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灰かぶりの毒薬  作者: 青月クロエ
閑話➂
94/110

閑話休題 お見通し

『おはようございます』と店に入ってきた時から違和感があった。


 挨拶の声がごく微妙にだが、張りがない。表情もいささかどんよりしている。

 常に90°の角度を保つ姿勢が80°に下がっている。時間が経つにつれて75°まで下がってしまった。

 たぶん無意識だと思うが、カウンターにさりげなく凭れ始めている。


 他の者ならおそらく気づかないだろう、ささいな違和感。

 うーん……と唸りつつ、シャロンは顎に手を当て、隣に立つグレッチェンを横目で観察していた。


「あの……、さっきから何ですか。私に仰りたいことがあるなら、はっきりと言ってください」


 剣呑な目つきも口調も普段通りでありながら、どことなく覇気がない。そして、顔色の悪さが全てを物語っていた。


「じゃあ、言わせてもらおうか」


 どうせ、口で言うだけじゃ『大丈夫です』『平気です』の一点張りで聞かないだろう。

 ならば――


 グレッチェンの頬をそっと両手で包み込む。触らないでください、と跳ねつけられる前に、薄灰の双眸に怖いくらい真剣な眼差しを向ける。

 案の定、拒絶の言葉を言いかけていた唇が開けては閉じを繰り返した後、固く閉じる。代わりに、青白かった頬に薄く朱が差し込む。


「ひょっとして、例の腹痛で貧血気味なんじゃないか??奥の部屋で休んできなさい」


 う……、と、言葉を詰まらせたところで、「いいね??わかったかね??」と、とどめに一発、にっこり微笑めば、耳まで真っ赤に。元気な状態なら更なる追撃してやりたいが、体調が思わしくないのでこの辺りで留めておこう。


「あ、あの……、わ、わかりました、わかりました、からっ!とりあえず、放してくださいっ」

「ゆっくり休んできなさい。痛みが治まらないようなら帰ってもいい」


 あまりしつこくしては怒らせてしまう。調子が悪い時の怒りは百害あって一利なし。

 潔くパッと手を離せば、よろよろと二、三歩距離を取られたのも想定内だ。


「あの、ありがとう、ございます……」


 微妙に距離を取りつつ、上目遣いでちゃんと礼を言うのがまた可愛いじゃないか。

 つい緩みそうになる頬に力を込め、「ほら、早く奥へ行きなさい」と軽く頭を撫でれば、素直にこくんと頷いてくれるのがまた可愛(以下省略)


「お前らな、客の前でいちゃつくんじゃねぇ」

「?!」


 聞き慣れた、少し嗄れた男の声にグレッチェンの身体が(物理的に)飛び上がった。


「別にいちゃついてない。お前こそ、いつ店に入ってきた??」

「少し前だが??お前らが仕事中なのに二人の世界作って気づかなかっただけだろ」

「あ、わ、私……、奥、行ってきます……」


 二人の応酬をよそに、グレッチェンは逃げるように奥の部屋へ駆け込んでいく。


 その後、シャロンはハルから執拗な揶揄いを受ける羽目に陥ったのだった。

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