殺す者
「……て、起きて和大」
あれ…?これは…夢?それに前にいる女の子は…誰だっけ…?なんか、俺を呼んでるぞ…行っていいのか?
「起きるんじゃ和大」
呼ばれて……
「うわぁッ!」
―ゴツッ
「相変わらずお主は寝起きが悪いのぉ…」
「エンマ様がいちいちのぞき込むようにして起こすからでしょ!」
「まぁ、よい」
いいのかよ…。
はぁ…まったくエンマ様の付き添いも楽じゃないよ…。
「閻魔様…」
「なんじゃ?この前のお子様ランチは美味しかったぞ?」
なんの話しだよ…
「実は…死神が…今日来るそうです」
「なにぃ!?死神が…今日!?」
「はい…今日暇があったら行くとのことです」
「あ、あのー…エンマ様。死神ってのは…?」
「あぁ…死神は…この世界において最強の殺し屋とうたわれるやつじゃ」
うぇ…殺し屋かぁ…やっぱり怖いんだろなー…。しかも死神だろ…ガイコツの顔したやつとか出てきたらどうしよう…。
これは覚悟を決めておいたほうがよさそうだな…。
「閻魔様、死神様が来られました」
「うむ…何の為にここに来たのか知らんが…まぁとりあえず通せ」
赤鬼は「了解しました」と言って端っこの小さな扉を開ける…。
「…どうも…閻魔さん。今日は頼まれた殺しのターゲットの指を持ってきたんですけど…」
俺の目の前を素通りした死神は布を全身にまとっていたのでまったく姿が見えなかった。ただ当の本人も俺の存在には気付いていないみたいだ…。
「あ、あのー…死神さん?」
俺が声をかけたとたんビクリと肩が動く…。
ゆっくりとこちらを向く死神と息を呑む俺…。
そこにいたのは白い…白い…白髪の美少女だった。肌は透き通るように白く美しかった。
「う………」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
耳に響く甲高い声。
いつの間にか死神はエンマ様の後ろに隠れていた。
「えっえっ閻魔さん!?なぜこんなところに人間が!?」
死神さんは顔を真っ赤にしていた。
「気にするな和大。こいつは極度の人見知りなんじゃ」
えぇ…人見知りって…叫び散らしてんじゃん…。
「ライトよこいつは岐保 和大悪いやつじゃない」
悪く思われるような見た目か?俺。
「キラー・ライト…」
「よ…よろしく…」
「よろしく…」
よろしくって…鎌構えながら言われてもなぁ…。
「閻魔様…そろそろ…」
「あぁ…」
「?…エンマ様?」
「和大…わしと赤鬼、青鬼とでちと用事があるのじゃ…」
「!?…閻魔さん!?待ってください!」
「大丈夫じゃ死神。和大はそんなに悪いやつではない」
「し…しかし…」
「間違っても殺したりしないようになー」
― ガシャン…
「………………………」
「…………………………………」
まずい…なんか会話しなくては…。
「ラ…ライトさんは死神なんですよね?」
こっくりと頷く。
「し…死神ってどんな仕事なんですか?」
「……人間界の殺し屋とほとんど同じ。生きるために頼まれた殺しを実行する…だけ…」
「へ…へぇ…」
………クソっダメだッこの空気に耐えられないっ!!
「俺、トイレに行ってきますね」
「はぁ…なんで人間なんかが…」
トイレに行ったのもここの空気に耐えかねたからだろう。
…やっぱり私は、恐れられる存在なんだ…。私は…。
「はぁ…帰ろ…」
ここに居たってなにもない用件はすんだんだし…。
「おい…あんた死神なんだってな」
男の声……和大くんではない…?
そっと振り向く。
そこには昨日殺したターゲットがいた。
「どうして…ここに」
ここに居る人間は和大くんだけのはず…。
「知らねぇよ。それより…」
だめだ…足が震えて止まらない。
私は人見知りだ。だから暗殺を得意とする。故に正面衝突のような戦闘は…出来ないどころか…足が動かない。
「どうした?足が震えてるぞ?」
はぁはぁ…。
「俺の殺しは誰に頼まれた!?」
はぁはぁ…。
「黙り込むつもりかよ…」
はぁはぁ…はぁはぁ…。
「しかなねぇ…」
はぁはぁ…はぁはぁ…はぁはぁ…。
痛い…。口から鉄の味がする。
まえの男の姿がぼやけて見えた
何か言っているようだった。
耳鳴りがひどい…。殺し屋か…。
なぜか…私は笑っていた。
……………………………。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ーガツッ
「ライトさん、大丈夫ですか?」
和大くん……。
「…!和大くん後ろ!」
「…え?」
「まったく二人とも馬鹿なマネをしおって」
エンマ様は俺のは背中をペチペチと叩いている。
「あの…エンマ様あの男は?」
「あぁ、あやつならどうやってここまできたのか聞き出した後地獄につき堕としておく」
そのとき扉の奥からライトさんが出てきた。
「エンマさん…ありがとうございました…」
ライトさんはこちらをみて
「か…かかかか和大くん!?」
なんでそんな驚くかなー。
俺そんな影薄いかなー。
「和大くん…その…ありがとう…私を助けてくれて…」
「あぁいいよ。それより怪我はもう大丈夫?」
「うん!」
「そう。ならよかった」
………
「和大少しいいか?」
「ライト…少し」
エンマさんに手招きされる。
「なんですか?エンマさん」
「お主もしや…和大のこと…」
「そ、そそそそそそそんな!?かかかかかかかか和大くんのこと変に意識してるとか…胸が熱くなるとか締め付けられるとかないですから!?」
「やはりなー」
「あ……」
「わしは応援するぞ?お主と和大のこと」
「エンマさん…」
「死神と人間のあいだに子供は生まれるのか…気になるしな」
「エンマさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」