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三番目の花嫁  作者: 天嶺 優香
番外編
33/34

親子初心者なふたり

 マーヤはここ数ヶ月の妙な家庭の空気をどうにか解消したいと願っていた。

 アスランがサーハルジアの王としてマーヤと別れて、四年。彼は一通りの国の問題点を解決し、さらに今後注意すべき事項を書き綴り、甥に任せて王の座を降りてきた。護衛も付けず自分の身一人で海を渡り、マーヤが身を寄せているコムルの商団と連絡を取り、ここまでやってきた。

 そしてマーヤが苦労して産んで育てているアスランの息子のアヤンとも会わせる事ができめでたく幸せに──とはいかなかった。

 否、幸せでないわけではないが。この微妙な空気をなんとかしたい。

「ア……アスラン、こっちに来てちょっと手伝ってくれる?」

 見かねたマーヤが声をかけると、のっそりとアスランが地面から立ち上がった。少しおぼつかない足取りでマーヤの側までやってくるが、その視線は家の外で久しぶりに家にやってきたコムルと遊ぶアヤンに注がれている。

「俺は父親なのに……」

 マーヤの悩みは、父であるアスランと、その息子のアヤンの関係だ。

 マーヤに対してアヤンは「お母さん」と呼ぶが、アスランの事はいまだ呼んだ事がない。ならばどうやって二人は会話をするのかと言うと、アヤンはいっきなりアスランの方へ顔を向けて「お母さんが呼んでる」という感じだ。

 お父さんとも呼ばなければアスランと名前で呼ぶ事もない。

 おまけに数日前から家に滞在をはじめたコムルは昔からアヤンも知っているので、そちらにばかり行って懐いてしまっている。

 息子との埋まらない距離に、さすがの元王様もお手上げらしい。

「子供と接した事なんて確かにこれまでの人生なかったけど……まさか自分の子供に手こずるなんて」

「生まれてから一度も会った事が無いのに突然現れて父親ですって言われてもすぐ受け入れられないでしょ」

 マーヤが取りなすが、アスランはすっかり落ち込んでいる。無駄に整っている顔をしているせいで、やつれ具合がわかりやすい。

「アヤンもびっくりしてるだけだと思うから」

 と、マーヤは言ってみるが、この言葉を言い続けてそろそろ一ヶ月以上経った。アヤンはただ驚いているだけではないとマーヤにもわかってはいるが、できれば自然に父子で解決させたかったが、アスランの様子からもうそれも諦めるしかない。

「じゃあ私がアヤンと話すから。ひとまずあなたは向こうにあるコムル様の荷物を片付けて」

 わかった、と気の抜けた返事をして家を出て行ったアスランの背を見送ったマーヤは、家の入口付近に座り込んでコムルとなにやら指を使って遊んでいるアヤンを呼んだ。

「アヤン、水汲みに行くよ」

 マーヤがそう言えばアヤンは顔を嫌そうにしかめながらも渋々立ち上がり、桶を持った。コムルに出かける事を言ってアヤンと二人家を出ると、丁度外でアスランがコムルの馬から荷解きをしているのが見える。

 そのまま井戸に二人で歩きながら、アヤンへ視線を向けて問いかけた。

「ねえ、どうしてお父さんと遊ばないの?」

 コムルとばかり遊んで、アスランを避けている事を指して言えば、アヤンは俯いてしまった。年の割にはかしこい子供だと思っているが、やはり子供には違いない。話したくない事を無理に聞こうとすればむきになるかもしれない。

 マーヤは独り言を言うような口調でアスランについて話し始める。

「あなたのお父さんはね、サーハルジアではとっても偉い貴族様だったのよ。私とは身分が違いすぎるし、そもそも商人としてやっていきたかったから、私のわがままで別れたの」

「さよならして寂しくなかった?」

 アヤンがぽつりと零した。マーヤは笑みをつくり、アヤンの頭を撫でる。

「寂しかったけど、私にはアヤンがいたもの。でも、お父さんには誰もいなかったのよね。それも四年間も」

 アスランは最後まで同性愛者として嘘を突き通した。もちろんそれは彼の二人いる妻とも距離を取るためだろうが、彼の隣で支えてくれる存在がいないというのは、どれだけ寂しい事だろうか。

「アヤンはお父さんがいなくて寂しくなかった?」

「……寂しかったよ。周りに僕だけいないんだ」

 アヤンがマーヤの服の袖をぎゅっと掴んだ。頭をこちらに寄せ、遠くを見つめている。争いにはほど遠い暢気な田舎では、父親を失う子供が少ない。程よく栄え、程よく貧しいこの村は、平和そのものだ。

 だからこそ、一人親であるアヤンが浮いてしまっていたのだろう。

「お父さんはとても寂しがり屋だから、アヤンがもっと近づけば大喜びするわよ」

「……お父さんって急に呼んだら変じゃない?」

 アヤンは唐突にそんな事を聞いてきた。一瞬マーヤはぽかんとしてしまう。その様子を察したアヤンは困ったような顔で更に言葉を続けた。

「だって、父親ってお腹痛めてないから愛情薄いんでしょ? 四年間も離れてたのにいきなりお母さんの側にいる知らない子供がお父さんなんて呼んだら……」

「アヤン、帰ったらすぐにお父さんって呼んであげなさい」

 マーヤはアヤンの言葉を遮るように言った。父親がお腹痛めていないどうのって言うのはおそらく近所の子供に悪い知恵をつけられたのだろう。

 アヤンが帰ってもじもじしながらアスランに「お父さん」と言えば全てが解決していくだろう。

 マーヤは親子初心者な自分の夫と息子を微笑ましく思った。

遅がけですが30万アクセス超えに感謝を込めて。それと最近少しずつアクセス数をもらっているので。

ありがとうございます^^

近々もう一話書き上げます。

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