独白
「おう、オラてめぇ、なにぶつかってんだよ」
「チョーシこいてんじゃねえぞ、ア?」
「あ、おい、俺こいつ知ってる。中学んとき、同じクラスだったんすよ」
「マジかよ、お前こんな陰キャラと同じクラスとかマジ暗い青春だな」
「いや知らねーし! 俺ほっとんど中学行ってねぇから……。っつかぁ、なんつったっけ、お前」
「…………先を急いでるんで」
「アァ? ぶっ殺っぞオラッ」
「ひゃひゃひゃひゃひゃっ! こいつ、一発もらっただけでぶっ倒れるとかマジ弱すぎっしょっ」
「あー思い出した、コイツ『プリムラ』っす。このキモいコケ方見て思い出しましたよ」
「コケ方キモいとかマジウケだろ、どんだけだよこの陰キャ。普通にできねぇのか? オラ!」
振村将太は俗に言う“普通”を毛嫌いしていた。
自分の周りで“普通”と形容されることのほとんどを、忌んでいたといって過言ではない。
愛だの恋だのを歌う流行りの曲は好みではなかったし、有名人のしているような髪型にも、テレビCMに登場するような格好のいい車にも興味が無い。そしてそれらを信奉する同年代の学友たちのことを、将太は馬鹿で、下品で、狡猾で、卑しいとすら感じていた。
「何逃げようとしてんだよオラ! とっととかかって来いよ! カバン捨てちまうぞ!」
「…………っ」
「ひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! 弱っ! こいつ弱っ! 普通こんな足払い避けれんだろ!」
「さっすがプリムラちゃんだなァ!」
振村将太は俗に言う“普通”を毛嫌いしていた。
だから友達なんて欲しくもなかったし、話しかけてくる誰のことも煩わしいと感じていた。彼らはいつでも、身勝手な“普通”という規格に自分という人間を押し込めようとする。
しかし高校生という身分である以上、将太はどんなに望んでも安らかな孤独など手に入らないことも分かっていた。
だから、適当に友達を作って、それらしく笑顔を見せて。もっともらしい冗談を言ったりして、その場をなんとなく盛り上げて………。
「――――うんざりなんだよ。消えてくれ」
振村将太は俗に言う“普通”を毛嫌いしていた。
だからいつだって、どこでだって、彼は“普通”じゃないものを追い求めていた。
「ンだテメェ、消えんのはてめえだろがよォ!!」
「舐めてんのかオラァア!」
暴力の雨。雨粒の如く降り注ぐは、不良たちの拳と脚。昨夜に格闘技の中継があったからだろうか、将太は泥の中に顔を叩きつけられながら、彼らの攻撃に内在する規則性のようなものを感じていた。
或いは、中学の頃の彼なら、この暴力によってもたらされる悔しさと痛みに耐え兼ねて涙を流していたかもしれない。だが、乾きひび割れた今の彼にとって、この交通事故のようなリンチも瑣末事に過ぎなかった。
殴られたって、蹴られたって、罵られたって、泥を食わされたって、擦り付けられたって、焦がされたって、組み伏せられたって、玩具にされたって、そんなもの、俺にはこれっぽっちも関係無い。
周囲からどれだけ忌まれ、隔絶されても、それは“普通”の世界の住人のすることだ。
だって俺は、普通の人間じゃないんだから。