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『なんでもない日の考察』

作者: Sady

『なんでもない日の考察』


電車を待つ二人。

「みて、鳥飛んでる。」

「鳥飛んでるて、なんやねん。カラスやろ。」

「カラスも鳥やろ。」

「カラスは鳥の前にカラスやろ。」

「カラスて漢字にしたら鳥に似てるよな。」

「それがどうしてん。」

「なんか、一つ鳥として足りないところがあるんやろうね。あ、あれちゃう。全身黒いから、眼(鳥には白眼が無く黒眼のみ)が何所か分からんくて、一足りひんみたいになってんのちゃう。鳥っていう漢字の上の「ノ」がトサカ的な所で、「ノ」の下にある「日」が眼になっててな。それか、カラスは真っ黒やから、漢字の上の部分に白ていう漢字を使いたくなかったとか。しかも、眼の部分やとしたら「眼」やのに「日」になってて惜しいし。はははは、めっちゃ面白い。顔面黒やけどな!」

「いや、それめっちゃ寒いで。」


「なあ、みて、銀色のカラス」

「いや、黒やろ。」

「お前、見えるもんしか見えんのか。お前の創造力には翼が必要やな。」

「は、なにそれ、キモいって。明らかに黒でしかないやろ。」

「そんな奴にはなりたくないと私は子供の時から思っておりました。翼を広げ、朝日に向かって飛躍する番いのカラスはフクロウより与えられし黒いベールを脱ぎ捨てて、白銀の輝きと共に、天の国へと私を誘う。」

「いや、怖い怖い。何言ってんねん。」

「カラスの翼が黒い理由知ってる?」

「そんなん知らんわ。人間はなんで橙色なんていう質問と一緒やろ。」

「ちゃうで、カラスはな、昔フクロウに羽織作ってもらう時に黒く塗られてんで。」

「何情報やねんそれ。」

「柳田國男の昔話」

「いきなり民俗学者出してくるなや!緩急ありすぎて地面ぐらついたわ。」

「うわーそのツッコミ、カラスには効かへんわ。カラスは飛んでるからね。」

「ほんま、しょーもないわ。」


「なあ、カラスてなんて鳴くと思う?」

「そりゃ、カァーカァーやろ」

「お前ほんまにカラスがそう鳴いてるところ見たことあるけ?そのカラスもってこいや!」

「カラスはッキャーンッキャーンもしくは、ッアーッアーやろ。」

「なんやねんその擬音、無駄にリアルやわ。しかも、鳴いてるというより、嘆いてる時の声みたいやし。」

「そうやろ、お前にはもう、信号機の青色を緑色にしか見えない子供の気持ちはないんやろうな。」

「なんやねんいきなり。急に感じ変わるからビックリするわ。結構仲良い俺がまだビックリするんやからお前、結構やぞ!」


そうこうしてると、電車が駅のプラットフォームに入る。そして、電車のドアが開いて乗客が下車する。「うわー、外は冷えてるな。寒い寒い。」という乗客の声が霞む様に聞こえつつも、二人は真ん中を割るように場所を開け、降りる客がいなくなるのを見計らって直ちに乗車する。


「おい、おばはん。」

「おい、いきなりお前何言ってんねん。すいません。」

「失礼な子ね〜、おばさんじゃないわよ!」

「おばはんじゃないんやったら優先座席座んなや」

「妊婦さん立ってんの見えへんのかよ。」

隣の優先座席に座っていた初老の男性が立とうとする。

「いや、おじいさんは座ってて下さい。おばはん、お前に言ってんねん。周りに気を遣わすなや。早よ立て!」

「お前、ちょっと言い過ぎやろ。」

「せやな。」

「いや、攻めた割に引くん早過ぎやろ。」

「妊婦さんすいません。これが日本社会の現実ですわ。私たちの世代から変えていきましょ。チェンジ、チェーーンジィー!!」

「次は、智弁和歌山高校の攻撃、3番ショート野澤くん。」

「…」

ガン無視しながら、読書し始めるふりをする。これが、秘技「すかし」である!!

「おい、なんか、ツッコメや!」

というツッコミを取り敢えず入れられておく。これでひとパック。


妊婦は、愛想笑いをしながらも左の口角が引きつっていた。しかし、その若者の言葉には、大衆が(地面が)凍りついてもなお、意思を通し続ける、飛び立つ一羽のカラスの様な泥臭さと共に生え上がる強さを感じ、鳥肌が身体一面を覆い母体の中で出産されることを待ち望む赤子はビクン!とした。


なんでもない日の考察。

電車の外からは、カラスが頑張って私達に白眼を向けようとこちらにアイコンタクトしてきたので、「すかし」を決め込んでやった。


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