第一章 #2【異なる世界】
新キャラ登場!!って、まだ二話なんですけど・・・
#2【異なる世界】
母から送られてきた荷物を開けると、中身は竹刀だった。
「竹刀?よっと・・・重っ!!」
箱から取り出して握ってみると、それほどではないが普通の竹刀より重く感じた。
“ウエイトが入っているのか?なにか仕掛けがありそうだな・・・”
「どれどれ、オジサンにも見せてくれ」
「あいよ」
正宏が触りたそうにしていたので、俺はその竹刀を渡した。
「なんじゃこら!?重すぎ!」
正宏は手に持った不可思議な竹刀に驚いていた。
「だよな・・・」
「絶対普通の竹刀じゃないで・・・何か中に入っているんとちゃうか」
確かに・・・今まで母から送られてきた物は、全部何かしらの仕掛けが施されていた。
・・・もちろん、使えない方向で。
「この前の‘死人も起きる目覚まし時計’だっけ・・・あれは酷かった」
「ああ・・・」
ネーミングセンスも最悪だが、確かにそのまま死人も起きる勢いだった。というか爆破によって死にかけた。
後片付けが大変だったぜ・・・
これ以上は思い出したくないよ。回想終了。
「まあ、これは叔母さんの作品じゃないんやろ?だったら大丈夫とちゃうか?」
「確かに危険はないと思う。今見つけたんだが、箱の中に竹刀を入れる袋と説明書が入ってたぜ」
俺は母と違って説明書まで用意して入れているその同僚の心意気に、母も見習って欲しいと思うばかりであった。
「「・・・」」
パラパラっと割と分かりやすいその説明書を見た正宏と俺は、やはり母と同類か・・・と後悔した。
§ §
結局、直人はその竹刀を持って、また明日という言葉とともに帰っていった。
直人が早く帰ってくれて良かった・・・
僕は直人が見えなくなるまで待ってから、急いで例の場所へと向かいつつ、携帯電話を取り出した。
「…はーい。俊美ですぅ。只今電話に出ることが出来ないですぅ。ピーっという発信音の後でお名前を…」
「居留守を使うな」
「むぅ~~。マー君がなかなか連絡くれないからですよ~寂しかったですぅ~」
なんか付き合い始めた恋人みたいなこと言っとる・・・
「スマン!ちょっと立て込んでいて・・・」
「分かってますよ~。直人君が来たんでしょ?何でかな~」
ギクッ!・・・俊美め、‘能力’使ったな。
「ゴメンナサイ。後でちゃんと説明します」
「分かればよしっ!」
なんとか納得してくれた。ってそんなことよりも、
「そんで状況は?」
「ん~それがね、庄太郎君が‘使徒’の一人を捕まえたハズだったんだけど・・・」
「だけど?」
「逃げられちった☆テヘッ♪」
ズザザザザーーッ!!!
吉本もビックリなほどに盛大にずっこけた。
「・・・だ・大丈夫?」
痛い・・・というか!!!
「何しとんじゃあ、お前等はーーっ!!!!」
「ひっ!しゅみませんでした親方ぁっ!!!」
あまりの出来事に頭が痛い・・・かんでるし・・・
「だってえ・・・‘使徒’の仲間がいきなり襲って来たんだよ~怖かったよぉ~」
‘使徒’の・・・!?
初耳だしっ!!
「ちょ、おまっ、‘使徒’の仲間だと!!被害状況は!!」
「庄太郎君が負傷したけど、美琴さんが手当てしてくれたから今は大丈夫・・・」
僕はホッと溜め息をつく。
もっと酷い状況になっていたかもしれないからだ。
「そうか・・・ご苦労だったな、俊美。怒鳴って悪かった」
「うん、気にしてないから大丈夫」
気にしてないというのは逆に問題だが・・・
「そんで、今そこに居るのは三人だけか?」
「うん、他の仲間には捜索に出てもらっているよ」
さすが俊美。頭がええだけのことはある。言動はアホだが。
「・・・なんか言った?」
「いや、賢明な判断やなって言うただけや。とりあえず僕もそこに行くわ。庄太郎に直接聴きたいからな」
「む・・・了解だよマー君」
「じゃ、後で」
「あ、ちょっ」
ピッ
・・・少し不機嫌そうだったが気にしない。
「さて・・・」
僕は転けた時にズボンに付いた汚れを取り、再び走り出す。
いやな予感がする・・・急がなければ!!
