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三番目の花嫁  作者: 天嶺 優香
三、日常の攻防
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※主人公がネガティブ思考に陥るため、注意。

 ごろごろ、と真っ黒の空が唸る。

 もう太陽も沈みかけ、気温が下がって寒くなってきた時に不穏な天気がやってきたのだ。

 ぽつりぽつりと雨が降ってきたと思っていたら、いきなり大粒の雨が降り出した。

「雷も落ちそうね。ジーナ、皆に仕事を切り上げて帰らせてちょうだい」

 後ろで帳簿整理をしていたジーナがすぐに返事をして立ち去ろうとする。

「あ、ジーナも先に帰って」

「お嬢様だけ残せません」

「いいの。今日は一人でやらなきゃならない事があるから」

 命令してジーナを従わせる。こんな所に残って仕事をするのはマーヤだけでいい。雷雨だろうと台風だろうと、店主は最後まで店番をしてなくてはいけない。

「……わかりました。危ないですから店の外には出ないで下さいよ」

「わかったわ」

 返事をすると、ジーナはしぶしぶ部屋を出て行った。彼女の足音が聞こえなくなって、ソファに横たわる。

 考えなくてはならない事が山ほどあった。

 取り替え事件から店の経営やら、明日の商売の事まで。誰にどういう事をしてもらおうか考えていく。

「私が奥で接客してる時はタガとジーナに見てもらって、セタには在庫管理と荷物運びをまかせて、ミアにも接客をしてもらって、それからアスランには………」

 思わず名前を口にして、後悔した。

 もう来ないのだから彼の事は考えてはいけない。

──もしかしたら明日不敬罪で捕まるかもしれないし。

 いいな、ってほんの少しだけ、ちょっとだけ思ってた。ミアがあんまりはしゃぐから同調したのかもしれない。なんとなく、気になっていたのに。

──まさか婚約者だなんて。

 しかも最低の。きっと二人の妃が自分をイジメていても知らん顔するはず。

 だって、誰だろうと、彼には興味がない事なのだから。

 頭の中がぐるぐるして、全然すっきりしない。考えれば考えるほど惨めになっていく気がして、そんな弱い自分に苛々する。

 ソファに寝込んだままクッションを抱きかかえた。

 結局の所、破談になるのだから意味はない。考えても明日兵士がきっとマーヤを向かえにくる。

 絶対に刃向かってはならない相手に暴言を吐いたのだから。

 ヴェールを外しているせいか、自分の金髪を間近に見て少し眩しく思った。

──いつもは隠しているこの髪を見たら、あの王様はどんな顔をするだろうか。顔をしかめて首をはねろと命令するのかも。王様なんて皆そんなもの。

 マーヤは、もうアスランが金髪を知っている事も忘れていた。雷雨のせいでネガティブになっていくにつれて、感覚もふわふわしていく。

 真面目に考えているつもりが、変な方へ行ってしまう。

 それが眠気からきている事に気づかず、マーヤはそのまま眠った。

 

 異国人であったが、母は髪が黒かった。けれど、生まれた子供は先祖返りで髪が金色。

 金で結婚した女から生まれた子供は髪までその汚い心が移っている。

 そんな陰口を誰もが言う。

 黒い髪しかないこの国で、金という色は異形すぎたのだ。

──お前を見ていると、優しい私のお婆さまを思い出すわ。

 いつも、優しい言葉を言ってくれる。母から、優しさ以外の心を感じた事は一度もない。

 マーヤが金髪を嫌いにならなかったのは、母がいつも褒めてくれたおかげだ。

 母の声が、大好きだった。

    ***

 遠くで鳥の鳴く声が聞こえて、目を覚ます。

 昨日の雷雨なんてかけらもない、清々しい朝だ。窓から眩しい光が部屋に差し込んでいる。

 ゆっくりと重い瞼を開けて、自分が店でそのまま寝ていた事に気がついた。

 帳簿整理の続きをするつもりが、睡魔に負けて寝むるなんて情けない。

 苛立ちにまかせて起き上がると、ぱさりと何かが床に落ちた。見れば誰かの上着だ。

 なぜ上着が?

 不思議に思いながらそれを広い、隣の部屋から物音が聞こえる事に気がついた。

 セタが朝の掃除をしに来たのだろうか。

 首を傾げて音が聞こえる方へ足を動かし、そこにいる男に、マーヤは目を見張った。

「アスラン……?」

 思わず名前が口からこぼれた。呼ばれて彼は荷物整理の手を取め、マーヤを見て笑った。

「おはよう」

「おはよう。……じゃなくて、なんであなたがいるの? 帰ったんじゃないの?」

 朝の挨拶なんてしている場合ではない。彼は自分が王だと言った。それなのになぜここにまだいるのか。

「もしかして」

──あれは夢?

 彼が王様だという夢を見ていたのだろうか。

「夢であってほしかった?」

 あれは夢かもしれない、と自分に言い聞かせていたマーヤは、困った様にそう言うアスランの言葉に、再び目を見張った。

「じゃあ……?」

「昨日話した通り。俺は王様で、どうやら君の婚約者みたいだね」

 肩をすくめながら、首にかかった金のネックレスを指に引っ掛けてマーヤに見せてきた。

 ネックレストップには王家の紋章が刻まれたメダルがつけられていた。

 王族しか持ちえないそれを見て、マーヤは肩を落とす。

「本当に本当に、王様なのね」

「残念ながら」

「じゃあどうして戻ってきたの? 私を捕まえに?」

 マーヤが昨日どれだけの無礼をしたか、彼もわかっているはずだ。このまま連行されるのか、と顔色を悪くさせていると、彼はため息を吐いた。

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