分かってほしい、ほしくない
「やーっほ。どうしたの?気分でも悪い?難しい顔しちゃって。あっ、もしかして私が卒業するから寂しいのかな?
」
部活を引退してもちょくちょく遊びに来る先輩はウザいだのムカつくだのみんな言うけれど私は意外と来てくれることが嬉しかったりもする。それは私が先輩を好きだからだ。
「そんなわけないでしょう。卒業の日が待ち遠しいです。」
「最後まで、素直じゃないんだから。私だってずっと貴方の面倒見れるわけじゃないのよ?早く安心させて私をこの学校から追い出してね。」
「いいえ、とても素直ですよ。」
追い出したくないなぁ。
考えてしまう、汚い、ドロドロした思いが。恋心が。
「怒っているの?もしそうならごめんなさい。素直になれだなんて、偉そうだったかしら?私も素直になれないのよ。お揃い、ね。」
先輩が少しはにかむ。
可愛いなぁなんて、そんなこと考えてる場合じゃないのに。
「怒ってないですよ。それに先輩は私なんかよりよっぽど素直です。」
「ありがとう。それじゃ、部活頑張ってね、部長さん。応援してるわ。」
先輩には好きな人がいる。男だ。他校の3年生。先輩と同じ年。何で知り合ったのかな。駅伝の大会って言ったかな。
先輩は一目惚れだって言ってた。相手の男も先輩のことが好きらしく、何回も遊んだりしてるらしい。
先輩はいつもその話を私にする。そしてその度にこう言うのだ。
『貴方にも素敵な恋人ができるといいわね。』
なんて。馬鹿みたいだ。私は先輩が好きなのに。
目に涙が滲んだので慌てて目をこすった。こんな事で泣いてたら示しがつかない。さっき応援してもらったばかりなのに。
「おーい、高橋。メニュー終わったぞ。部活終わりにしようぜー!」
「えっ」
同級生の旭川友里が報告に来る。大忙しだなぁ。
「おい、高橋。」
「…何よ」
旭川がズイッと近づいてくる。鼻先と鼻先が触れ合うか触れ合わないかの距離。
ああ、近い、近いよ。
後輩が見てるからやめてほしいのに。
周りからざわざわと聞こえる。わりと女子から人気があるこいつと仲がよろしいみたいな噂が流れると非公式のファンクラブから地味な嫌がらせをされるとかどうとか。
旭川友里、ファンクラブ持ちの私の友達…のはず。
爛れた友達だ。肉体関係はないけどお互い慰め合うような、爛れた友情だ。
俗にいう、セフレってやつよりも重くて、軽い。
気持ちだけの関係。しかも2番目に好きな人って。
「寝不足?目ェ赤くない?泣いちゃった?ダッセー。」
「ダウンの時間よ。」
周りの後輩に練習は終わりでダウンをすると伝える。
旭川が片方の手をグーの形にして、その上にパーの形をしたもう片方の手をのせる。
このサイン。
今日は家に寄ってけのサインだろう。
これに対する答えはyesしかないのだろうがどうしたってそういう気分にはなれない。
求めてもらえない人を好きになり求めてくれる人を好きになれない。
旭川を好きになれればどんなにいいか。
モヤモヤとした気分を抱えながら行ったダウンは何の意味もないような気がした。