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ある日突然イケメンになった男の話。

俺の名前は、山田一太郎。

今年、高校一年生になったごく普通の男である。

どれぐらい普通かというと、まず顔はフツメンである。

スペック的には、テストも平均点。

何か特別な能力を秘めているわけでもない。

突然美少女に言いよられたりするわけでもない。

何処にでもいるようなありきたりの人間である。


そんな俺に起きた特別なこと、それは恋人が出来たことだ。


彼女は、おとなしいタイプだ。

告白されて付き合い始め、もうすぐ三カ月になる。

優しいところや以外にジェットコースター等の絶叫系が好きなのもわかってきた。

けれど、物足りないのだ。もっと彼女に踏み込みたくて、俺はこんなことを聞いた。


「ねえ、俺に何かして欲しいこととかない?」


「うーん、そうね、もっとかっこよくなってほしいかな。」


かっこよく?

何だそれは、二人とも学生服なので(俺が学ランで彼女がセーラー)

服装に気合を入れるのにも無理がある。

かといって、化粧をするわけにもいかない。

休みの日のデートに頑張るにしても、彼女はチャライ男は苦手だ。


すると、あれか行動がイケメンというやつか?

それは一石二鳥で身につくものじゃないぞ。

結局俺は、一日もんもんと悩むことになった。


あーあー、俺イケメンに生まれればよかったのに。


悩みつかれた俺は、そんなことを考えてベットに入った。


翌朝、いつもどうりの通学路を歩いているとスーツ姿の男が近寄ってきた。

何事かと思う俺に男は言った、


「君、かっこいいいね、モデルにならない?」


それに対する感想は何こいつだった。

俺は、俺の顔面偏差値をよく知っていた。

最近妙な人が多いからなと俺は丁寧にお断りし、登校を急いだ。


がらっと教室を開けると一瞬ぴたりと空気が止まった。

あれ誰?山田君だよ。えー、イケメーン。

そんな声があちこちから聞こえ、俺は驚いたがその時点ではまだ冗談だと思っていたのだった。


それから段々状況は変化していった。

まず、女子からの告白が増えたこと。

それから男子に女に媚を売っているといわれハブられたこと。

だんだん学校に行くことが少なくなり、彼女とは疎遠になったっこと。

実は彼女が、俺が原因でいじめを受けていたこと。

モデルとして、働くようになったこと。

ファンの女の子からプレゼントが来るようになったこと。

最初はうれしかったが徐々に煩わしくなったこと。

手作りのお菓子の中に髪の毛が大量に入っていたことがあって以来、物をもらうのが嫌になったこと。

度重なるストーカー被害にあって女性不審になったこと。

男友達はいたけれど、同業者が多く気を許せなかったこと。


そしてこれだ。


ヌルリ、とした感触があって包丁が抜ける音がした。

「あなたがほかの人のものになるなんて許せない。」

それは女の呪詛すら込めたつぶやきだった。


週刊誌に駆け出しのアイドルとの写真を撮られたのがきっかけだった。

元々、ストーカーじみた危ないファンだったのが、エスカレートしていったのだ。

事務所にはずいぶん心配されたのだったが、ストーカーなんて今まで何人も対処してきたし、

こっちは男だからいざとなれば力で抑えつければいいいなんて楽観的に考えていた。


ぐらりと目が回って、地面に倒れた。

ゆっくり地に伏して、女の泣きじゃくる音が聞こえる。


ああイケメンになりたいとか思わなきゃよかった。


そんなことを考えつつ、俺の意識はブラックアウトした。


目を覚ますと、携帯が鳴るのでとりあえずとった。


「おはよう、山田君」


彼女の声だ。

何だ夢だったのか。

俺はまだ、高校生なんだ。

それを実感し、心底ほっとした。


「おはよう、どうしたの?」


「昨日は変なこと言っちゃてごめんなさい。急に聞かれてなんて言っていいかわからなかったの。

 山田君は、何もしなくても十分かっこいいよ。」


「ありがとう、じゃまた教室で。」


そういうと俺は、そっけなく携帯を切った。

正直なところ、かっこいいなんて言葉一生聞きたくなかった。

どうやら非凡な人生は俺の手に余るらしいい。


俺はごく普通の人生を送ることを鉄よりも硬く決心した。









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