第二章 #8【アリアの暴走】
最近ネタ探しに明け暮れている氷雨です・・・
しかし、こんなところで負けられません!!(まだ二章だし・・・)
更新が遅れがちになってますが、ご了承下さい。
では、本編をどうぞ♪
#8【アリアの暴走】
「な・・・」
俺は目の前にいる‘俺’の姿を見て、呆然としていた。服装は今日の俺の服装だった。
「私です。アリアですよ」
そう語る‘俺’。
え・・・そうなのか?
「はい。私は魔術で構成され実体化した存在ですから、どんな姿でもとれるのですよ」
ドッペルゲンガーかと思ったぜ・・・
あ、でも今の俺の姿は‘俺’ではないから関係ないか。
「そうです。もう一人の自分を見たらお嬢様が死ぬとか、そういうことはないのですよ。心配性ですね、お嬢様♪」
俺って心配性なのか?というか、
「‘俺’の声で私とかお嬢様とか言うな。まるで俺が執事にでもなったようじゃないか」
「お嬢様、お呼びでしょうか」
そう言ったアリアは右腕を前に出し、お辞儀した。
「執事するな!!」
「てへっ♪」
「‘俺’の姿で可愛子ぶるな!!」
コツンと頭を叩いて可愛子ぶる‘俺’の姿に、恐怖を感じた。
こいつを悪乗りさせたらエラいことになりそうだな・・・
今のままのアリアに俺の役をさせるのはマズい。
とりあえず俺のアイデンティティが崩壊する前に(既に亀裂が入っているが)、俺はアリアに‘俺’の姿を止めさせた。
「ぶーっ。面白かったのに~」
こいつ、性格悪いな・・・
というか、精神年齢低くないか。
まあそれでも主である俺の命令には逆らえないらしい。
それが唯一の救いだ。
「まあ、アリアにまかせれば、この5日間は何とかなりそうだな」
「?・・・よくわかりませんが、お嬢様のサポートはおまかせくださいね」
ま、今日中に‘俺’の普段の口調などをアリアに教え込まなければ・・・
「あ、その点は大丈夫ですよ~。私はお嬢様と思考や意識を共有する方法があるのです」
「‘意識’も?初耳だし、それってどういうことが出来るんだ?」
「はい。では実際にやってみましょう。片目を瞑ってみてください」
「お、おう」
アリアの言われたとおりに左目を閉じてみた。すると、目を閉じたはずなのにそこには別の風景が映っていた。
「こ、これは」
「はい。今、私が見ている左目の風景です」
すごく変な感じ・・・
だって右目はアリア、左目はアリアを見ている俺が映っているのだ。左右の目が別々の風景を移しているなんて、こんなことは普通ありえないからな。
「分かりましたか」というアリアの声と同時に左目の別風景はフッと見えなくなった。
「つまり、私の五感をお嬢様は共有出来るのです」
「そういえば、俺が気を失っている間も、これと同じ原理を使ったのか」
確か、それで気絶状態の俺の体を動かすことが出来たのか。
「いいえ、あれは‘ユニゾン’と呼ばれる、互いの意識を“完全に”共有させる高度な術です。というのも互いに絶対的な信頼がなければ使用できませんから。というよりもあの時、あの状況で‘ユニゾン’を起動出来たのが不思議なのですが・・・」
「え?アリアが自分から‘ユニゾン’を起動したんじゃないのか」
「はい。確かに緊急措置として‘ユニゾン’を起動しましたが、それが出来たのは気絶状態であるにもかかわらず、‘ユニゾン’が可能な状態にあったからです」
つまり、始めから俺は無意識のうちにアリアに絶対的な信頼を寄せていたというのだろうか?
もちろん、今は俺の命を助けてくれた彼女を信頼しているが、あの時は意識がなかったはず。
自分で自分が分からなくなった・・・
・・・まあ、とにかくだ。
「そのことは俺にも分からないから今はいいとして、つまり学校へ行っている間、‘俺’の姿になっているアリアと意識を共有して動けば、問題ないというわけだな」
「はい。ただし、五体感覚を共有させている間、お嬢様は動くことが出来ません」
つまり、無防備になるってわけね。
「まあ、授業中とかはボロが出ないと思うし、オレをよく知っている奴らの前だけでいいかも。後は適当に行動してくれれば問題ないよ」
「分かりました。あ、あとそれについてもう一つ・・・」
・・・なるほど。
俺はもう一つ問題が増えたことに、溜め息を溜め息を吐いた。
§ §
「さて・・・まさかこんな近くにいたとはね」
私達が探し求めていた人物。それはついさっきまで側にいた、白銀の髪の少女のこと。
アパートの前でリーザを待っていた私は、溜め息を吐きつつ、実は探していた人物が目と鼻の先にある道場のある家に住んでいたという事実を、私はまだ信じられないでいた。というか信じたくなかった。
あれだけ苦労したのに・・・
「支度できました」
そう言って部屋からポニーテールを揺らしながら急いで出て来たリーザを見て、まあ、彼女が無事だったからいいか、という気持ちになった。
結局、私達は彼女の部屋から出たところで転移魔法を使った。
まあ転移先は部屋から見えた玄関先の、丁度いろいろな物で身を隠せそうな一角を見つけ、そこに転移しただけだが。
そして外に出ると見覚えのある通りだな~と思って歩いて3分、驚いたことに私達が滞在しているアパートの前に着いていたのだ。
それから数分後、いきなりあの‘インテリジェント・ハーツ’の彼女からの思念通話があり、[主が目を覚まされたら連絡します]と言うので、私達は戦闘で汚れたり破れたりしている服を着替えたりとにかく戦闘での疲れをとるために仮眠を取ったりした。
そしてついさっき再び呼び出されたのだ。
少し口調が違ったのが気になったが。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい」
私達はそう言って、再び彼女に会うためアパートを出た。
§ §
「えっと・・・つまり、俺が守ろうとした2人の女の子がまた家に来ると」
「はい、その通りです♪」
「何よりもそれを先に言え~~っ!!」
ただでさえ問題が山積みなのに、これ以上俺にどうしろと!?