「絶対に逃がさねぇぞ、‘黒月の使徒’!!」
§ §
「・・・・・」
「・・・・・」
き・・・気まずい。視線が顔に突き刺さる・・・
キョロキョロと周りを見渡すが、俺以外にこの裏道には誰もいない。明らかに少女は俺をじっと見つめていた。
どうしよう、どうするよ、俺!!
―俺は正宏と家で別れ、袋に入れた竹刀を持って家路へと向かっていた。
・・・?
何気なく背後に気配を感じ、後ろを振り向くと・・・
白銀の長髪の少女がいた。
俺は目を疑った。なぜならば・・・彼女は裸足で立っていたからだ。
服装もおかしい。白い肌には合っているかもしれないが、飾り気の無さ過ぎる真っ白なワンピースを来ているだけのように見えた。
小学生だろうか?身長は140cm前後で瞳は青く澄んだ色をしていて、それは何もかも見通すような瞳だった。それでも小学生並みに胸は“ぺったんこ”だった。
瞳や髪の色から日本人でないだろう、それくらい俺にも分かる。
だがそれだけではない、その瞳を俺に向けて動かそうとしない。
俺は石化したように固まってしまった。
不覚にもその瞳と彼女の容姿に見とれてしまったのである。
・・・・・・・・はっ!!
いやいやいやいや、待て待て待て待て。
なに考えているんだ俺はロリコンではないぞ、決して、断じてっ!!
ロリコンな発想を払拭するために俺はブルブルと頭を振る。
すると、それまで無表情だった彼女がそんな俺を見て、クスクスと可愛らしく笑っていた。
俺は急に恥ずかしくなり、なんとか平常心を保とうと、彼女に聞いた。
「え、えっと~・・・俺になにか用かな?」
その問い掛けに答える前に、彼女はキョトンと不思議そうな顔をしていた。
『あら、やっぱり私のことが見えているのね』
透き通るような高くて可愛らしい声が俺の頭に響いた。
‘耳’からでは無く直接頭に響いたことにも驚いたが、俺はその答えに疑問を持った。
「‘見えている’って・・・どういうこと?」
この娘 は自分のことを幽霊だとでも言っているのだろうか。それに、‘やっぱり’とは?
『知りたいなら、私を捕まえてみて!』
彼女はそういうと、フワッと白のワンピースの裾をはためかせ、俺に背を向けて駆け出した。
「えっ!?ちょっと待って!」
彼女のいきなりの行動に驚いていた俺だが、何故か自然と体が動いて彼女を追いかけ始めた。
―すぐに追いつくと思っていたが、予想は外れていた。
走っても、走っても、彼女に追いつくことは無く、俺との距離を一定に保って前を走る謎の少女。
まるで俺の位置を把握しているかのように、走る速さは全くと言ってもいいほど一緒だ。
だがその時の俺はそのことに疑問を持たず、ただ目の前の少女に走りで負けたくないという思いだけで彼女を追っていた。
彼女にある場所に誘導されているとは知らずに。
§ §
ああ、なんて失態だ・・・
彼女の護衛として来たはずなのに、この有り様。
まさかこの世界に‘彼等’までもが来ているはずがないと思っていた。
―ある一人の人物を見つけること―
これが彼女と私が‘この世界’を訪れた理由・・・そして目的だった。
私の名はリーザ・アルバーノ。歳は15ではあるが、ローウェント家直属の騎士団に所属している。
そして今私が護衛している方が、フィレス・ローウェント様だ。
彼女は私と同い年なのだが、今回のようなローウェント家当主(つまりフィレス様のお父様)からの重要な任務を任されるほど優秀な‘魔術師’である。
一階の剣士である私には今回の任務の詳細は、フィレス様の護衛といえども伝えられていない。
あくまで私は彼女の護衛のみをすればよいのだが、フィレス様は幼少時代からの付き合いあって、私を慕ってくれていることから、 任務の内容の表面を教えてくださった。
