9話 モンスターペアレント。
「何時まで待たせる積もりなの!?」
女は苛立ちを隠さず、誰が見ても最悪だと思う態度を取っていた。セバスチャンと思わしき人物が、世話を急かしなくしている。執事とメイドを雇うとは、随分とお金持ちの様だ。
「お嬢様。紅茶をお持ち致しました。」
「あらそう。では、頂くわ。」
女は紅茶の香りを堪能し、口に含む。それを見ていた従業員は、慌ててそちらに向かう。
「お客様。大変申し訳ありませんが、持ち込みは禁止されております。片付けをお願いします。」
「まぁ!何て野蛮な所なの!?対応は遅いし、ティータイムは邪魔するし!責任者をお呼びになって!!」
「誠に申し訳ありませんが、それは出来ません。ルールを守らないのであれば、即刻退去して頂く準備があります。」
何時にも増して、強気の従業員の対応だ。通常であれば、平謝りすると思われる。しかし、今回は退去させる準備までしているのだ。企業としては、浅はかな事をしているのだろう。お客様を逃がすだけでなく、批難中傷も視野に入れなければならない。
「くうううう!!こんな屈辱初めてですわ!セバスチャン!この者達に目にモノを味会わせてご覧になりまして!」
「お嬢様。今回はあちらの言い分が正しいかと。ティータイムは、後程に致しましょう。」
「絶対後悔させてあげますわ!」
騒ぎを駆けつけた店長が、女に近付く。
「お客様。どうなされました?」
キッと睨み付け、店長を黙らせる。
「貴方が責任者ね?あの従業員の態度!あれを首になさい!そうすれぱ、ここの営業は安泰をお約束致しますわ!」
「どうぞ、お帰り下さい。」
「え!?いや、あの従業員を首に!」
「貴女の首を飛ばしますよ?」
店長はニッコリ微笑んだ。顔は決して笑っていない。
「むきー!!セバスチャン!帰りますわよ!」
「はい!お嬢様!では、皆様ご迷惑お掛けしました。」
頭を下げて、セバスチャンは女をエスコートして、出ていった。
「店長良かったんですか?」
「何が?」
「あの人、ゼニーの社長の娘ですよ?」
「へー。で?」
「軽!何かしらの圧力が・・・。」
「そんなの気にしてたら、仕事にならない。それにここは創業500年の老舗なんだよ?逆に圧力かけちゃうよ。何もしないけどね。」
「はぁ、そうですか。」
「僕は、従業員を守る責務がある。
お客様は大切だけど、神様では決して無い。」
良い事言った。店長はそうドヤ顔をする。そのドヤ顔が無ければ尊敬されるのになぁ。損して、損をする。役得、いや役損だな。
『お待たせしました。受付番号、121、番の方は、窓口、7、番までお越し下さい。』
2分が経過する。
「受付番号121番のお客様!受付番号121番のお客様!おられませんか?」
「あ、中野さん。それさっきのお客様だ。」
「そうですか。では、キャンセルという事で。」
「それと、ブラックリストにぶちこんでおいてね。」
従業員は苦笑いした。
『お待たせしました。受付番号、122、番の方は、窓口、7、番までお越し下さい。』
飛ばされて次のお客様へとアナウンスされる。
「わ、私だ。」
女はそう告げ、窓口7番へと向かった。