まあ幸い、じいちゃんは町内会とやらで家を出ていて、夜まで帰ってこないし、今は家に誰もいないが。
「なるようになりますよ」
「そんなこと言っているのはこの口か、あん」
「いはいれふ~ひっはらはいへふははい~っ」
「うっ!!!」
楽観的なアリアに苛立った俺は、彼女に近付いて彼女のの顔に手が届くように背伸びしながら彼女の頬を両手で軽く引っ張った。人間に近い存在として実体化しているためか、頬を引っ張られる痛さは感じるらしい。
だが、両手をブンブン縦に振る彼女の仕草を見て、可愛さのあまりすぐに手を離してしまった。
いやはや、なんて攻撃だ・・・
「ま、まあ、こんなことしている場合じゃないし」
アリアから視線を外し、恥ずかしそうに頬を掻いていると、
「お嬢様、可愛いっ!!!」
ムギュッ
また抱きつかれた。
顔をアリアの胸に押しつけられて苦しい・・・
「(モゴモゴ)は~な~せ~っ!!」
「いやです♪」
あれ・・・?放してくれない!主の命令は絶対じゃないのか!?
「“は~な~せ~っ!!”は“放して欲しくない”の意味ですよね~?」
どこの辞書だそれは!?
「自伝です♪」
誰かこいつを止めてくれ~っ!
ガチャッ
あっ
「ど、どなた?」
そう言って部屋に入って来たのは赤髪、灼眼の女の子と黒髪、黒い瞳の女の子だった。
「‘インテリジェント・ハーツ’の‘アリア’で~す♪」
アホな感じで答えるアリア。
「え~っと、芹沢直人です」
ようやくアリアの腕から解放され、俺も自己紹介した。
「ナオト・・・やっぱりあなた、ナオトだったのね」
そういえば、赤髪の方の彼女は男の時の俺を知っているんだっけ。
と思ったら、いきなり頭を下げられた。
「本当にごめんなさいっ!!」
いや、いきなり謝られても・・・
後ろの彼女もオロオロしてるし・・・
「と、とにかく、頭を上げてくれないか?」
「いいえっ!私があなたを巻き込んでしまったせいで・・・」
「いやいや、あれは俺が勝手にやったことだし」
少しだけ顔を上げてこちらを見るフィレス。
そんな目をうるうるさせてこっちを見つめないでくださいっ!
「え~と、フィレス様?どういうことで?」
後ろの彼女はどうやら状況を把握していないようだ。
「まあとにかく、話をしましょう」
とりあえず状況を把握していない黒髪の彼女のためにも、俺は覚えている範囲で話をし、彼女達も自己紹介や何者なのかも話してもらった。
―「私からもお礼を言わせてくださいっ!!フィレス様や私を助けてくださってありがとうございます!!」
話を聞いて、リーザもようやく状況を理解したようだ。
「いや、困っている人を助けるのが俺のポリシーだし」
「結果的には私ががんばったんですけどね~♪」
アリア、お前は黙ってろ。
アリアは俺の心を読みとったのか、シュンとしていた。
「とにかく、つまりフィレスさん達は俺を探しにこの世界とは異なる世界から来たと」
赤髪の少女の名はフィレス、黒髪の少女の名はリーザであることを教えてもらった俺は、とりあえず元の‘俺’より年上(一つ上なだけだけど)だそうなので、俺はさん付けで呼ぶことにした。
今はフィレスも落ち着いて、話しをするために丸机と座布団を出し、台所からお茶やお菓子を失敬してきた。
てか、アリアは遠慮しろよ・・・さっきから煎餅をボリボリ食い散らかしているの、お前だけだぞ。
「私の仕様です♪」、うるせえ。
「はい。それで、私は・・・いえ、私達はあなたの力を借りたいのです」
「力?力なんか持って無いけど」
剣についてはそこそこの実力はあるが、それでもこの体になってから抱きつくアリアを振り切ることさえ出来なくなっている程、非力な体である。
つまり今はその剣さえ奮えない・・・
「見事に‘使徒’を退いたのではないですか」
そう言うがな、リーザ。
「いや、だからあれはアリアの力だ。今の俺には・・・」
「お嬢様は魔術を使えるではありませんか」
??
