ジェドル・セヴェット
この現代において珍しく、パン窯の煙が立ち上る料理屋があった。
太陽が少し顔を見せ始めた頃合い。まるで、窯に入いるパン生地達が太陽の光に焼かれたかのように。もくもくと、パン生地達が膨らみ・焦がされパンへと育っていく間に産まれる甘く、香ばしくはたまた嗅いだことの無い食欲を刺激する様な香りを供連れに。煙突から煙が旅立っていき、家々に広がっていく。
そこは、大都市から少し離れた小高い丘に有る人々に活力を与えると噂と供に建つ。小さなお店。
そんなお店を営む店主と店員。そして、夢を持つお客たち。そんな彼・彼女達のなんて事のない日常風景。
「いらっしゃいませ。どの様なものをお望みですか?」
「私達がご要望通りのお料理をお出しします!」
「「実になるお時間を、どうぞ」」
\_____/
「ここ、だよな」
俺の見上げる先にあるのは、小高い丘にポツンと建つ二階建てのログハウス。親友に進められて来たが…看板も無いしここで合ってんのか?綺麗ではあるがなぁ。
ま、あんまりうだうだしてても仕方がないし、覚悟決めて行くか。違ったらその時だ。
ん?ああ成程。入口に看板掛けてあったのか。店の名前はっと
『ジェドル・セヴェット』
よし、合ってる。開店時間にもなってるな。さてさて、どんな店なのかやら。
「「いらしゃいませ」」
「こちらへどうぞ!」
聞いてはいたが美人な店員さんだな。茶色のポニーテールと明るい笑顔が眩しいね、ウチの彼女とは大違いだ。店も落ち着いた雰囲気だし、いい店だな。
「あの~、すいません」
あ奴がしつこく進めるわけだ。入って右側は階段か、二階には行けんのかね?正面にカウンターとカウンター席。他は、テーブル席か。
「お客様、聞いておられますか~!」
「はっ!すいません、お店を見てて聞いてませんでした。」
やっちっまたな、しっくた。話聞かないとか小学生かよ俺。
「大丈夫ですよ~ではもう一度お話しますね!」
「お願いします」
「ここ、ジェドル・セヴェットには二階のテラスフロアと一階のカウンターフロアがあります。お客さまはどちらになされますか?あ、二階のテラスフロアにも屋根のついた部分がありますよ!」
はぁ~癒されるわ。身振り手振りする仕草がかわいいし、あいつはどっちかっていうとクールな仕事人だからこんなことしないしな。さて、座る席か。初めて来たしどっちがいいかわからんし…聞いてみるか
「店員さんは、どっちがおすすめですか?」
「そうですね~初めての方ですから。カウンター席がおすすめですよ!注文するとき楽ですから!」
「そうなんですか、ではカウンター席でお願いします。」
「わかりました!では、お好きな所にお座り下さい!さて、注文なのですが。当店にはメニューがありません。なので、お客様のご要望に合わせたお料理をお出ししています。」
「あなたは、どの様なものをお望みですか?」
どの様なもの、か。嫌いな料理は特にないが。ん?メニューが無いってことはコースで出てくるのか?
「すいません、料理ってコースなんですか?」
「いえ、特にそう言った事は決まっていませんよ。あ、でもお客様がお望みならばそうしますよ!」
決まってる訳じゃ無いのか。奴はいつも、メニューは丸投げしてるって言ってたしな~。とりあえず、大雑把に伝えればいいだろ。とすると、何頼むか。肉は確定として。あとは、サラダとスープが有れば最低限何が出てきても腹は膨れるか。
「じゃあ、肉系をメインにサラダとスープをお願いします。あと、何か旬で美味しいものが有ればそれもお願いします」
「わかりました、西洋料理系統ですね。それでは、伝えてくるので少々お待ちください!」
\_____/ 料理中 \_____/
しかし、出来上がるまで何をしたものか...携帯をいじりながら待つのは、なんかなぁ店の雰囲気に合わないし...
「お客様、もしよろしければ。お料理が出来上がるまで、私とお話をしてもらえますか?知名度の低いこのお店をどうやって知ったのか気になってしまって」
ナイスタイミング!ありがとう店員さん!
「ああ、それはですね同じ工房で―――」
「―――お客さんは、何か夢とかお持ちですか?私は、このお店を賑やかにするのが夢だったりするんですが」
俺の夢、夢か。生まれてきて数十年、小さな目標を作っては達成してきたけど。人生全体を通した大きな目標は作った事なかったな。そういえば。
高校出てすぐ今の工房入ったし、そこまで有名に成りたい訳でも無いからな。それこそ、工房に入りたての頃は自分ひとりで作れるようになるのが夢だったが。工房には親方の息子さん居るから、跡取りのことも考えなくていい。
となると、ひたすら良いものを作るぐらいしか残ってないな…ああ、でも。俺をこの道に導いてくれたあの小説に俺の作った子供たちが載るってのは良いな。
そうだな…それだな、よしこれからはあの小説に登場するぐらい良いものを作ることを目標。いや、店員さんの言葉を借りて 夢 にするか!
