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灰かぶりの毒薬  作者: 青月クロエ
Stand My Ground
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Stand My Ground プロローグ

 「純粋無垢な少女だったグレッチェンが、如何にしてクールビューティーへと変貌していったのか」というリクエストを元にしたお話。

 グレッチェンが13歳頃に起きた事件をきっかけに、少しずつ彼女が変わっていく様子を書いていけたらと思います。

 ちなみにプロローグでの年齢は、グレッチェン15歳、シャロン27歳です。

 黒檀で作られた細長いカウンター、その奥には年季の入った焦げ茶色の薬棚が三つ並んでいる。

 カウンターの中では、この薬屋の店主シャロンが、「おはようございます、シャロンさん。今日からよろしくお願いします」と、一礼しながら丁寧に挨拶を述べるグレッチェンを見て、口をあんぐりと大きく開けてその場で固まっていた。


 それもその筈、腰までの長さを誇っていた、グレッチェンの艶を持つアッシュブロンドの髪が男性のごとく短く切られていたからだ。

 しかも、髪型だけでなく服装までも、白いワイシャツにサスペンダー付の黒いズボンと、一見して小柄な少年と見紛う姿へと変貌してしまっている。


「……グ、グレッチェン……、君……、その姿は……」

 珍しく狼狽するシャロンなど意に介さず、顔を上げたグレッチェンは理知的な瞳で彼を真っ直ぐ見上げた。

「……あぁ、これですか??働くには長すぎるので、朝一番に床屋で切ってきたのです。理髪師の方から、本当にいいのか、と、何度も何度もしつこく念を押されましたが……」

 きっと理髪師は泣く泣く仕方なしに、彼女の美しい髪に鋏を入れたに違いない。

 シャロンは見知らぬ理髪師に、少なからず同情の念を抱いた。

「髪もだが……、何故、服装まで男の格好を……」

「この方が動きやすいかと思いまして」

「……ここの仕事はそんな重労働では……」

「私自身がこれで良いと思ったのです」


 何か問題でも??と問うグレッチェンに、最早シャロンは返す言葉が見つからない。

 さりげなく壁時計に視線を移せば、開店時間の午後十二時まで三十分もない。

 不毛な問答を繰り返したところで時間が無駄に過ぎるだけである。

 シャロンは、自身の複雑極まる心の内は一旦横へ置いておくことにした。

「む……、そうか……。しかし、随分と思い切ったものだなぁ……」

 シャロンは、グレッチェンの柔らかい毛先をほんの一束、そっと指で撮んでみせる。


「シャロンさん、気安く触らないで下さい。今日から、貴方と私は薬屋の店主と店員という関係なのですから、節度ある態度を心掛けて欲しいと思います」


 たちまち、グレッチェンから突き放した冷たい視線と言葉を投げ掛けられ、シャロンはすぐさま手を引っ込めると同時に、再び言葉を失う。


『十五歳を迎えたら――、薬屋で働かせて欲しいし、一人暮らしをさせて欲しい』


 当初はシャロンや、シャロンの母マクレガー夫人は猛反対したものの、頑として主張を曲げないグレッチェンに折れる形で渋々許可を下したのだが――


(……何も、ここまで極端な程、他人行儀にならなくてもいいじゃないか……)

 これも彼女がまた一つ成長した証拠なのだろうが……、シャロンの胸には一抹の寂しさが去来する。

 密かに落ち込むシャロンを尻目に、グレッチェンは玄関近くに置かれている『薬屋マクレガー』の立て看板を両手で抱え上げている。

「シャロンさん、この立て看板はもう外へ出しておいてもよろしいですか??」

「…………いや、看板は開店一〇分前に出すことになっているから、まだ出さなくてもいい…………」

「では、他に何か仕事はありますか??」

「そうだな……。では、室内と外の玄関回りの簡単な掃き掃除でもやってもらおうか」

「分かりました。確か、掃除道具は奥の部屋に置いてありましたよね??取ってきます」

 カウンターの奥の部屋へ、掃除道具を取りに入っていくグレッチェンの痩せた背中を見送りながら、シャロンは軽く肩で息をついてみせる。

 まだまだ頼りなげな子供だと思っていたのに、いつの間にかしっかりと自立した大人の女性へと変わりつつあることを、今更ながら気付く。


『早く大人になりたいです。そうすれば、シャロンさんが私に気を遣う余りに嘘をつかなくても良くなります。何よりも……、私はシャロンさんのお役に立てる人間になりたいんです!!』


 あの時、泣きそうな顔でこの腕に縋りついて叫んだ少女とは、とても同一人物に見えない。

 それだけ、あの事件がグレッチェンに及ぼした影響は大きかったのかもしれない。


「……実に皮肉なものだよ。お前の身に振りかかった悲劇が、図らずも実年齢よりもずっと幼かった少女を一気に大人にさせるとはな……。……なぁ、ハル??」


 ハル本人を目の前にしたら、口が裂けても決して言ってはならない台詞なのは承知しているし、言うつもりなど毛頭なかった。

 だが、周りに誰もいないのをいいことに、シャロンはつい独りごちてしまったのだった。

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