第一話 メール
蝉の鳴き声が鬱陶しく感じ始めた初夏。
日本の夏特有の蒸し暑さに、今年もこの季節が来たと顔をしかめながら朝の国道を歩いている高校生がいた。
周りの同年代の者たちは夏が来ると言うだけで最近騒がしくなってきているが、この少年はその者たちを一歩引いた場所から見つめていた。
どこか同年代の者たちより冷めた、落ち着いた印象を与える少年の名前は『如月 悠斗』。
常に学力テストなどでも日本国内でトップクラスの頭脳を持つ少年である。
その明晰な頭脳からか、周りをどこか冷めた目で見ていた。
そろそろ校門に近づいてきたというときに、後ろから悠斗を呼ぶ声が彼の耳に入った。
「おはよう、悠斗」
少し面倒くさそうにそうに悠斗は振り返った。
そこにいたのは、悠斗にとって唯一の幼馴染である『北野 美紀』であった。
「おはよ」
悠斗は心底面倒くさそうに(と言ってもしっかりと返答しているのだが)美紀に顔を向けた。
「相変わらず朝から暗いね」
美紀は微笑みながら悠斗に追いつくと、歩幅を合わせて悠斗の隣を歩き出す。
悠斗も、それが当たり前のように二人で校門へと向かう。
「お前は相変わらず朝から元気だな」
悠斗は皮肉を込めて言ったようだが美紀はそれが取り柄だからと微笑んでいた。
どうやら悠斗皮肉が通用してないのに呆れながらも、そういえばまともに通用したことがなかったなと記憶を探っていたら、知らず知らずの内に悠斗の口元は緩んでいた。
そんないきなり笑い出した悠斗を見て、美紀はその大きな瞳をさらに開いて悠斗を見つめる。
「なんだよ」
さすがに美紀からの視線に気づいた悠斗が顔をしかめて口を開いた。
「だって。やっぱりなんでもない」
美紀はそう含み笑いをすると、校門へと走って行った。
「なんなんだよ」
悠斗は一人不機嫌そうに呟いていると、校門の前で美紀が悠斗にあと少しで予鈴が鳴ることを大声で伝えてきた。
自分に集まる視線に不機嫌そうに舌打ちをすると悠斗は校門へと走るのだった。
チャイムがなると同時に生徒たちは食堂へと向かう者や、机同士をくっつける者たちで騒がしくなった。
黒板に書かれた注意書きをノートに書くと、悠斗は携帯をとりだしメールの確認をしだした。
ほとんどが迷惑メールであったが、一つのメールが目に止まった。
件名 ESPメール
本文 初めまして。
私どもは、日本超能力研究機関と申します。
このメールが届いたあなたは、ハンターとして選ばれました。
ハンターとして超能力者をあなたも退治しませんか?
というメールである。
またくだらない事をする人達が居るもんだと鼻で笑いながらも、悠斗はその文面を何度も読み返していた。
さて、昼飯にしようかと携帯を閉じるが何故かメールの内容が頭から離れない。
もう一度携帯へと手を伸ばしたときに、誰かに話しかけられた・
顔を上げるとそこには笑顔で弁当を持ち、前の席の椅子に座り対面する美紀がいた。
「いっしょにご飯たべよ」
毎日の事ながらこいつは(・・・)と思いながらも悠斗は無言で開きかけた携帯をポケットに入れて、弁当箱を取り出す。
まあ、いつでもメールなんて見れるかと考える。
それよりも今は、幼稚園のころから自分から離れないこいつをどうにかせねば。
と考えながら悠斗は昼食を食べていた。
日の出ている時間がどんどん長くなってきたと思いながら、悠斗は帰宅をしていた。
隣にはもちろん美紀がいる。
これだけ一緒に行動していると嫌でも噂が立つ。
別に付き合っている訳ではなく只の幼馴染だとそのたびに言うのだが、如何せんこれだけ一緒にいるとこの年代の者たちは聞き入れてくれないのだ。
やはり美紀も年頃の女の子ということもありこういう噂は嫌だろうと思い、美紀にこのことについて聞いてみたのだが、曖昧な笑みを浮かべて話を毎回逸らすのである。
最近は美紀も触れて欲しくない事だと思い、この事については話していない。
ふと、最近はこいつの事ばかり考えているなと思うと少し可笑しくなった。
「今日はどこかよっていかない?」
急に話しかけられたため驚いたが、何時もどうりの無表情で美紀へと顔を向けた。
「悪いが今日は疲れたから、真っ直ぐ帰るよ」
悠斗がそう答えると美紀は残念そうにそっかと呟いた。
「また暇なときに・・・な?」
さすがにいたたまれなくなった悠斗は慌てて取り繕うと。
「うん!」
すごい勢いでこちらを向いた美紀は夏にふさわしい向日葵のような笑顔を見せた。
悠斗は夕日に照らされたその笑顔が頭から離れずにいた。
「じゃ、ここで・・・」
いつも別れる場所で美紀は一度悠斗に振り返り手を振りながら走っていった。
美紀の後ろ姿が見えなくなると、悠斗も自らの家へと足を進めた。