小噺⑤ 正月(名影×伏×芦屋)
「なーちゃん、オショーガツ…ってなに?」
「うん?」
「いやほら、旧時代の文化とかなーちゃん詳しいじゃん?だから、オショーガツ知ってるかな?って」
「舞人、わざわざ名影に聞かなくても俺が知ってるぞ。」
「………で、なーちゃん、オショーガツってなーに?」
「(喧嘩でもしてんのかな…)うーん、お正月って言うのは、年のはじめ、新年の祝い日…って感じかなぁ?」
「ふーん…じゃあトラストルノでオショーガツが無くなったのって正確な時間とか年の概念が無くなったから?」
「そうね。…というか、まいっち、それ旧時代の日本で書かれた本でしょ。お正月って言い方は日本のだもの。」
「案外日本には未だに"お正月"があるかもしれないぞ。あそこは研究島で、トラストルノとは土地も文化的にも切り離されてるからな。」
「…………。」
「なんっで俺が喋ると黙るんだよ‼︎」
「まいっち…何を怒ってるの?」
「僕が無法地帯でやっとの思いで見つけ出して買ってきたシュークリーム…聖くんが勝手に食べちゃった…」
「うわぁ…それは……"クズ"だね」
「クズ、を強調しなくても分かってるわ‼︎だから今度買ってきてやるって‼︎悪かったよ…」
「んむぅー……初めて見つけて、その喜びを噛み締めて、初めて自分で見つけたものだという付加価値も込みで美味しく頂くんだよ…‼︎‼︎いくつもあるだろう、みたいなつまんない考えで、自分の尺度で、物事を考えないでよ‼︎」
「(珍しく本気で怒っちゃってるじゃん…)」
「珍しいものだなぁって…思って……悪かったよ。」
「あ、じゃあさ、シュークリームは今度私と一緒に買いに行こう‼︎お店教えて欲しいし…付加価値は無くなっちゃうかもしれないけど。
でさ‼︎今日はお餅、食べない?」
「お餅?」
「そんなの食ったことある。」
「違うわ、売ってんのじゃなくて、自分達でつくのよ。餅つき大会‼︎どう?」
「おぉ!いいねぇ〜」
「じゃあ、まいっちはみんなを呼んできて、芦屋と私で準備しておくから。」
「うん‼︎」
「正月ってさ…」
「え、なに、芦屋まで正月話したいの?」
「いや、正月って今の俺らでいうところの'も"挨拶はじめ"のことかなーって」
「あぁー…確かに。でも"挨拶はじめ"は仲の良い家だけじゃなく、大して知りもしない家とも仰々しい挨拶をしなきゃいけないし、これ見よがしな贅沢品を食べて、若人はあっちのテーブル、こっちのテーブルって挨拶に走らなきゃいけないわけじゃん?」
「お…おぅ…随分な言い様だが…まぁそうだな。」
「それに対して、正月は基本身内でやるもんでさ、身内同士で年のはじめに挨拶をしたり、あとはそれぞれち思いを込めた"おせち"?を食べるらしいから……"挨拶はじめ"よりははるかに理にかなった行事だったんじゃない?1年に一度は血縁者全員の無事を祈る、というかさ。」
「まぁ、そうね。……日本以外にもあったよな?」
「そうね、新年の祝い方は国によって様々でしょうけど…今もどっかしらには残ってるかもね。」
「……………。」
「……なに。」
「いや…新年の祝い、なんて素敵な文化だと思うんだけど…どんなものも廃れ忘れられていく時があるんだな…と」
「急になんでそんなセンチメンタル…いや面白いからいいんだけどさ。」
「おい。おかしいだろ、面白いって…」
「まぁでもそうね、みんないつかは忘れ、そして忘れられていく。しょうがないわよ。それが時が経つってことでしょう?」
「お前ってなんでも感覚で捉えようとするのな。」
「?当たり前でしょう?だって数字も法も、ありとあらゆるものは感覚によって捉えられ使われている。なぜ1が1であるのかは、1であると捉えているからでしょう?」
「じゃあ正月って概念も、正月だって思えば今が正月か?」
「そうよ。でもその時に大事なのは心の奥底からそうであると信じて疑わないことよ。"本当はちがう"と心の隅にでもあってはならないの。」
「難しいな。」
「難しくないわよ。だって今が正月でないなんてありえないでしょう?」
「お前って……………すごいな。」