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プリムラ・ストーリー  作者: 榊原啓悠
異界から来た“お姉ちゃん”
3/16

濫觴

「うちゅっ………!?」


「そう、宇宙。……私はね、とある目的のためにこの星にやって来たの。で、その目的の達成のために、あなたに仲間になってもらいたいのよ。まぁその目的については、そのうちってことで」


 あまりにも唐突で常軌を逸した自己紹介に、思わず目眩を覚えて額を抑える。“特別”であることを目指してきた将太をしても、しかしこれはいくらなんでも突飛すぎた。


「ん、大丈夫? 将太くん」

 頭を抱える将太を覗き込むようにして、リナリアが覗き込んでくる。その挙動はまるで子供のようで、見ようによってはとても幼く見える。へたをすれば、将太よりも年下に見えるほどだ。

「あ、まぁ平気、で………」


 だが、違う。

 

 リナリアの瞳が湛えている光は、幼さの対極にあるものだ。


 漆黒の宇宙。ぼんやりと孤独に浮かぶ星々。広大なソラの神秘―――


「………とにかく!」

 これ以上、リナリアの目を見てはいけない。とっさに判断した将太はそっぽを向いて、彼女の顔を視界の外に外した。

「とにかく、あんたが宇宙人っていうのなら何か証拠を見せてくれ!」

「えー? でも、ついさっきまで私の存在をおかしいと思えなかったでしょ?」 

「催眠術でもかけていた、とでも?」

「だいたいそんな感じね」

 だが、それでは不十分だ。人の認識をずらす程度のチャチな手品と“宇宙人”とでは、同じオカルトでも格が違う。将太は視覚化可能なくらいには確かな証拠の提示を求めているのだ。


「うーん、それなら………」

 息をついて右腕を掲げるリナリア。いったい何が起こるのかと、将太は期待とともに掲げられた右手に注視した。

「えいっ」

「うううっわわっわわわわわわッ!?」

 刹那ほどの一瞬、瞬きすら許されぬ程の感覚を挟み―――――リナリアの右腕は一瞬のうちに液状化し、すらりとした細長い刀身のカタチへと再硬化した。


「へ、変形!? いや、変身………!?」

「理解してもらえたかしら? これが私。絶えずその形質を変化させる、“水”そのもの」

 ずるん。と音を立て、刃を手に戻しながら微笑むリナリア。美女に擬態した、異形の正体。


 …………この女は、本当に本当の、宇宙人かもしれない。


 仮にそうでなかったとしても、自分の眼前で一瞬のうちに腕を変形させたのは紛れもない事実だ。


 瞬きを繰り返すこと三度。その度に、目の前で起きた出来事が現実であることが重く心にのしかかってくる。…………この女は、“普通”ではない。


 だが、将太は―――――


「あはっ――――」


 ――――その事実に、歓喜の涙を流していた。


「………何故?」

 尋ねるリナリア。尋ねるまでもなく彼女は全てを理解していたが。だが、それでもリナリアは、この奇妙な少年に問いかけたかったのだ。


「嬉しいんだ。俺、待ってた。ずっと待ってたんだ。この時を、この瞬間を」

「………そう」

 さめざめと涙を零しながら噛み締めるように呟く将太の背中を、リナリアは慈愛に満ちた手つきでそっと撫でた。

「リナリア。俺を仲間にするって、あんたそう言ったよな」

「ええ」

「…………理由があるのなら、教えてくれないか」

 鼻を鳴らしながら尋ねる将太。そのまっすぐな、しかしどこか縋るような瞳に、リナリアは微笑みを以て応えた。

「私が求めていた仲間の条件は、強い“我”を持っていること。何者にも屈しない、傲慢なまでに強烈な“我”。あなたは、私の求めていた理想のパートナーよ」

 言いながら、将太の頬をそっと慈しむように撫でる。流れるような黒髪も、薄手のワンピースを纏ったまばゆいばかりの白い肌も、その何もかもが美しく、将太の目にはまるで女神のようにさえ映っていた。


「俺が、俺だけが、できることがあるんだな」

「あなたにしかできないことがある」

「他でもない俺を、必要としてくれるんだな」

「そうよ」

「…………だったら、理由なんてどうでもいい。あんたの目的が地球侵略だって構わない。俺は今日から、あんたのために生きるよ」


 求めていた“特別”を掴み取った何物にも代えられない充足。そして歓喜。


 振村将太は今、まさに生涯最高の幸福の中にあった。


「…………ありがとう、将太くん。あなたなら、そう言ってくれると信じていたわ」


 窓から差し込む淡い月光が、見つめ合う二人を青白く照らしていた。


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