「店員さんありがとう。いやぁ今まで夢なんて意識した事なかったけど、店員さんのこの質問で夢を見つけられたよ。本当にありがとう」
「そんな、頭なんて下げなくても大丈夫ですよ!それより、お客さんの夢。どんなものか聞かせてもらってもいいですか?」
「ええ、もちろん。私の夢は、今の道に導いてくれた小説に、私が作った作品が書かれることです」
「成程、お客さん職人さんだから。ただひたすら良いものを作る!なのかな?なんて予想していましたけど。素晴らしい夢ですね。私はお客さんの夢、良いと思いますよ!」
「すいません、呼ばれているみたいなので失礼します!」
ふぅ、まさかこんなことを飯を食べに来た先で考えることになるとはな。だが、本当に為になった。奴には後でお礼の一言でも送ってやるか。後は飯が出てくるのを待つだけだな。一体どんな料理が出てくるのか楽しみだ、本当に。
つ\_____/\_____/\_____/
「お待たせしました!まずは、メインのお肉料理であるハンバーグををお持ちしました。すぐに他の料理もお持ちするので、食べ始めるのを少々お待ちくださいね。」
おお、ハンバーグか!大きいし、食いごたえありそうだなこれ。でも、このハンバーグにソースかかってないな。デミグラスソースとかあった方が有難いんだが…別でくるのか?もともとの肉がおいしいならそれも有りだけど…
「他のお料理をお持ちしましたよ。当店オリジナルのパンと旬の野菜達と鶏肉のサラダ、竜血のスープ。それと、全てのお料理に付けて食べれる硝子のソースです!ソースはお替りが有るので足りなくなったら及びください。すぐにきますから!」
「ありがとうございます。あの、しょうし?のソースがハンバーグに使うソースで良いんですよね?」
「ええ、それで大丈夫ですよ。ソースを使わずに食べても十分美味しいですから、最初は何も使わずに食べるのもいいと思います。ただ!私的には竜血のスープと一緒に食べるのが一番オススメです!」
「それでは、みになる時間をどうぞ」
「ありがとうございました。」
「それじゃ、いただきます!」
まずは、やっぱりメインのハンバーグだよな!まずは何も使わずに、そのままでたべるか。
ふむ、表面がこんがり焼かれているからか少し固いが...うしっ、ナイフが入った。
表面のこんがりと焼かれた層が割れたら、一気に肉汁が出てきて
うまそうだな。
....美味い。肉自体の素朴で少しピリッとした酸味の様な味。口に残らず、寧ろさっぱりとして体全体に広がっていくような肉汁。切るときとは違って、食べてみると程よい噛み後耐え。これは、ステーキみたいに満腹感が大きい訳でもなく。油ぽっくも無いし、大量に食べられる珍しい肉料理だな!
さて、今度はソースを付けて食べてみるか。そのままでもかなり美味しいが、どんな味に成るのかやら。何れにせよ、期待はできるな!
小皿にソースを分けてっと、お?思ってたよりもどろっとしてるな。肉とかに絡めやすくするためかな?しかし、透明なソースとは珍しい。まあ、ソースって言われてオイスターソースが真っ先に思い浮かぶ俺も俺だかな。
一口サイズのを半分位ソースにで十分かな。うん、思ってた道理。肉にしっかりと絡まる。
んん?何だろうこれ。言葉にしずらい、何て表せば..ああ近い所で表せば。八宝菜とかにかかってる餡がちかいか?味は全くの別物だけどな。
少し苦味があるけど、むしろそれがハンバーグ自体の爽やかさを引き立ててる。だけどそれよりも、既に有る味を壊さず若干の苦味を持ちながら、オニオンスープの様な味と濃さ。そしてスッキリさをこのソースは持っている!
さーて、ハンバーグが無くなる前に店員さんオススメのスープとハンバーグの合わせ技を試して見なければ。
っていかん、いかん。まず最初は単体で味わなければ。
おっ、このスープまだ暖かい。ハンバーグばっかりにてを出していたから、冷めてないか不安だったんだよ。良かった。
...ふう、スープにしては腹にたまる感じがするな。味は見た目道理の辛目、かな?そこまで辛くはないが、舌に辛さというかヒリヒリ感が残る。あと、何よりも体が芯からあったまる感じが…生姜みたいな食材が入ってるのかね?
