0話 そんな気軽に宇宙へごー
人々が自由に宇宙を飛び回り星々を渡り歩くこの時代。
俺は特に生まれ育ったこの星を21になる今まで一度も出ず、今はバイトで食いつないでいるコクロという名のしがない男だ。
ここは 人々が自由に宇宙を飛び回り星々を渡り歩くこの時代。
俺は特に生まれ育ったこの星を21になる今まで一度も出ず、今はバイトで食いつないでいるコクロという名のしがない男だ。
ここは企業型居住星系の中にある星の一つハバーロ星。
この星系には多くの大小の企業が拠点を構えておる為警備は万全、治安は良好で多くの人が住居を構えている。
そんな訳で、こんないい場所を離れる理由等無いので、これからもずっとここに住み続けるんだろうなと何となく思っていたのだが、この日かかってきた一本の電話によってその考えが覆される事になるとは…
◇
「おっす、コクロ今日時間あるかー、ちょっと見せたいものがあっからさ」
電話の主は、ダルダン先輩だった。
俺が8歳の頃入っていたスポーツクラブの三つ上の先輩、当時から何か連む事が多く、もう十年以上の付き合いがある人だ。
この日は特に予定も無かったので、大丈夫ですよと返事をして先輩の指定した場所へと向かったのだけど、そこに待っていたのは、ドヤ顔をした先輩に、とても個人で所有する様な代物では無い大型宇宙船だった…
「えっ…とぉー、それで先輩今回は何です?」
「ふふふ、見て見て、これ買っちゃった」
と腕を大きく振り指差す先にはその真紅の大型宇宙船。
何言ってんだこの人。
「いや、買ったっ…て、何をです?」
「だからこれだよコレ!真っ赤なボディの大型宇宙船、しかも、発売されたばかりの最新型、最大1000人乗れて、最新装備もレーザーからミサイルまで搭載可能だぜ!」
1000っ⁈
旅客船かよ!更に戦闘艦で最新式⁉︎
これ星を幾つか買えるレベルじゃないか
極一部の人以外一生掛かっても稼げる値段じゃない。いや、一部の大富豪だって買っても中型までだろう、こんなの大企業とかじゃないと買わないよ!
「いや、お金はどうしたんです?」
「いやー、宝クジがさ、一等、二等、三等当たった上にスペホで大穴当てちゃってさー、いやーマイッタマイッタ、ワハハハ」
あー、そう言えば、今回の宝クジは過去最高額だとか宣伝してた様な…
スペホ、スペースホースの略で小型宇宙船の賭けレースの事なのだが、こちらも過去最高額になる大穴が出たとかニュースで見た様な…
そうコレがあるのだ、先輩は運に愛されている。
クジが当たるのは勿論、スポーツでもボールを軽く投げただけで突然の強風で相手ゴールに突き刺さり、短距離走では何故か先輩の方は追い風、他の走者は向かい風が吹き、一時期、神風ダルダンと呼ばれていた事もあった、そんな超強運を時に巻き起こす。
ただし、先輩は幸運に愛されてる訳ではない運に愛されているのだ、時に酷い不運に見舞われる事があるのだが、それはこの先輩超ポジティブシンキングなのでどんな不運も笑ってすませる豪快さ、巻き込まれる周りはたまったもんじゃ無いが(主に俺)
まあ、流石に今回程の幸運は今まで無かった。
「幸運から宇宙船、名前はグッドラック号と付けたぜ、これで一緒に宇宙の大冒険に行こうぜっ」
ニカっと先輩が笑いかけてくる。
だから何言ってんだこの人。
「行きませんが」
「何でだよぉぉぉぉぉー」
先程とは一転、世界の終わりの様な絶望的な顔をこちらに向けてくる先輩。
「いや、こっちのセリフですよそれ!」
「いやー、俺、前から宇宙冒険したいなーて言ってたじゃん?」
「そう言えば、偶にそんな事言ってましたね」
「その為に大型免許と宇宙航行資格は取っておいたしな」
おいおい、それ両方共超難関の筈じゃ…
「…それは初耳ですね」
「だから一緒に宇宙へレッツフライ!」
白い歯を見せ、親指を立ててアピールしてくる先輩。
「いや、俺が行く理由になって無いんですが、それに知ってると思いますが、宇宙船の操縦どころか、宇宙についても知識あまり無いので、連れて行っても役に立ちませんよ」
「船やらそこら辺の事は全部俺に任せなさい!コクロは一緒に来てくれればいい」
先輩は全然引く気がなさそうだ…
うーむ、考えてみれば、確かにバイト生活な上に家族とはここ数年連絡取って無く、どこにいるかも分からん俺に取って今の生活に縛られる必要は無いし、話に乗ってもいい、かも?
「じゃあ先輩、他にメンバーどの位居るんですか?」
「む?どの位とは?」
「いや、一緒に宇宙に行く人数です」
「俺とコクロだけだが?」
「はっ?」
「ん?」
今なんて?
俺とコクロだけ?
二人って事?
はははは、そんな馬鹿な。
「おーい、どうしたー?」
とフリーズしている俺の目の前で手を振り不思議そうに先輩が声を掛けてきた。
「いや、どうしたじゃ無いでしょう、2人て馬鹿ですか!何なんです、あの大型船は、小型で十分でしょう、しかも、先に言った通り俺は何にも出来ない役立たず何ですよ、先輩だけで行った方がマシですよっ!」
ハァハァと突然大きな声で捲し立てた俺に先輩は驚いた様に目をパチクリさせた後、少し肩を落とし、
「だってさ、一人じゃ寂しいじゃない、それに大型船の方が快適だし、丈夫だし、安全だし、運転も基本完全自動航行だからトラブル起きない限りやる事ないしさ」
と小さな声で答えてきたけど、ん?
「先輩、今、完全自動航行て言いました?それだと、決められた正航路しか進め無いはずですが…」
そう、先輩は只の自動航行で無く、ー完全ー自動航行と言った、星と星の間には整備された安全な正航路があり設定すれば船が勝手に目的地まで到着出来る、一般人や旅客船等は勿論その航路を使う。
「そうだよ、正航路じゃないと危ないじゃないか、平和、安心、安全が家訓だからな、危険な道は通らないぜ!」
さも当然の様に返された。でも先輩それって、冒険じゃなく、
只の旅行っす…
身構えてしまっていた俺は一気に気が緩み脱力。
それならいいかと、それ以上よく考えずに先輩の提案に乗り、宇宙へ旅立つ事になるのだが、もっとよく考えて決断すべきだったと早い段階で後悔する事になるの、それはまた近い未来の話。
次回。
ちょっとそこまで乗せてって♡
少女ヒッチハイカー登場編