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パラレル・ゲート  作者: 小鳥大軍
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4話『シム・ヒムュル』

その次の日から、タツは本格的に俺に色々教え始めた。

まず最初に剣を。タツ曰く、神器にばかりに頼っていては、咄嗟の時に対処ができなくなるそうだ。タツは木刀でこっちは神器なのに、かすり傷どころか砂埃の一つすらつけることができなかった。

修行の後は、ボロボロになってそのまま眠りに落ちてしまうのがほとんどで、とてもじゃないが魔法の修行なんてできない。が、タツはそんなの御構い無しに寝ている俺を叩き起こしてきて、魔力の使い方を教えてくる。

ありがたいが、正直、疲れているし、タツの説明がバーンだのドーンだの全く具体性のない説明なので、全然分からない。だけどまあ、教えてもらっているので一応分かっている振りはする。時々寝落ちしかけるけど。

そんな毎日のある日。大体一ヶ月くらいたった頃だろうか。結構修行をしている筈なのに毎日ボロボロになる事に少しショックを受けていた日のことだ。

朝の修行を終えて、家の中でご飯を食べている時、タツが不自然に身体をビクッと震わせた。そのあとコソコソと家の裏口から出て行こうとしたので、俺がどこに行くのか聞こうとしたら


「いいか、ナツ。これから誰が来ても私が何処かに行っていると言え。理由は聞くな。いいな?もう一度言うぞ。これから誰が来ても私が何処かに行っていると言え」


と言い何処かに行ってしまった。一体どうしたんだろう、と思いながらご飯を食べていると急にドアが開けられた。


「タツはいるか!!」


入って来たのは、プロレスラーみたいな体格の、目測40歳くらいの男だった。全身に黒いスーツのようなものをまとい、身体から発せられる熱で周囲の大気が捻じ曲げられているかのような錯覚をもたらすその男は、一度家の中を見渡すと俺に向かって


「君は?」


君は?と聞かれた時に正しい答え方はなんだろう。自分の名前をいうのは違うだろうし、かといって逆にお前は誰だというのも駄目だろう。ならば、自分が何者かとを答えればをいいのだろうか。さて、俺は何者だ?異世界人、高校生、たくさんの肩書きがあるが、この場で言うとしたら一つだろう。


「タツの弟子です」


その時の目の前の男の反応は、ビデオに収めておきたいくらい面白かった。目をこれでもかと言うほど見開き、口をあんぐりと開け、額に汗を滲ませていた。声こそ出さなかったが、天変地異でもおきたんじゃないかと思うくらい驚いていた。何にそんなに驚いてるんだろう。目の前の男は、すぐにコホンと咳払いをして気持ちを切り替え


「すまない。君がタツの弟子だと聞いて少し取り乱してしまった」


少し?


「すまないね。私はシム・ヒムュル。俗に言う・・・・・・・・借金取りだよ」


ああ、納得した。タツがコソコソと逃げた理由も、さっきノックも無くを開けた理由も。となると不思議なのが、どうやってタツがこの人が来たことを感知したのか。動物的な勘か、それとも魔法か。多分魔法だろうな。


「ところで、タツはどこに?」

「タツならさっき何処かに行きましたよ」


実際知らないし。だがそんな俺の心情御構い無しに、シムは声を張り上げ激昂した。


「あんの野郎!!!いつもいつも逃げやがって!!!!仕事持って来てやったのによ!!!!!!」


すごい声だ。すぐ近くで爆弾が破裂したんじゃ無いかと思うほどの大声。実際、家が揺れた。

ん?まてよ。今シムは仕事といったか。タツの仕事って何だ?いきなりの大声で混乱したからか仕事に対する疑問が多いからか分からないが


「タツの仕事って何なんですか?」


思ったことをそのまま口に出してしまった。それを見てシムは俺に呆れているのかタツに呆れているのかよく分からない表情でこう続けた。


「タツはそんな事も教えてないのか」


いいえ、そんなことを教えていないのではなく、教える暇がないだけです。


「たまにタツが何処かに行ったりしないか?」


思い出すと、確かにタツはたまにふらっと何処かに行っていた。あれは仕事に行っていたのか・・・


「詳しいことは本人に聞けばいいと思うけど、簡単に言えばあいつの仕事は何でも屋だよ」

「何でも屋!?」


何でも屋ってあれだよな。頼まれたことやって金を取るっていうアレ。こう言ったらかなり印象悪いけど、実際はそこまで悪いことではないと思う。それで、シムはどんな風な仕事を持ってきたのだろう。その旨を伝えると


