#14【ミッション01-入学式その2】
#14【ミッション01-入学式その2】
『なんやて!?麦わら帽子の女の子が高さ4メートルもある裏門を飛び越えただって!!?』
教室へ向かうため廊下を歩いていると、風紀委員の委員長である風守 伊吹から突然念話で連絡が入った。
麦わら帽子の少女・・・あの時の!!
僕は登校中に見かけた少女を思い出し、彼女も麦わら帽子を被っていたことを思い出した。
『分かった。僕も鞄を教室に置いたらその娘、探しに行くわ』
ピッという電子音と共に、伊吹からの電話を切る。
えらいことになってきたで・・・
§ §
‘俺’に化けたアリアと分かれ、私は例の転移魔術を使い、校舎屋上に来ていた。
昨晩、転移魔術の練習を何回もした(そのついでに、アリアに普段の‘俺’の言動をみっちり教え込ませた)甲斐あって、無事に転移魔術を成功させた私は、誰もいない日陰にあるベンチに座り込んみ、被っている麦わら帽子を脱いだ。
「ふぅ・・・」
別段、体内魔力を使用したことで疲れが生じたわけではないが、転移魔術が上手くいくかどうか緊張して精神的な疲れを感じたのだ。
魔術を使うことになれないと、今後困るからなぁ・・・
そう思いつつ、目を閉じる。
こうすると、空気中のマナを感じることが出来る。
こうしてみると、確かに空気中のマナ密度が濃いっていう話も頷けるなぁ。そういえば、彼女達を追っていたという‘使徒’の連中は、どうして魔術を使えたんだろう。
う~ん、空気中のマナを魔術の使用時に体内に取り込む際、フィルターみたいなものをかけて制限してるとか。
いろいろ考えてみるものの、まだ魔術の知識の少ない私には全く分からなかった。
そういえば、私はどうなんだろ?ひょっとして長年この世界にいるから慣れたとか?
あるいはアリアによって、何らかの方法で制限されているとか?
あとでアリアに聞いてみるか・・・(彼女は聞いたことしか言ってくれないらしいからね。)
まあこのことは、このミッションが終わってから考えよう。(フィレス達と会うのもその時だし。彼女達のほうがアリアよりか近代の魔術について詳しいだろうから)
どうせ始業式だから早く終わるし、何か困ったことがあればアリアの方から念話が入るだろうし・・・
日陰となっているこの休憩スペースには、早朝の涼しい柔らかな風が流れていて、私に眠りを誘っているようだった。
「・・・寝ちゃおうかな」
昨晩の準備が徹夜だったせいでより疲れが増していたので、幼児化したこの体のこともあってすぐに眠りに落ちてしまった。
§ §
伊吹から連絡を受けた僕は廊下で俊美と合流し、人気のない裏庭を訪れた。
「よし、俊美、学内範囲で‘生体探知’をかけてくれ」
「了解ッス!」
俊美の‘能力’、‘生体探知’を使い、早速その謎の少女の居場所を突き止めることにした。
俊美はそう了承すると目を閉じ、意識を集中させて周りのマナに干渉しつつ、その索敵範囲を広げていった。
「みつ・・・けたよ、マー君!!場所は高等部東館の屋上!どうやら転移魔術を使用したらしく、その痕跡が残っていることからついさっきそこに移動したものだと思います!!」
「屋上?なんでそないな場所に居るねんな」
そもそも、その少女はこの学校に何をしに来たのだろうか・・・
そんな疑問を浮かべつつも、とりあえず彼女に会って話をしないと始まらないので、その屋上に向かうことにした。
もちろん、手っ取り早くが先決だ。
