮切りに俺とゴリラゴは互いに攻撃を始めた。ゴリラゴは左の拳を振り下ろし、俺は右から剣を振り上げる。ゴリラゴの拳は俺の左肩をかすめ、俺の剣はゴリラゴの脇をかすめた。

その後、俺とゴリラゴは一度距離を取り、再び睨み合う。今度は止まることはなく、すぐに攻撃を始めた。

俺は、ゴリラゴの周りを飛び跳ねてゴリラゴに的を絞らせないようにしながら少しずつ攻撃をしていき、ゴリラゴはそれを予測したかのように俺が移動した先に攻撃を仕掛けてくる。一撃でも当たれば致命傷だ。

ゴリラゴの放った一撃を全て紙一重で避けるが、こっちの攻撃が効いているようにも見えない。ゴリラゴの放った一撃は地面を抉るが、俺の攻撃は全て軽いので深くてもゴリラゴの薄皮を切るレベル。

そんな攻防が何度も何度も続き、その末に一度、ゴリラゴに隙ができた。それを逃すまいと全力で近づく。その結果として俺はゴリラゴの懐に入ることになった。

上から拳が降って来る。その拳を剣でいなし、一撃を与えるべく剣を振る。ゴリラゴは瞬時に剣が当たる場所の毛を硬化させ、それを防いだ。

俺は、その時の反動を使って一度懐から出てゴリラゴの後ろに回ったが、ゴリラゴは腕を回転させて攻撃しながら俺を退けた。

思ったよりも戦えている。だが、相手にほとんどダメージを与えることは出来ていないようだ。

ゴリラゴは、腕の回転を止めると俺に一撃を与えるべく大きく跳躍した。その後両手の拳を合わせ、重力とともに振り落とす。俺はその攻撃を紙一重で避けたが、ゴリラゴの拳を中心に、半契約15mほどの距離の地面が大きくヒビ割れた。


「うわ!!」


上下に隆起した足場に少し戸惑いながらも、しっかりと相手を見つめ・・・・・・

いない。どこに行った?キョロキョロと周りを見渡していると、ゾクリと背中に悪寒が走った。


「くっ!!」


慌てて防御はしたものの、ゴリラゴが放った一撃は俺のお粗末な防御を嘲笑うようにすり抜けてくる。そして、その一撃は俺の脇腹に命中し、俺はその衝撃で大きく吹き飛ばされた。

不幸中の幸いと言っていいものかわからないが、吹き飛ばされたのはシムがいるのとは真逆で、一応ゴリラゴが隠れるようなものが無いところだった。今の一撃で、俺はかなりダメージを負った。右腕は多分折れていて、全身打撲に背面部強打による一時‬的な呼吸困難。

ヤバイな。ちょっと死にそう。 死ぬ間際には走馬灯を見るというけど、そろそろ見るかもな。

ゴリラゴは、ずんずんとこちらに近づいてくる。何か 攻撃できる手段はないかと考えるが、剣を振るうにも右手が折れていて出来ないし、魔法も使えない。左手で剣を使うということを一瞬思いついたが、あまり上手く使えず最終的に殺されるような気がしたので選択肢から外した。そもそも、全身が痛くて動けない上に、まだ呼吸が戻ってないのでたとえ右腕が無事だったとしても攻撃できないのだが。

もう、無理か。シムには悪いが、もうおれに戦える力はない。おそらくシムにもだろう。タツが来るまで持ちこたえることが出来ればこっちの勝ちだったが、それすらも無理だった。

ゴリラゴは、一歩、また一歩とこっちに近づいて来る。俺は目を瞑って今までの人生を振り返


『それでいいのかい?ナツ』


声が聞こえた。少年のような少女のような、不思議な声。俺がこの世界に来て初めて聞いた声。

その声は、俺の手の中の剣から出ていた。


『いやぁ、少し時間を残しておいて良かった。そのおかげで』


ゴリラゴが俺の目の前についた。ゴリラゴは、拳を振り上げそのまま振り落とし


『君を助けることができるのだから』


吹き飛んだ。俺の剣から発せられた風によって吹き飛ばされたのだ。


『今の魔法は君の魔力を使って撃った。つまり君の体の中を魔力が通ったわけだ。今の感覚、忘れるんじゃないよ』


その後、フーガは喋らなくなった。今の感覚。タツに魔力を流された時に体を駆け巡った時と同じ場所を通っていた。人に魔力を流されるのと、たとえ他人が使ったとしても自分の体から魔法を発動したのでは大きく差があるというのが分かる。今同じところを使えば俺も魔法を使える。そんな気がする。

