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カツ丼

作者: 波硝子

10分くらいで書いたエイプリルフールの小話。深い意味はありません。

 弁天池のほとりに立つと、赤や黒の鯉に混じってカツ丼が泳いでいた。

 カツ丼は腹が減っているのか、私の足下までやってきて、乗っている一枚のカツを口をぱくぱくさせるかのように動かした。私が池の際にしゃがみこんでもカツ丼は逃げなかった。優雅に水面を漂っている。

「きみはカツ丼じゃないのか」

 私が問うと、カツ丼はふと動きをとめた。

『そうです。食べたければ食べてもいいですよ』

 カツ丼はどこか寂しそうに言った。正確には、言ったように感じられた。

『自由というものがどんなものか、知りたかっただけなのです』

 よく見るとカツの衣はところどころ剥がれ、もともとは深紅だったのだろうプラスチックの重箱も色褪せている。

「食べられたいのかい」

 カツ丼は少し考え、おそらくは、と答えた。水に浸かり、できてから相当な時間が経ったのだろうカツ丼に食指が動くはずもなかったが、私はカツ丼を憐れに思い、そっと水の中から引き上げた。

 カツ丼は私の手の中で、沸騰する薬缶の蓋のようにぱたぱたと四枚のカツを動かしていたが、やがて動きは弱々しくなり、最後には静かになった。

 カツは卵でとじられてはおらず、濃い色のソースが全面にかかっていた。私はそれをみて急に食欲を感じたが、あいにく箸の持ち合わせがない。

 きみが鯛焼きだったらこの場ですぐに食べてあげられたのにな。そう思いながら、私は冷たいカツ丼の上に白いハンカチをそっとかけ、家に戻るために車へと向かった。

最後まで読んでくださってありがとうございました。

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