ただその人捜しの任務は、どうやら私達の世界・・・‘魔法世界’の命運を左右するほどのものらしい。
‘魔法世界’・・・
私達が今いるこの世界を化学で発展した世界…‘化学世界’と位置付け、その‘化学世界’からでいうと私達の世界は魔術(術式魔法)で発展した世界であることから‘魔法世界’と呼んでいる。
というのも‘魔法世界’からこの‘化学世界’へ通じる‘ゲート’…端的に言うと時空断層が現れたのは半年前のことであり、他の世界があることを認知したのもその時で、こちらの世界では魔術という概念がないことから区別するために作られた名である。
‘ゲート’が突然現れた詳しい原因は不明…
だが、この世界を訪れた調査団により、魔術を行使するために使用する‘マナ’と呼ばれる自然エネルギーの空気中の密度が、私達の世界よりも濃いことが判明した。
何故マナ濃度が高いのかというと、この世界の人々は魔術の存在を知らず、全くといってもいいほどマナが使われていないという事が、一番の理由と定義されている。
ということもあって、私達は魔術を使えない。なぜなら空気中のマナ濃度が高くて、魔術を行使する時に使用するマナ量のコントロールが難しいからだ。
幸いなことに己の体内に蓄積しているマナを使用する‘身体能力向上型の魔術’は使えてはいるが・・・
「どうして彼奴等は魔術が使えるのよ~っ!!!」
・・・今、私達は謎の二人組に追われている。
§ §
この世界に来て3日たった今日・・・
さすがにそろそろその人物を見つけなければならないなぁ・・・
私、フィレス・ローウェントは焦りを隠せずにいた。
なんといっても私達の世界の未来がかかっている(らしい)のだから。
早朝、三日前から住処にしているアパートの一部屋から飛び出した私は、その人捜しに限界を感じていた。
「あ~、もうっ!何か手掛かりはないの!」
その人物がアパート周辺の何処かに住んでいることは確かなのだが、それでもその人物が持っているはずの強い魔力(体内に蓄積されたマナ量のこと)が感じられず、その人物を見つけ出すことは雲を掴むような話だった。
「お待ちください、フィレス様」
そう言って私を追いかけてきたのはリーザである。
彼女は私の昔からの無二の親友なのだが、騎士団に入ってからというもの、昔は気さくに私のことをフィーと呼んでくれていたのに今ではフィレス様と、なんだか他人行儀な呼び方をされて、最近はどうしても冷たく当たってしまう。
もちろん彼女は何も悪くはないのだが・・・
「ついてこないでリーザ。私のことはほっといて!!」
私は彼女に怒鳴り散らしてしまった。
こんなはずではなかったのに・・・
父上が彼女を私の護衛役として任命したのも、私達が親しい中であることを知ってのことで、この任務がかなりの責任を伴う任務であることからの、私への彼なりの気遣いだった。
でも・・・私はその重圧に心が押しつぶされそうだった。
私達の世界の命運が掛かっている・・・それなのにまだ見つかっていない。
「・・・」
彼女はしおらしく私の後ろをついてきている。私は彼女を無視しつつ、自分の行動に後悔していた。
私はなんて小さい人間だろうかと。
いくらこの歳でこんな任務を任されるほどの魔術師としての才能や能力を持っていても、相手を思いやる気持ちがないのは人としてどうかと思う。
・・・この世界にきて魔術が使えないことに不安を感じていた。そのこともあり、なかなか進展しないこの状況に魔が差して、リーザに八つ当たりしてしまっていた。
―だからこんな事態を招いてしまったのかもしれない―
to be continued...
次回、突然の“死亡フラグ(仮)!!”