ボロボロの体に鞭打って何とか立ち上がった。そしてゴリラゴに向かって剣を向け、魔力を流す。

発動するのは風の爆発。斬撃ではダメージを与えにくいと考え、衝撃で倒そうと思ったのだ。

魔力を魔源につなげ、空気を圧縮する。だが、思った通りに魔源をつなげることができず、少し手間取っているとゴリラゴが突進して来た。

真っ直ぐに突っ込んできたので避けるのは簡単だったが、風を集めている集中力が妨げられる。ゴリラゴは、再び突進してきた。また躱す。

だが、これがずっと続いていたら到底魔法を発動する事は出来ないだろう。き

ゴリラゴの突進を躱しつつどうするかを考えていると、ゴリラゴの動きが急に止まった。

何事かとゴリラゴを見ていると、急にバックステップを踏んだ。次の瞬間先程までゴリラゴがいた所に炎が走った。そして次々とゴリラゴに向かって炎が撃ちこまれてゆく。その炎の出所を見ると、シムが銃を構えてゴリラゴを狙っているのが見えた。


「ナツ!」


シムは、苦しそうに叫ぶ。


「お前なんかやろうとしてんだろ!」


ゴリラゴへの射撃を続けながら


「1分くらいなら俺が受け持つ。その間にその準備終わらせろ!!!」


そう言い、次々と炎を打ち出した。俺は、シムがゴリラゴを引きつけてくれている間に魔源を操る。慣れない作業でさっきと同じくらい集めにくい。でも、ゴリラゴの突進が無いだけましだ。

全力で空気を集める。

シムは片手で銃を構え、どこから拾ってきたのか分からないが、松葉杖みたいなもので体を支えながらゴリラゴを攻撃していた。

空気がどんどん集まって来る。

ゴリラゴがシムに近づいていく。

空気がどんどん圧縮されていき、本来その空気があったはずの場所に風が吹き荒れる。

シムはポケットの中から何かを取り出し、地面に叩きつけた。すると、ゴリラゴが何かにぶつかったかのように止まった。

空気がどんどん縮こまっていく。

ゴリラゴは、ドンドンと()()()を叩いている。

ここら一体の空気が全て集まったものを剣先に配置し、俺はゴリラゴに向かって歩き始めた。

ゴリラゴがこちらに気づき、こちらに向かって走って来る。俺はしゃがんでゴリラゴの懐に再び入り込み剣を刺し


「風魔法・エア!!!!!」


圧縮した空気を一気に解放した。極限まで圧縮された空気は剣の先端から解き放たれ、ゴリラゴの肉を弾き、吹き飛ばした。やった事は大したことがないが、神器だからなのかとてつもない威力だ。

正直、目の前で生物の体が弾け飛ぶなんてことを初めて見たので少し吐きそうになったが、なんとか堪えた。

何はともあれ、一件落着だ。

緊張が一気に解けたので、膝から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。

剣を支えにして横になるのを耐えているが、耐える意味が分からなくなり横になって休んだ。

シムがこちらにやって来る。


「ナツ。魔法…使えないって言ってなかったか?」


シムは、不思議そうに聞いて来る。それに答えようと口を開き


「おお~。やれたかナツ。やっぱり百の訓練よりも一の実戦だな」


と言いうんうん頷いているのはタツ。俺が答えるより早く、タツが現れて答えたのだ。若干答えになっていないような気がするが。


「タツ。見てたなら助けてくれてもいいじゃんか」

「うん。だから来た」


あっち見てみ、とタツは丘の向こうを指差す。俺はなんとか立ち上がってそちらを見ると、そこには・・・・・・・・・・・・・そこには無数のゴリラゴがいた。


「っ!!!これは」

「ゴリラゴの群れだ」


軽く答えられた。


「バカなっ!!B級魔獣は単体で動くはずだ!!!」

「ああ、そうだな。だからこれは新発見だ。喜べナツ。金がたくさん転がり込んで来るぞ」


俺はタツとシムの会話など耳に入っていなかった。あんなに苦労して倒したゴリラゴがあんなに沢山。こんなにボロボロになってやっと一体倒せたのに、あんなに沢山。

この感情に名前をつけるとしたら、そう。絶望。絶望、していた。

目測50体はいるだろう。流石のタツにも、あれだけの数は無


「なあ、ナツ。魔法を支えた記念だ。私の本気を、す・こ・し・だけ見せてやろう。喜べよ」


そう言い、タツは腰のに掛けてあった銃を抜きーー余談だが、俺はタツが腰の銃を抜くのを初めて見たーー空に向かって一発の魔法を放った。そして


「天雷魔法・轟雷」


轟音とともに衝撃と爆音が辺りに吹き荒れた。大量の砂埃が舞い散る。その砂埃が晴れた時には、そこにいたゴリラゴの群れはいなくなり代わりに色んなところから煙が上がっていた。

さらには、草原だったはずの辺り一面がただの焼き野原になっている。

思考が抜け落ちた。人間、色々いっぱいいっぱいになると何にも考えられなくなるもんだ。

それな俺を引きずりながらタツは


「帰るぞ!!ナツ!!!お前の飯が私を待っている!!!」


俺は、タツの手をとって立ち上がり、一緒に歩いて行った。タツは、ふと立ち止まってシムの方を振り返ると


「シム。お前は知り合いの王国騎士の誰かにこのこと報告しとけ。多分今ナツが倒した奴は群れの長だ。B級魔獣が群れをなすなんて聞いたことない。こりゃあなんかあるぞ」


と言い、俺を小脇に抱えて飛んだ。

俺は、飛んだ時の衝撃で気を失ってしまった。

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