1話『少年、大神夏』
こんにちは!
小鳥大軍です。この作品は、私が長い間温めてきた物なので、楽しんでいただけたら幸いです。
・・・・・・できれば、感想等お願いします。
以前、死というものについて考えたことがある。その時、俺は今の状況と同じようなものを思い浮かべていた。真っ暗な何もない空間に、自分ひとり、ポツンと居る。本当に、笑ってしまいそうなほど今とおんなじだ。
ここにくる直前のことだ。俺は、家に入ってきた不審者に刺され、気を失った。幸い、母と妹は外に出ていて、怪我をしたのは俺だけで済んだのだが、問題はそのあとだ。俺が目覚めたのは今いる真っ暗な空間。つまりよくわからない場所で目を覚ましたのである。
目がさめると何も見えない場所にいたのでとりあえず歩いて見たのだが、どこまでいっても端まで行かない。長く歩き、歩き疲れたので途中で歩くのを諦めてその場で座り込んで、ぐるりと周りを見渡したが、光のヒの字から光のリの字まで全く見えない。本当になんも見えないなーと思って寝転ぶと、突然どこかから声がした。
『あの、そろそろ話しかけてくれないと流石に困るのだけれど』
その声は、少年のような少女のような、不思議な声だった。その声は、少し困った風にこう続けた。
『この空間が物珍しいのはわかるが、そろそろいいんじゃないか?小一時間もいるし。そろそろ契約を交わさないか』
契約?なんのことだ。と首を傾げると、声の主はそれが見えてるかのように
『契約が目的じゃないのかい?』
といってきた。いや、契約も何も俺気がついたらここにいたんだけど。そう声に出すと返事が返ってきた。
『気がついたらここに居ただって?どういうことだい?』
「・・・こっちが知りたいぐらいだよ。ていうか、ここはどこなんだ?」
そうたずねると、声は不思議そうに答えた 。
『ここはボクが封じられている空間なんだけど、気がついたらここに居たって?』
封じられてるってなんだよ。
「いや、言葉のままだけど。不審者に刺されて、気がついたらここに居た。だからここは死後の世界かと思ってたけどさ・・・」
『ここは死後の世界じゃないよ』
というと、声はハァ、とため息をつき、どこか疲れたように確認してくる。
『では、君はボク、風の神器を求めてここにきたわけではない、というのだね』
「神器って何?」
そう答えると、自称『風の神器』はまたため息をつくと
『その調子だと魔法を知らなくてもおかしくないな・・・』
『風の神器』は、自分は君の正面12歩ほどのところにあるから、ここまできてくれ、というと静かになった。言われた通りに12歩前に進むと、何かにぶつかった。
『それがボクだ。・・・ああ、そういえば、まだ君の名前を聞いて居なかったね、何も知らなくても、ここにきた以上君はどうあがいてもボクの持ち主となるわけだ。となると、ボクが君の名前を知らないと不便だろう。ちなみにボクの名前はフール・アルヘイブ・アネガ。フーガとよんでくれ』
聞きたいことはたくさんあったが、とりあえず自分の名前を答えた。
「大神 夏だ。大きい神に、春夏秋冬の夏」
『オオガミナツ・・・では、ナツと呼ばせてもらうよ。これからよろしくね、ナツ』
そうフーガがどこか楽しそうに言った瞬間、周りの闇は晴れ、今度は360度全て草原の場所に立って居た。
「えっと、ここどこ?」
『さあ?ボクも知らないよ』
その声は俺の目の前に浮かんでいる剣から出ていた。これが神器、フーガなのだろう。喋る剣なんて聞いたことがないし見たこともない。
・・・・・・この時点で、あまりにも不思議なことが多すぎるので、これは全て夢だと思うことにした。剣が話しているのも夢。目覚めたら変なところにいたのも夢。刺されたのも夢・・・・・じゃないかもしれないけど。痛かったし。でもほとんどが夢だろう。そうだろう。そうでなくては困る。
それは置いといて、一度あたりを見回して見る。・・・・・何もない。本当に何もない。あるのは草と空だけ。まるで映画に出てくる草原みたいだな、と思っているとフーガが話しかけてきた。