しかし、ここの料理はうまいんだが、ほんと今まで食べたことの無い触感や味の料理が多い。食の常識が壊れそうだよ全く。あ奴とまた来るのも面白そうだ。他にも、親方達と来るのは……やめとこう。こんないい店に来ても雰囲気とか関係なく騒ぎそうだ。
よし!それじゃあ満を持してスープ+ハンバーグやってみるか。
うーん、やっぱりソースと違ってハンバーグに絡めずらいな。ソースとスープは別物だし当然なんだが。あっ、使ってない小皿に乗せればいいか
。
..このハンバーグほんとに何の肉を使ってるんだ?明らかに豚や牛の味でもない、鶏肉はハンバーグに使うわけないだろうし。馬肉?歯ごたえというか硬さは似ているが、味が違う。こっちの方が圧倒的にうまい。店員さんのおすすめ道理にスープと絡めたら、ほんとにさっき食べた素のハンバーグとは別物みたいな味に変わったし。野性味?が出て爽やかな後味から舌に残るドロッとした辛みと肉の旨味。でも、おいしいことに変わりはなく、美味しさのベクトルの向きが変わった感じだ。
変わり方をたとえるならそうだな....素のハンバーグは、草原で悠々と生きる動物。スープ+ハンバーグは、砂漠とかの過酷な環境で必死に育った動物みたいな感じ。
素もソースもスープもどれも美味しくて優劣はつけられねぇな。取り合えず、メインの方はあらかた食べたし、パンやサラダにも箸を進めるか。
そういえばこのパン、この店オリジナルのパンか。ハンバーグのインパクトが強くて全然印象に残ってなっかたが、ハンバーグもあれだけ美味しかったし。パンも十分に美味しいんだろうな~
見た目は小さい食パンだね、カットされてるタイプの。やっぱり、硬かったりするのか?洋食に出てくるパンは堅いイメージしかな…いや待て、このお店のことだきっと何か有る。柔くても不思議じゃない。
うん、柔い。そして意味が分からない。なんで、パンがこんなに水分を含んでて。口に入れると、含まれた水分が出てきて体が癒される感じがするのか。そして、パン本体が湿ってないんだ?
いや、良い。諦めよう、どうせ考えたところで分からん。さすが、このお店だ。予想の上を行ってくれる。
はぁ、次はサラダか。見たところよく分からない物は入ってないな。このサラダにはどんな驚きと美味しさが有るのかね。
じゃぁ、さっそくいただきますか。
シャキシャキしてて―――
\_____/(●´∀`).。o○(満腹) \_____/
「ええ、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「それはよかったです!それでは、こちらがレシートです。ありがとうございました!」
「いえいえ、また来ますね。それでは。」
嗚呼うまかった。さてと、腹ごしらえは済んだし帰って今日の分を用意するか。
「親方、戻りました!」
「― ― ―」
「はい!日が落ちる前には!」
よし、まずは玉鋼と炭の運び込みだな。今日は、あのお店の料理のおかげか調子がいい。いい、刀が打てそうだ。
それに、今日決まった夢のためにも頑張っていかないとな!いつか、必ず夢は成し遂げる。途中であきらめるなんて、ダサいしな。
「今日は、お前が一人で二本仕上げろ。今のお前ならできるだろ」
「え、いいんですか?親方」
「はら、早く準備しろ」
「わかりました!」
「店長、今日のあのお客さん。いい食べっぷりでしたね。彼が今日私たちに語ってくれた夢、叶うと思います?」
「さあな、俺たちは料理屋だって毎回言ってるだろ。美味い料理を出すだけだよ、俺は。」
「そうですね、火竜を贅沢に使いましたしね!ご丁寧に鍛冶作業に集中できるように、耐火の特性をしっかりと残して。あの人の体全体に、効果が及ぶよう危ない血やら中和用のパンも用意して!」
「たまたまだ。あと、あんまりからかうようだと。あっちの世界に送り飛ばすぞ、こっちに戻ってこれないようにしてな。」
「ふふふ、すいませんでした。それじゃ、今日の残ったパンをあっちに届けてきますね!」
「気をつけてな。さて、閉店の看板を出すか」
\_____/
これで、ちょっと変わったお料理屋さんの日常はおしまい。
明日も、不思議な材料を使った料理がこのお店に来るお客さんを楽しませるでしょう。
もし、機会が有れば。ジェドル・セヴェットの裏方を見れるかもしれません。
それでは、最後に
「実になる時間を過ごせましたか?過ごせたのならば幸いです。当店、ジュドル・セヴェットはいつでもお客様のご来店をお待ちしております。」
この場を借りて、アイデアを提供してくださった金斬 児狐様に感謝を。ありがとうございました。
そして、読んでくださった方々に感謝を。