突然喋り出すと思ったら訳の分からんことを・・・
「魔術?そりゃあ今の俺には魔力は在るのは知っているけど、魔術ってのは個々の術について学ばなければならないんだろ?そんなの、初心者の俺に魔術なんか」
「では‘捕縛魔術’を使ってみてください」
なっ、アリアは何を・・・
「私の言葉を繰り返してください、‘鎖状捕縛’」
その‘言葉’を聞いた瞬間、いつの間にか頭の中にあった‘鎖状捕縛’についての魔術が引き出され、自然と起動する体勢に入った。
「‘鎖状捕縛’」
「きゃっ!!?」
「えっ!!?」
自然と口から出た‘言葉’と同時に、目の前に座っていたアリア、リーザの体は、床から現れた無数の鎖によって拘束された。
しかも、なんかエロい縛り方で。
「ちょ・・・ふぁっ・・・はなし・・・ひゃんっ」
「とけ・・・んんっ」
「なっ!?///」
「成功ですね!ぐふふふふっ」
何だこの空間は!!?
フィレスやリーザが頬を赤く染めて甘美な声を上げているっ!
その原因は、本来の‘鎖状捕縛’ではなく、鎖が生き物のようにうねうね動いていることだろう。
これは、俺の魔術にさらに何かの魔術がかかっているな!!
そうなると犯人は・・・
「アリア、お前の仕業か!!?」
「さて、なんのことでしょう?」
「答えなさいっ!!」
「はい、私の仕業です☆ はっ!!バラしてしまいましたぁ!」
「いいから、早く止める方法を教えろ!!」
「‘消えろ’って念じれば消えますよ」
そんな簡単なのか?ええい、今はそれどころでは!!早くしないと俺の理性がっ!!
俺は目を閉じて、鎖を消すことに意識を集中した。
「(消えろっ!!)」
ポンっという音共に、鎖は簡単に消えていた。
二人は荒い呼吸でその場にうずくまっていた。
「ぶ~っ。なかなか良かったのにぃ~っ」
こいつ・・・絶対、中身は変態オヤジだーっ!!
「きっ、貴様ぁっ!!フィレス様にな、なんて事を!!」
リーザ、キミは何で腰に短剣ぶら下げて、しかも抜こうとしてるの~っ!!?
いや、気持ちはわかるけど。
ああ・・・自分が非日常に巻き込まれていくのが目に見えて、涙が出てきた。ついでに情けない声も出てしまった。
「ご、ごめんなさい・・・」
「!!?///・・・こ、今回はゆ、許しましょう」
「?」
なぜかわからないが、リーザは顔を赤くして目をそらした。
まあ、助かったのだろう。
「フィレスさん、大丈夫ですか?」
「あっ、はい、大丈夫です」
フィレスもまだ頬を染めながらも、なんとか復活してくれたようだ。俺は安堵の溜め息を吐いた。
「それでとりあえず、何故俺の頭の中に魔術の知識があるのか教えてくれないか、アリア?」
「睡眠学習です♪お嬢様が眠っている間に基本的な魔術の情報を、脳に直接送ったのですよ~。といっても、量は少ないので安心してください」
「なるほど・・・」
ふむ・・・まあ、それはいいとして(よくないが)、
「アリア、他の魔術を試せばよかったんじゃないかな~?」
俺は笑顔をひきつらせてそう聞く。
そして彼女から出てきた言葉は予想通り・・・
「面白そうだったからです♪」
「ア~リ~ア~」
「はい、何でしょうお嬢様?」
「お仕置きです☆フィレスさん、リーザさん。彼女を押さえていてください」
「はいっ!!」
「勿論です!」
ガシッと両肩を掴まれ、体を固定されるアリア。
「えっと・・・お、お嬢様、何を?」
スッとアリアのこめかみに握り拳を持っていき・・・
グリグリグリ~~ッ!!!
「イタタタタタッ!!!いたいっ!いたいです~~っ!!!」
そしてアリアの悲鳴は長い間、部屋から響いていた。
to be continued...
~あとがき劇場~(第七回)
正宏「今回ボクの出番ないっ!!」
直人「Hahaha!そんな時もありますよ、正宏君。ま、俺は主人公だからフル出場だろうけどな!!」
アリア「でも、油断してると‘グサリ’ですよ♪」
直人「うわあ!なんかそれデジャヴ!!」
アリア「ま、消されないように頑張りなさい、主よ」
正宏「ま、男の‘直人’としてはもう消えてるけどな♪」
直人「えっ!もう‘俺’の出番無し!!?」