女子高生
「えーっと、友里ちゃんだよね?」
男が喋る。私は喋れない。旭川も喋らない。
参ったなという感じで男は頭を掻く。いや、参ってるのはこっちだよ。
「俺…いや僕かな?そろそろ君のお父さんになる、天田と言います。
よろしくね、友里ちゃん」
へらっと笑った顔。こりゃ、旭川怒るよ。
「…帰れよ」
旭川が一言。表情は見えない。男はこちらに向かい歩き出す。
旭川は避けない。
男は肩身が狭そうにドアを閉めた。
最後、会釈もしなかった。
ちらっと旭川の方を見ると泣きそうに歯を食いしばってて、でも私に気づいて少し笑った。
私はどうしたらいいか分からなくて気の利いた言葉もかけられないままで旭川が動き出すまで何もしないようにしようと思った。
旭川の母親はとっくに仕事に行ったらしく靴はなかった。結婚もしてない男に娘が帰ってくる家を任せている。よほど信頼しているのか。それとも娘がどうでもいいのか。
ともかくこんな家は女子高生には相応しくないななんて思って今すぐ自分の家に帰りたくなって下を見た。旭川の顔を見て普通でいられる自信がなかったのだ。
「ごめん、高橋。今日はもう帰って。」
少し上を見たけど旭川の表情は見えない。でも少し悲しそうな声だった。
「ん…分かった。なんかあったら私の家、来ていいから。」
そう言って申し訳程度の別れの挨拶をすると私は旭川の家を後にしたのだった。