そのため僕自身の‘能力’である‘瞬間移動’を使い、美琴の手を握って一気に二人で移動しようとするが、美琴に手で腕を引っ張られ制止された。
「マー君、伊吹さんも連れて行こうよ。もしその少女がマー君がこの前見た白銀の髪の少女と同一人物だったら、何が起こるか分からないよ。伊吹さんがいれば心強いし」
「お、おう」
僕は美琴の提案に賛成すると、伊吹にこの場所に来てもらうように念話を入れた。
§ §
藤ヶ丘高校は中高一貫で私がその藤ヶ丘中学に通っていることもあり、いつもは一緒に登校しているけど、諸々の事情がありお姉ちゃん(直人兄)と一緒に登校できなくて落ち込んでいる雪音です。
・・・それにしても驚きました。
まさか祖父が・・・
――――――それは今朝のことでした。
「お兄ちゃん!朝だよ!」
表向き(とくにお爺ちゃん)には奈緒お姉ちゃん(昨日、女の子になったということで‘奈緒’に改名(?)したことを聞いたので)のことは秘密にしている。
お姉ちゃんの部屋の扉を開けると、すでに起きていた。
可愛い寝顔を見に来たのに・・・(泣)
「あ、おはよう、雪音」
「!!//// お、おはよう、お姉ちゃん」
でも、笑顔で朝の挨拶されたからいっか♪
あまりの可愛い笑顔に抱きつきそうになるのを抑えるの、苦労したけど。
「ごめんね、雪音。一緒に学校行けなくて」
「いいのいいの!仕方ないよ!」
お姉ちゃん、私を心配してくれている・・・
でも今一番大変なのはお姉ちゃんだから、私が心配かけたらいけない!
その後、朝食はどうしようかという話になってとりあえず私がこっそりこの部屋に飲み物とトーストを持ってくることになった。
そろそろと階段を下り食堂を見ると、珍しく祖父はすでに食べ終え居間で一服していた。
「雪音、直人は起きたか?」
朝早く起きた私によってすでに用意されたテーブルに置いてある朝食のトーストの乗ったお皿をそっとつかんだ私は、祖父にいきなり声をかけられビクッとなってしまい、つい片言で返答してしまった。
「マ、マダデス」
「そうか・・・」
危ない危ない。
振り向かれでもしたら、怪しい行動がバレるじゃないですか。
とりあえず、この危険地帯から早く脱するため、急いで移動した。
家を出るところは祖父に見せなければならないというお姉ちゃんの話から、玄関までアリアさんが変身して家を出るところを見せ
「行って参ります、お爺様」
「おう、気を付けて行くのじゃぞ」
ズガガガガガガ
な、なに今のお嬢様的な言い方!?
しかもそれをスルーする祖父!!
歳・・・なのかな・・・?
「い、今のは危なかった・・・」
おそらく今のやりとりを聞いていないであろうお姉ちゃんに、後で報告しなければ・・・
アリアさん・・・そこはふざける所じゃないですよ・・・
「あ、雪音。少し話があるんじゃが」
「はい、何ですか?」
アリアさんが家を出た瞬間を見計らったかのようなタイミングで、祖父は私を呼び止めた。
「直人のことなのじゃが・・・」
「え?」
「‘魔術’のことは・・・直人から聞いたのかね」
・・・はい?今、ナント仰リマシタカ?
「な・・・何のことかな?」
「そうか。まあ、儂が‘そのこと’を知っていることを、直人にはまだ教えんでくれんかの」
「ええっと・・・お爺ちゃんは何で‘そのこと’を知っているの?」
「それは儂が昔、魔法世界に住んどって、儂自身が魔術師だからじゃ」
・・・驚愕の真実が発覚。
‘魔術’のことを‘知っていた’だけでなく、魔術師だったの!!?
