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パラレル・ゲート  作者: 小鳥大軍
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5話『村の現状、そして仕事』

着いた村は、思っていたよりも平和だった。街の外壁が少し壊れている程度で、中の建物はあまり壊れていなく、人も沢山いる。想像していたような殺伐とした雰囲気はまるで無く、むしろ活気にあふれている街がそこにはあった。


「うちの事務所はこの大通り沿いにあるから、もうちょっとかかるぞ」

「は、はい」


俺は初めて訪れる異世界の街を眺めていた。流石に日本の田舎という感じではないが、ヨーロッパの田舎だったらこういう街並みがあるのではないかと思う。二階建てのレンガの家がほとんどで、たまに年季を感じる一階建ての建物がポツポツとある。対向車線にはたまにこれと同じような車が走ってくる。街というだけあって、車の中から見た限りでは街は結構繁盛しているようだ。


「街に来たのは初めてか?」

「え・・・なんでですか?」


シムは、前を向きながらも片眉を上げて答えた。


「いや、やけに珍しそうに街並みを眺めているからな?初めてなのかと思ったのだ」


まあ、流石に買い物とかがあるから初めてではないと思うが、と続けたし シムは、それきり前を向いて黙ってしまった。ちなみに俺はこの街に来たことがない。理由は至極単純で、食材も衣服も、家具でさえも自作なのである。タツの家は。ちなみに、今の家事分担は、俺が掃除や片付け、洗濯に風呂掃除で、タツが食材の調達と料理である。と言っても、タツが家にいない時などは料理も自分でしているが・・・・・・・・・・・・・。


「はい。初めてです」

「そうか」


それきり、シムの事務所に着くまで会話は無くなってしまった。沈黙に気まずさは感じていたものの、何を話せばいいのか分からずそのまま事務所に着いてしまったのだ。

シムの事務所は街に馴染んだレンガ造りの建物で、一階にレストランがある建物の二階だった。

事務所の中には木製のシステムデスクがいくつかあり、壁沿いに並んでいる棚にはこれでもかというほど書類が詰め込まれている。そんな事務所の中で、シムに話しかけて来た人物が一人、二人。


「シムさん。二番通りのマミルさんの件なんですけど…」

「ああ、返済に時間がかかりそうなら少し待て。利子は、まあ、交渉して出来るだけこちらが望むようにしてもらえ」

「所長。この後のムシラ会長との会談ですが」

「今日は予定が入った。出来るだけ摩擦が少ないように延期してもらってこい」

「は!」


凄いな。しっかりと仕事をしている大人はこんな風なのか。バイトもしてなかったし、今まで親の仕事現場になんて行った事がなかったので母親が仕事をしている様子なんて見た事ない。それに、今一緒にいるタツとか、修行をしてくれているところかグータラしているところしか見た事ないのだ。なので、なんと言うか、初めて感じる仕事の雰囲気に少し蹴落とされていると、奥にある大きめの椅子からまのびした声が聞こえた。


「シムく~ん。タツちゃんいた~」

「いるわけねぇだろ。仕事があるってのにそんなん御構い無しにな。まあ、代わりにあいつの弟子を連れて来たが。てか、いい加減俺がいない時に俺の席に居座るのやめろ」

「ええ~。いいじゃ~ん。減るもんじゃないんだし~」


と言いながらひょっこりと出て来たは、スラっとした背の高い女性だった。背が高いと言っても、シム程じゃないが、少なくとも俺とタツよりは背が高い。そんな彼女は、椅子から降りてこっちに向かってくると俺に向かって


「へぇ~。君がタツちゃんの弟子か~。よろしくね~」


いきなり抱きついて来た。なんで知ってるの?とは突っ込まないことにする。めんどくさそうだから。


「赤くなっちゃってかわい~」


そんな彼女をシムはひょいとつまみ上げ


「あまり気にするなよ。こいつはすぐに何にでも抱きつくんだ。寝るときもな」


シムの言葉はそこで遮られる。シムがつまみ上げていた女性がじたばたと暴れだしたからだ。


「ああ~!!ダメダメダメ~!!」

「構わないだろ?減るもんじゃないんだし」

「構う構う~。うー・・・・・酷いよシム」


シムは、ははは、と笑いながら悪いなネリ、と言いその女性を地面に下ろした。ネリ、と言うのはこの女性の名前なのだろう。


「そう言えば、お前の名前はなんなんだ?」

「も~。そんなことも知らずに連れてきたの~?」


唐突に、急にだが、当たり前のことを聞いて来た。そう言えば、まだ俺の名前を言っていなかったな、と気付き、自分の名前を告げる。


「ああ、俺の名前は大神夏です。好きな風に呼んでもらって構わないです」

「じゃあ、ナツと呼ばせてもらう」


胸がズキリと痛んだ。もうフーガと契約を結んでから約一カ月。その期間は、そのまま家族と別れてからの期間となるのだ。ついこの前まで普通の高校生だった俺は、今まで修行が辛すぎて正面から向き合ってこなかったその事と初めて向き合い、少しばかり寂しいと感じた。感じてしまった。だが、どうにかその想いを胸の奥にしまい込み、真っ直ぐにシムを見る。


「それで、今回俺がタツに持って行った仕事の討伐対象がいる場所だが」


シムは一度言葉を切り、手元の資料に目を落とす。そしてもう一度俺の方に目を向けると


「街の外壁から、徒歩で約5時間程かかるところだ。今は移動してるかもしれんが、多分大丈夫だろう。と言うわけで、行くぞナツ」‬


俺は、シムに引っ張られるような形で建物の外に出た。そんな俺たちをネリさんは手を振りながら


「いってらっしゃ~い」

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