「討伐依頼だ。この近くの町にゴリラゴというBランクの魔獣が一匹闊歩していてな。村の騎士団では手に負えないそうだからここに持ってきたんだが・・・」


Bランクの魔獣。魔術の勉強中にタツが言っていたのを参考にすると、ピャーッと行ったらグワーッと倒せるくらいの強さらしい。・・・・・・さっぱり分からなかったので流石に調べた。タツがまだ眠っている間に起きて調べた物を纏めると、

Eランク魔獣は街中にもいて頑張れば子供でも倒せるレベル。ペットにしている人も多いらしいから、猫や犬のようなものなのだろう。

Dランク魔獣は町にこそいないものの町の外には多くいて、武器を持った大人が倒せるレベル。これは見世物小屋にいるらしいから、ライオンのようなもの。

Cランクになると騎士たちが動き出す。町のすぐ外にはおらず、森の奥の方にいるそうだから基本的に一般人には関係がないらしいが・・・・・

Bランクは、発見自体が珍しい。が、実力が高く、発見率が低くても被害率が高い。騎士団が動くことが大半だそうだ。

Aランク魔獣は、俺の世界のRPGでいうボスモンスターだ。洞窟やダンジョンの奥の方にいて、地方の支配者であることが多い。なのであまり積極的に討伐はせず、放置しているものばかりだそう。

今回のゴリラゴという魔獣はBランクらしいから騎士団が動くレベルか。でもその騎士団が手に負えないらしいから、タツに頼りに来たわけか。なるほど・・・・・・・・これって結構まずいんじゃね?ここ1ヶ月の修行で俺も実力がついたはついたがまだ魔法も使えないし、魔獣と戦えるほどではない。だが、シムはそのことを知らず、タツは何処かに行ってるから頼む人がいない。でもって今ここにはそのタツの弟子がいる。・・・・・・・十中八九頼まれるだろうな。


「でだ。今ここにはタツがいない。だからこの仕事、君に頼んでもいいか?」


ほら来た。頼まれたよ。俺が行くしか無いのかな?結構切羽詰まってそうだし。でもなー。俺弱いんだけどなー


「俺弱いですよ?」

「ははは。謙遜はよせ。タツが弱い奴を弟子に取るわけないだろう」

「俺魔法使えませんよ?」

「え?」

「え?」


空気が凍り、音も消えた。下手したら世界が止まったのではないかと思うほどの静寂にかなりの気まずさを覚えたが、なんと言えばいいのか分からずそのままただただ時間だけが過ぎて行った。

最初に口を開いたのは、シムだった。


「ま、まあ、簡単な仕事しか任せないから」


驚いた。魔法が使えない俺にも仕事を回すほど切羽詰まっているのか。事実、シムはかなり悪いことをしたという顔をしながらも撤回だけはしなさそうだ。これは行くしか無いのか。なら、行く前にしたい事があるので、シムには少し待って貰った。


「何をしていたんだ?」

「置き手紙を書いてたんですよ。タツに」


ああ、それなら帰ってきた後にこっちにきてくれるかもしれないな。シムはそう言うと、俺を車のようなものに乗せてくれた。


「これは・・・・・・・車!?」

「なんだそれは?」


当たり前かもしれないが、俺の世界の物の名前はこっちでは通じないこともあるらしい。


「いえ、気にしないでください」

「?そうか」


シムは少し眉をひそめていたが、気にしてもどうしようもないと思ったのか、何も言わずに車のようなもの(以下、車)を発進させた。

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