驚いて固まっていた私だが、ふと疑問に思った。
「でも私が魔術を使う事ができることに気付いたアリアさんは、お爺ちゃんのこと、何も言ってなかったよ」
「それは、常に体内魔力を完全に遮断していたからじゃ」
なる程。それで魔力の痕跡とかがなかったってことだね。
アリアさんの話では、魔術師は常に微量ながらも体内魔力を放出しているらしい。
それを遮断すれば、魔術師だと気付かないというわけだ。
さらに祖父は続けた。
「それに、四朗さん(私達の父)は魔術師ではないが、由希子(私達の母)は魔術師じゃぞ」
なるほど・・・何故私達に魔術の資質があるのかはこれではっきりした。
親が魔術師ならば、子も魔術師ってことか。
「・・・じゃが、直人だけはちと‘特殊’での。妹である雪音だけには知っておいてもらいたいのじゃ」
「?」
・・・そしてまた固まる私。
こんなの、お姉ちゃんに教えられる話じゃないよ・・・
「時期が来れば、儂から直接直人に話すから安心しなさい」
「は、はい・・・」
その話は、一週間後・・・お姉ちゃんが‘元’の姿に戻る日だったりする。
§ §
朝日が部屋の窓から射し込み、その眩しさで私は目覚めた。
「あれ・・・いつの間に寝ちゃったんだろう」
沢山の本が散乱する机の上の中から時計を見つけ、見てみると朝の8時を過ぎていた。
奈緒(直人のこと)が学校を終えて帰ってくるまでの間‘使徒’の対策について考えることにし、昨晩から徹夜であることについて調べていた私達は、いつの間にか机の上に突っ伏して眠ってしまっていた。
この世界での魔術の行使についてだ。
ローウェント家から歴史書や魔術についての本をこのアパートに持ってきてはいるが、何故彼等がこの世界で魔術を使うことができたかについてはさっぱり分からなかった。
「はあ・・・結局分からなかったなぁ・・・」
まだ机の上で寝ているリーザを見、彼女も頑張ってくれたんだなと思いつつも、この対策をとらなければ先に進めないことから思わず盛大な溜め息を吐いた。
「おっと、いけない。気持ちを切り替えた方がいいな」
そう自分に言い聞かせた私は彼女に毛布を掛けてやり、いつもは彼女が作ってくれる朝食を今日は私が作ることにした。
最近つらく当たっていたことへのお詫びと感謝の気持ちを込めてのことである。
昨日のこともあって疲れているであろう彼女を起こさないように注意しながら、私は朝食の準備を始めた。
§ §
一面に広がる青々と生い茂る草原。澄んだ青空。
風景は違うが、私はこの世界にあの時と同じものを感じていた。
「また来てくれたのね。うれしいわ」
そう言ったのは、真っ暗な世界で会ったあの少女だった。その声は今の私と同じ、澄んだ柔らかな声。
「もしかしてここは・・・私の精神世界?」
「そうよ。元々はこんな綺麗な場所だったの。あの時はアナタが危険な状態にあったから、あんな真っ暗な世界だったのよ」
・・・なるほど。
それじゃあ、彼女は‘もう一人の自分’ということ?
「う~ん・・・半分正解で半分不正解ね」
「どういうこと?」
「今はまだその答えをアナタに教えることはできないの。これは自分自身で見つけ出さなければならない‘答え’だからね」
曖昧な答えを返された私は少しうなだれたが、「きっとアナタなら、その‘答え’を導き出せるわ」という彼女の励ましの言葉で少し元気がでた。
「あ、あとアリアがいない間、何かと不便だろうから身体強化魔術の知識とその感覚的な解釈をアナタに‘返す’わ」
え?今、‘返す’って言った?
それって・・・
「じゃあ、またね♪」
「えっ、ちょっと待っ・・・」
またもや突然辺りが光り出し、私は現実へと引き戻されていくのだった。
§ §
「えっ・・・」
目を覚ますと、目の前に意外な人物がいた。
「私はこの高校の風紀を任されている、風守 伊吹だ。キミは何者だ?」
さすがに外見が小さい女の子だけあってその腰に差している木刀を突きつけたりはしないんですね、伊吹さん。
でも普通の女の子ならそんな殺気を当てたら泣いてしまいますよ。
私も別の意味で泣きそうになったが。
私の周囲には伊吹さんの他に、私の親友の正宏、同じクラスの篠崎 俊美さんがいた。
・・・この状況、どうよ?
to be continued...