『ところでナツよ、そろそろボクが外で話せる時間が終わりそうだ。予想では一年くらい持つはずだったんだけど、思っていたより外の魔源が少ないね。喋れるのはせいぜい30秒くらいかな』
今なんと言った。30秒くらいしか喋れないと言ったか。・・・・・・てか魔源ってなんだ。自分も知らない単語がポンポン出てくる。俺の想像力すげーな。とりあえず今後どうするかをフーガを持ちながら考えていると、バチっと言う音と共にローブを着てフードを深く被ることで顔を隠した人物が現れた。そいつを見るや否や、フーガは思いついたように
『おお、この速さは、ライムかな?ちょうど良い、ナツ。こいつについて行って色々学ぶと良い。こいつは、多分教えてくれるから』
フードの人物を見ると、何も言わず、身動き一つせずにその場に佇んでいるだけだった。まるでこの世の全てのものに興味がないような雰囲気を漂わせているその人をじっとみていると、フーガが、あっ!!!と大声?を出し、俺に向かって言葉を続けた。
『そろそろ、お別れだ。特に何か思い入れがあるわけじゃないけど、君のことは応援してるよ。頑張れ』
フーガは、それきり黙ってしまった。まるで電池が切れたおもちゃみたいだ。あれだな。なんとなく死別みたいな気がして嫌な気持ちになる。夢なのに。
とりあえず、フーガが言った通り目の前の人物を頼ろうと思い、話しかけるタイミングをはかるべく見ていると、急にフードを脱ぎ頭をガシガシと掻いた。
女の人だった。明るい茶髪のショートカットで、少しつり目。和と洋が絶妙に合わさったような顔立ちをしている。全体的にお姉さんという雰囲気をまとったその女の人は、俺に向かって
「だから嫌だったんだよ。絶対に私に向かって言ってたよね!?今の!!あー、めんどくさい。あー、めんどくさい。めんどくさいけど、仕方ない、か。ほら、このローブ着な」
と言って、どこかからローブを取り出して、こっちに投げてきたので、それを慌ててキャッチする。
目の前にいる夢の住人に聞きたいことはたくさんあったが、そんな中から口を突いて出たことはなんでもないようなことだった。
「あの、なんでコートいるんですか、えっと……」
「ああ、私の名前はタツ。別に敬語じゃなくていいよ、むしろ敬語はやめろ。なんかムズムズする」
「わ、分かった」
「で、なんでコートがいるかだっけか。それはな、この草原の外にある、『魔法の森』を通り抜けるためだ。この、私特製コートが無ければ、森の魔力に魅入られて最悪森の中で寿命を終えるなんてこともありえるからな」
「・・・・・・」
魔法とか魔力とか、一体何の話だ。一体ここはどこなんだ?いや、夢なのだが、夢にしても現状は把握したいよな?
とりあえずドヤ顔で胸を張っていたタツに黙ってついていくことにした。
少し進むと、タツは急に振り返り俺を小脇に抱え、一気に飛んだ。飛んだあと、俺は一瞬でかなり高いところにいた。
「うわぁぁぁぁ!!」
「うるさい!ただでさえ二日酔いで頭痛いんだから静かにしろ!!」
色々と理不尽なことを言われた気もするが、そんなことは耳に入っていなかった。俺は、遥か下に見える景色に目を奪われていたからだ。
異常なほど輝いている湖に、少しずつだが確かに広がっている森。
マグマがフツフツと煮えたぎっている火山を、肉眼では初めて見た。
他にも、見たこともない獣が闊歩している岩場に、遠くの方にあるのは城だろうか。
いくつかの街が、所々にある。
何だこの景色は。こんな景色俺は、体験はおろか、聞いたことすらない。いくら夢でも見たこともないものの再現は無理じゃないか?
そんなことを考えていると、だんだんと地面が近づいてきた。タツがドスンと着地すると、地面はえぐれ、尋常じゃない量の砂埃が舞い上がり、ここら一体の地形を軽く破壊した。上空から見ていた限りだと、ここは畑だったはずだが、今見渡すと、軽く荒地のようになっている。
「いいん・・・のか?これ」
「ん?何が」
タツの、まるで元々ここはこういう場所だったと言わんばかりの堂々とした態度に、俺は何も言えなくなった。
タツ曰く、ここからちょっと行った場所にタツの家があるそうだ。俺は今更だが、渡されたコートが必要なかったことに気がついた。