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三番目の花嫁  作者: 天嶺 優香
六、少女と王様
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2


 静寂が二人を包む。アスランは一言も話さず、ただじっとマーヤを見つめたまま。

 マーヤも目をそらすわけにはいかず、お互いに視線を交差させ続けた。その瞳の奥の──マーヤの青い瞳の奥に真意を見つけようとしているのだろう。

 そして、彼の鳶色の瞳が力強い炎を帯びたように見え、それが一体何を意味するのかマーヤも探るようにじっと注視していると、彼は唐突に言い放った。

「駄目だ」

「……アスラン?」

 頬に触れていた彼の手はいつの間にかマーヤの腕をしっかりと痛いほど掴んでいた。

「結婚できない? どうして?」

「あたし、夢を諦めたくないの。ごめんなさい。でも、あなたのこと……」

 好きなの。そう続けようとしたが、そのマーヤの身勝手な言葉を察したのか、強く腕を掴まれ、そのまま引っ張られる。力強い腕に腰ごと持ち上げられ──気づいたら彼に担がれていた。

「アスラン!?」

 まるで荷物のように担がれ、そのまま立ち上がられてしまえば目線が高くなって怖くなり動けなくなった。

 肩に担がれては彼の顔が見えない。なぜ、が頭の中でぐるぐる回っていて、彼の顔も見えないとなると不安がより増した。

 アスランは一言も言葉を発さず、すたすたとマーヤの店を出て、乗って来たのだろう輿にマーヤを放り込んだ。

 柔らかいクッションの上に倒れ、埋もれる。慌ててクッションの山から顔を出して輿の外で立っている彼を見上げて、息を飲む。

 アスランは端正な顔を歪めて笑っていた。悲しそうに嬉しそうに、なんとも表現しずらい表情で笑う彼に、文句を言う口が動かなくなる。

「俺の元を離れるのか、マーヤ」

 そんなの、と彼が言葉を続ける。

 どこか甘く、辛く、絡めるように。

「──許さない」


 それからの記憶はどこか朧げで、輿に揺られて自分の屋敷へ連れて行かれた。

 驚く様子のない父親からして、アスランがどういう行動を取るか予想がついていたのか、それともマーヤが断った時の話を以前にされていたのか。

 よくわからないが自分の屋敷の自室へ強制送還され、事実上軟禁された。屋敷の外へ出るのを許されず、店のこともジーナに任せきりになってしまった。

 アスランは店で別れたきり顔も見せず、マーヤが数日屋敷で過ごしていても顔を見せに来ない。

 ジーナも店で忙しいのか屋敷に来ないので、古い頃から働く使用人や父親としか話さないし、会わない。話を聞こうにも使用人が事情を知るはずもなく、唯一知っているのは父親くらいだが、完璧に黙秘を決め込んでいる。

「いつまでこうしていなきゃならないの?」

 痺れを切らして夕食の際に父親に尋ねるが、飄々とした顔してやはり何も言ってくれない。

「もう六日よ? いつまでこうなの? あの人はどうしたいの?」

 無駄だとわかっても質問を重ねるが、どれにも答えが返ってくることはない。アスランも父親のサフスも、二人ともマーヤの意見を尊重するとか言っておいて、この仕打ちは一体なんなのだ。

──それとも、やはりマーヤの考えが甘かったのだろうか。

 王の結婚を断ることなど最初から出来ず、ただマーヤがこうして諦めるのを待っているのだろうか。マーヤ自身に無駄だとわからせるために。

 知らず食事の手が止まると、父親がこちらに視線を向けた。

「体調が優れないのか?」

 妊娠の事などすでにお見通しの父親はマーヤの食が細い事を心配して問う。しかし今回食欲がないのは妊娠のせいなどではない。ただ単にこの意味のわからない状況に混乱しているせいだ。

 許さない、と言った彼の瞳が忘れられない。嫌われたのだろうか。

 軟禁しておくと言うことは嫌われてはいないかもしれないが、彼の豹変ぶりから察するに、マーヤに何かしらの負の感情を持っているはずで──。

 それを考えたら胸がきりきりと痛んだ。

 違う。自分は嫌われたくてあんな言葉を口にした訳じゃない。

 アスランと別れて異国へ旅立つと決めたマーヤが、彼に嫌われたくないなんて虫のよすぎる話だ。

 だけど、アスランを嫌っているわけではないし、彼と結婚したくないわけではない。

 むしろ、今の感情だけで全てを決められるならマーヤは全く別の道──アスランとの結婚を喜んで選んだはずだ。

「……ごめんなさい、やはりいらないわ」

 スープだけ飲んで席を立つマーヤを、サフスは驚いたように顔を上げてこちらを見つめる。

「別に体調が優れないわけじゃないの。ただちょっと、まだ動揺が収まらないだけ」

誤解を与えないようにそれだけ伝えて、マーヤは自室へ戻った。

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